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Posted by ミリタリーブログ  at 

2011年01月26日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 11

セルフ大尉は、ニール軍曹のPRC-148を使って、付近にいるであろうSealsに向けて通信したが、無線機は、沈黙を保っていた。セルフはあきらめず、2度、3度と通信を試みた。やがて非常に小さい声だが、「こちらSeals小隊。山頂の敵多数のため、現在、退避中・・・・・」。とマイクから聞こえた。

セルフは、「こちら、レンジャー。現在、山頂で敵の攻撃を受けている!至急、引き返して応援を頼む!」と、意気込んで無線に怒鳴った。だがSealsからはまったく返事がなかった。セルフ大尉は、無線機を地面に叩きつけた。

(どうもSealsは、撤退を優先に考えていたようです。このことが、のちにレンジャーとSealsの間に確執を生んだようです。小説Navy Sealsのはしがきでも、著者のクリス・オスマンはそんな感じなことを書いていますし、アナコンダ作戦の記述もあっさりしています)

夜が明けた。50メートル先のアルカイダのタコツボの輪郭もはっきりしてきた。山の岩肌を巧妙にくりぬき、カモフラージュされており、全長は、100メートルくらいありそうである。ちょうど、セルフ大尉たちが隠れている岩場を扇方に囲むように造られていた。

このころになると、アルカイダたちもチヌークに人がいないこと、さらに岩場にセルフたちが隠れていることに気がついたようで、AKの射撃から手榴弾による攻撃に切り替えてきた。しかし距離が50メートルも離れているため、すべて岩場の手前に落ち、雪を舞い上がらせるだけであった。それに対し、ウォーカー軍曹は、自分のM4についているM203で応射した。こちらはタコツボまで届き、何人かのアルカイダを吹っ飛ばした。

「大尉!奴らはグレネードを恐れて、近寄って来ねえが、弾はあと10発しかねぇ。早く決着をつけねえと」。ウォーカーが叫んだ。そんなことはウォーカーに言われなくともセルフ大尉には分かっていた。しかし、負傷者をおいて退却するわけにも行かず、かといって司令部とも連絡が取れず援軍も要請できなかった。

セルフ大尉は、CCTのヴァンス軍曹に怒鳴った。「とにかく、全部の周波数に援軍要請を送れ!空軍だろうが、海兵隊だろうがかまわん」。

ヴァンスは、無線機を操作して、あらゆる周波数にSOSを送った。無線はしばらく無言だったが、やがて「・・・・こちら海兵隊第3航空小隊。SOSを受け取った。貴軍の所属を求む・・・」。と返ってきた。岩場のレンジャーたちに、わずかに安堵の表情がみえた。どうやら付近を海兵隊のホーネットが飛行しているようである。

すぐにヴァンスは、「こちら、レンジャー緊急即応小隊。タクール・ハー山頂で敵の攻撃を受けている。至急、空爆を求む!」と大声で応えた。すると海兵隊のパイロットは、「悪いが、こっちはその空爆の帰りで、今は手ぶらだ。だが機銃掃射してやる。すぐにそっちの座標を教えろ」。と返ってきた。ヴァンスはGPSと無線機を接続すると、ホーネットに送信した。

アルカイダたちは、相変わらず手榴弾を投げている。
「早く来い。急いでくれ」。岩場のレンジャーたちは全員思った。やがて甲高いジェットエンジンの音が遠くに聞こえた。「待たせたな。お前らの真上に来たぞ。だが、こっちは上空5000メートルだ。お前さんたちの正確な位置が分からん。一度急降下する」。

その直後、耳をつんざく高音がしたかと思うと、F-18ホーネットが山頂をなめるように飛行した。突然の爆撃機の飛来にアルカイダたちは驚き、いっせいに空に向けてAKを射撃ち始めた。

ヴァンスは、すぐにパイロットに通信し、「位置を把握したか?一番大きな木が見えたはずだ。これからその木を盆栽と名づける。盆栽を中心に掃射してくれ」。するとパイロットは、「ボンサイ?なんだそりゃ?」。とのんきに返してきた。

ヴァンスは、パイロットのくせに、盆栽も知らないのかと、わけも分からず腹が立ったが、「盆栽の説明は、あとでいくらでもしてやる。とにかく敵を蜂の巣にしてくれ」。パイロットからは「ラジャー」とだけ返事があった。


次回更新は、2月2日「タクール・ハーの戦い」です。お楽しみに。
ご意見、ご質問をお待ちしております。

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Posted by 友清仁  at 07:01Comments(0)Story(物語)

2011年01月19日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 10

2つの赤い斑点は、レンジャー達が隠れている岩場へ向けて、フラフラと近寄ってきた。セルフ大尉とウォーカー軍曹は顔を見合わせたが、答は出なかった。とにかくセルフは、「撃て」。と短くいい、M4のトリガーを引いた。

ウォーカーも呼応するように、斑点に向けて射撃した。すぐに赤い斑点は地面近くに落ち、まったく動かなくなったが、相変わらず不気味に光っていた。ギリアム、デポォーリ軍曹の2名が斑点の下へと近寄ると、驚くべきものを見つけた。

なんと、アメリカ軍の3カラーデザートBDUを着た死体であった。付近には、ナイトビジョンゴーグルが落ちていた。赤い斑点は、ナイトビジョンが反射していたのである。

死体をさらに調べると、胸元には、「Roberts(ロバート)」と刺繍されたネームタグを見つけた。ギリアム、デポォーリ両軍曹の顔が硬直した。俺たちは、味方を撃ち殺してしまったのか・・・。

「大尉、我々は、大変なことをしてしまいました。味方の、ロバート軍曹を撃ち殺してしまいました。赤い斑点は、ナイトビジョンでした」。ギリアム軍曹は、無線で力なく言った。

セルフ大尉は、唇を噛みながら、両軍曹の方向をしばらく見ていたが、「あの状況ならば止むを得ない。射撃命令を出したのは私だ。私が全責任を負う。とにかく今はロバート軍曹の遺体を、この岩場まで運んでくれ」。

しかしセルフ大尉は疑問に思った。ロバート軍曹は、単なる歩兵ではない。厳しい訓練をつんだSealsである。暗闇の中の、敵か味方か分からない銃火に向かってフラフラと歩いてくるだろうか・・・。どんなに負傷して、気が小さくなっていても、敵味方の確認ぐらいはするはずではないか・・・

やがて軍曹たちがロバート軍曹の遺体を持って帰ってきた。セルフ大尉は、せめて顔ぐらいはきれいに拭ってやろうと、ライトを顔に照らした。次の瞬間、岩場にいた全員が驚いた。3カラーのBDUを着ているのは、明らかにアラブ人であった。さらによく見ると、ロバート軍曹のタクティカルベストも着用し、PR-148無線機もベストに収まっていた。

「どうゆうことだ」。セルフ大尉は、混乱した。真っ先に考えたのは、敵の欺瞞工作に引っかかったのではないかということである。つまり、ヘリはどこかに墜落したのかもしれないが、そこにロバート軍曹はいなかった。このBDUと無線は、アルカイダが以前にどこかで入手したもので、アルカイダは、これらを使って偽情報を司令部に送り、応援部隊を要請し、そして現在の状況になっている・・?
 
しかしこれも疑問が残った。仮にロバート軍曹がヘリから落ちたと司令部に連絡が入っても、司令部でも派遣部隊に誰がいるかぐらいは調べるだろう。その時点で偽情報と気づくはずである。

「どうゆうことだ」。セルフはもう1度考えた。しかしどう考えても結論は出なかった。あたりはだんだん明るくなってきた。日が昇れば、レンジャー小隊は白昼にさらされ、敵の一斉攻撃を受けるだろう。危機が迫りつつある。

そのときセルフの脳裏に、士官過程での、教官の言葉がよぎった。「前線の指揮官は、希望や予想で行動してはならん。危機的な状況であるときほど、現状を分析して最良の手段を決定し、部下に命じるのだ」。

セルフ大尉は、ロバート軍曹の無線機を掴むと、「こちらレーザー01のレンジャー小隊。付近にレーザー02のSealsはいるか。応答せよ」。と繰り返した。

山頂を占領するために編成された部隊は2つあったはずである。そのうち1つのレーザー02に乗っていたSealsはどこかにいるはずで、協働すれば、危機を脱出できるとセルフは思ったのである。


次回更新は、1月26日「タクール・ハーの戦い」です。
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Posted by 友清仁  at 07:02Comments(0)Story(物語)

2011年01月12日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 9

セルフ大尉は、ヘリ後部から飛び出すと、すぐに岩場に滑り込んだ。すでに岩場にいる部下たちに言葉をかける間もなく、周囲の状況を確認した。

まだ日が昇りきっておらず、あたりは薄暗かった。ヘリの右舷15メーターの位置には、スビタク軍曹のミニガンで射殺されたと思われるアルカイダ兵の死体があった。さらに2時方向には、何本かの木が立っており、その向こうに、アルカイダのタコツボ陣地があるようだった。

地面すれすれの位置に、銃火がいくつも見えた。おそらくあそこがアルカイダの本拠地なのであろう。しかし、たくみにカモフラージュされた陣地は、規模も、そしてどれくらいの兵力・火力があるのかも分からなかった。

テロリストたちは、そのタコツボ陣地から、ヘリに向けて盛んに射撃を加えてきた。いまだにヘリ内部に兵士がいると思っているのか、向こうもあたりの様子が分からず、やみくもに撃っているだけかもしれなかった。

とにかく、タコツボの大きさと兵力を量らないと、反撃も援軍要請もできないと思ったセルフ大尉は、ランカスター軍曹にチヌークの右側に回り、タコツボの大きさを見るように命令した。

「どうやら、少なくとも1日はこの場所に釘付けだ・・。もしかしたら俺の死に場所かもしれない・・」。セルフ大尉は思った。これから日が昇り、あたりが明るくなってくる。アルカイダも岩場に隠れているアメリカ兵がわずかだと知れば、容赦なく攻撃を加えてくるだろう。たとえ援軍を呼んだとしても、チヌークの大きな機体は、RPGの格好の餌食である。
「夜が空けきる前に、決着をつけねばならん・・」。セルフ大尉は、あせっていた。

相変わらず敵のタコツボからRPGが何発も発射されていた。岩場で身をかがめているレンジャーたちの頭上を何発も飛んでいった。そのうちの1発が墜落したチヌークのわずか10メーターのところで炸裂した。ロケット弾の破片が当たり一面に飛び散り、運が悪いことにその破片の1つがヘリ左舷をほふく前進していたランカスター軍曹の左ふくらはぎに食い込んだ。ランカスターは、その場から動けなくなってしまった。

すぐにウォーカー軍曹が駆け寄り、岩場へと引きずって戻った。悪いときには悪いことが重なるものだと、セルフ大尉は、心の中で舌打ちした。セルフは、他の部下たちにケガがないか確認するために、振り返ろうとすると、太ももに激痛が走った。みると、自分のBDUから血がにじんでいた。しかし戦闘での緊張のためか、それ以後、痛みを感じることはなかった。

部下たちに自分のケガのことは黙っていることにした。多くの重傷者、戦死者がいるこの状況で、隊長である自分がしっかりしなければ、部下を生還させることなど不可能だと思ったからである。

セルフは、岩場の影から2倍率のエイムポイントをのぞいて、敵情を観察した。相変わらず銃火がみえた。敵は弾丸のストックなどまったく気にしていないかのようであった。

その中で赤い斑点が2つ、敵のタコツボ付近を、並んでフラフラと漂っているのが見えた。あたりはまだ暗いので、よく分からない。しかし2つの斑点は、まるで映画「ターミネ―ター」のロボットの目が動いているようであった。
「なんだ、あれは?」。セルフは隣にいたウォーカー軍曹に言った。


次回更新は、1月19日 「タクール・ハーの戦い10」です。お楽しみに。
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2011年01月05日

タクール・ハーの戦い8 Takur Ghar 8

一方、チヌークのパイロットたちである。
正操縦士のチャックは、すでに銃弾を受けて戦死したが、副操縦士のグレック大尉およびナビゲータのドン軍曹は、かろうじて生き残っていた。

コックピット付近にいたドンは、ヘリの風防ガラスに次々と弾丸が命中するのを見た。ドンは、26年間の軍人生活の中で初めて、自分に銃弾が向かってくる経験をした。ドンは、シートベルトをはずし、ヘリクルーの護身用のMP5をつかむと、格納区画へ移動した。

ヘリが不時着すると、アルカイダが前方の塹壕をぴょんぴょん移動しているのがチヌーク副操縦士のグレック大尉には見えた。すぐにそばのM4をつかむと、風防ガラス越しに撃った。コックピットからの銃撃に驚いたアルカイダは、すぐにタコツボにもぐりこみ、あとは銃だけ出してあてずっぽうに撃ち始めた。

・・・何てこった、最悪のシナリオだ・・・。グレックは半ばやけくそになってM4を撃つと、シートベルトをはずし、格納区画へ移ろうとした。

やがてアルカイダは、コックピットの敵がグレック一人ということが分かると、集中的に射撃を加えてきた。コックピットの防弾ガラスに銃弾がビシビシといくつも当たり、やがてガラスが砕け、内部の機器に命中した。機器のなかには、煙を上げるものもあった。

すでに死んでしまったと思った正操縦士のチャックは、虫の息であったが生きていた。彼は最期を悟ったのか、「俺にかまわず、早く逃げろ・・・」とわずかに言うと息絶えた。

それを見たグレックは、同僚の遺体がこのまま、銃撃の中で、切り刻まれるのを見捨てるわけにはいかず、コックピットのドアの上にある黄色い緊急脱出レバーを思いっきり引いた。ぐわんっと音がしてチャックの右側のドアが外れ、チャックは座席ごと雪中に放り出された。

チャックが転げ落ちるのを見て、グレックも同じように脱出するのがよいと思い、自分も緊急脱出レバーを引こうと手を伸ばしたとき、何かものすごい力が左腕に加わるのを感じた。左手に激痛が走ったが、すぐにレバーを引こうと手を伸ばした。しかしレバーの感触がなかった。

おかしいと思い、左手を見ると左腕が根元からなくなっていた。見ると、足元に自分の左腕が転がっていた。残った右腕で拾い上げると、腕から煙が上がり、鮮血が勢いよく出ていた。おそらく重機関銃の銃弾が当たり、グレックの腕を引きちぎったのだろう。

グレックは、もはや脱出レバーが引けないことが分かると、体をねじって、コックピットから抜け出した。残った右手でM4のグリップをつかむと、操縦桿の上にバレルを乗せ、フルオートでアルカイダに向けて銃弾を放った。全弾を撃ち終えると、ヘリ後部へ移動し、そこに格納されている止血帯で残った腕を縛った。

グレックがあたりを見ると、ヘリの格納区画ではPJのカニングハム軍曹とその助手のクロイ軍曹が懸命に負傷者の手当てをしていた。

さらに1発のRPGがコックピットに命中した。機体全体に衝撃が走り、グレックもバランスを崩した。倒れまいと、手を出そうとしたが、すでに彼の左腕はなく、そのまま床に倒れた。

グレックが倒れたのが、視界に入ったのか、カニングハムは、グレックに気がついた。カニングハムは、すぐにグレックの元へ行き、手当てを始めると、「オレは、もういい。チャックは、まだ生きている。やつは外にいる、早く助けてやってくれ。」とグレックは言った。「しゃべらなくていい。家族のことを考えろ」。カニングハムはそう言うと、手当てを続けた。

銃声が途切れることなく続いている。

「みんな戦っている。俺も戦う。だがオレは腕をなくしちまった。俺にできることは、これだけだ」。グレックは、カニングハムの手を振り払うと、ゆっくりと立ち上がり、チヌークに搭載されている無線機PRC-122のハンドマイクをつかんだ。

「こちらレーザー01。本機は墜落した。現在、敵の激しい銃撃を受けている。死者、重傷者多数。至急、援軍を送れ」。「現在、2時および9時方向より攻撃を受けている。航空支援を・・・」。

激痛に耐えながら、グレックは2回繰り返した。そして無線のそばにあった灯標信号を2つ点火し、外に放り投げると、そのまま崩れ、息絶えた。

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