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Posted by ミリタリーブログ  at 

2011年03月30日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 18

山頂のセルフ大尉らレンジャーたちは、再び岩場に押し込められた。「もう少し火力があれば、制圧できた・・」。レンジャーたちは、苛立った。進むもならず引くもならず・・そんな状態に追い討ちをかけるように、チヌーク内のPJのハニンガムから、「輸血や点滴などの医療品が底をつきます。負傷者を一刻も早く搬送する必要があります」。と無線が入った。セルフには、次に打つ手がなく愕然とした。

しかし、その危機的な状況であっても、指揮官であるセルフ大尉は、冷静に敵情を分析した。
先の一斉攻撃で、敵の反撃を受けたものの、その射撃は統制が取れたものではなかった。おそらく空爆により、敵の指揮官、少なくとも射撃統制をする士官クラスの多数は戦死したのだろう。
統制された射撃でなければ、どんなに銃口が多くても、恐れる必要はない。しかし、レンジャーたちも兵力が足りなかった。

アルカイダも被害確認と部隊再編成に取り組んでいるのだろうか、しばらくの間、不気味な静寂が続いた。

セルフは、敵のタコツボの観察を続けた。タコツボの中央にマシンガンが据え付けられていて、セルフたちを串刺ししようと、岩場に銃口が向いていた。それ以外は、AKを持ったアルカイダがぽつぽつ見える程度であった。

「セルフ大尉、待たせたな」。セルフの肩をつかむ者が言った。セルフが振り返ると、顔中を汗まみれにしたエスカーノ大尉がいた。待ちに待ったレーザー02のレンジャー15名が山頂に到着した。

エスカーノ大尉の率いるレーザー02は、雪中の急勾配を上ってきたせいか、激しく疲労していた。「急いで来たんでね、しばらく休ませてくれ」。エスカーノ大尉はセルフに言った。

30分ほど休憩すると、セルフ、エスカーノ両大尉は、敵情と攻撃方法について打ち合わせた。セルフが、敵は銃口こそ多いが射撃統制がないこと、空爆でかなりの被害が出ていることをエスカーノに伝えると、「歩兵教則の基本、ムーブアンドシュート(Move and Shoot)で、タコツボを攻略しよう」。2人は、部隊を10名ずつの2つに分け、一斉攻撃することにした。

「3、2、1、GO!!」セルフが号令をかけると、20名のレンジャーはいっせいに岩場を飛び出し、瞬時にエクステッドライン(横一文字)に展開した。

「ファイア、ファイア、ファイア」。エスカーノ大尉指揮下の10名は、叫びながら膝をついてタコツボに向けてM4を放った。その一方で、「ムーヴ、ムーヴ、ムーヴ」。とセルフ大尉は、10名のレンジャーに号令をかけ、こちらもM4を撃ちながら、ゆっくりと前進した。10メートルほど進んだところで、立場が逆転し、今度はエスカーノ大尉の部隊が前進した。

アメリカ軍の突然の反撃、さらにフォーメーション攻撃にアルカイダたちは驚いた。
小刻みに移動と射撃を繰り返し、どんどん迫ってくるレンジャーに対し、タコツボの機関銃手は、銃口を左右に振るばかりで、トリガーを引くことができなかった。他のAKのアルカイダも同様で、迫りくるアメリカ軍の迫力に、武器を棄てて逃げ出す者もいた。

あと15メートルのところまで近づくと、「グレネード!!」。セルフ大尉は号令をかけ、セルフ以下10名は一斉に手榴弾をタコツボに向かって投げた。手榴弾全部がタコツボに吸い込まれるように入り、大爆発を起こした。

少し遅れて、エスカーノ大尉の部隊も同様に手榴弾を投げた。こちらもタコツボで大爆発を起こした。その後、タコツボから応射がなくなった。

あれだけレンジャーたちを苦しめたタコツボ陣地は、ついに沈黙した。

次回更新は、4月6日「タクール・ハーの戦い」です。
ご質問、ご意見をお待ちしております。


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Posted by 友清仁  at 07:01Comments(3)Story(物語)

2011年03月23日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 17

アルカイダ司令官ハザラト・アリは、タコツボ陣地の司令部から対空砲がある陣地まで伝令に向かった。アリ自身も先の空爆でわずかに鼓膜が傷ついたせいか、三半規管が麻痺しているようだった。タコツボ陣地を結ぶ狭い塹壕をすばやく移動できなかった。うしろには、アリの腹心たちがぞろぞろとついてきた。

待ち伏せ攻撃ですでにチヌーク2機と数名のアメリカ兵を倒しているがアルカイダも無傷ではなかった。タコツボの周囲には兵士の死体がいくつもあり、塹壕には負傷した兵士が何人もうずくまっていた。

「どけ!道をあけろ!」。アリは怒鳴りながら進んだが、彼らは、手当てを受けていないため、動くことができないようだった。アリは、やむお終えず負傷者を踏みつけて進んだ。いつもの倍の時間をかけて、対空砲陣地までたどり着いた。

「ミサイルは、山頂の対空砲の熱を感知できるか?」。ハーゲンベック将軍は、航空参謀に尋ねた。「3000mの高地で、周りに雪があるくらいです。対空砲の発射熱は十分感知できます」。ハーゲンベックはやや安堵したようで、「上空のF-15に連絡。しばらく対空砲の上を飛び回って遊んでやれ」。

「ヘルファイアミサイル発射・・・・・・・・・。ミサイルは熱源を捕捉。命中まで10秒。9、8、7・・・・」。無人偵察機プレデターのオペレータは、静かに言った。ガルディーズの司令部の全員が、山頂の状況を写すスクリーンを凝視した。

アルカイダ司令官ハザラト・アリは、空に向けて盛んに射撃している対空砲に、「射撃を止めろ。止めるんだ」。と怒鳴った。しかし、対空砲の発射音がすさまじく、射手と装てん手には聞こえないようだった。

アリには、今までの戦闘の経験から、アメリカ軍は対空兵器にはミサイル攻撃をしてくることを知っていた。さらに対空砲に近づき、射手の肩をつかんで、「射撃をやめろ。アメリカ軍のミサイルが飛んでくるぞ」。

アリが怒鳴った瞬間、頭上からヒューンと空気を切り裂く音が聞こえた。見上げると大きな円柱の物体があった。それがアメリカ軍のヘルファイアミサイルだと、アリには分かった。その1秒後、ミサイルは正確に彼の頭上に落下し、体を押しつぶしてしまった。アルカイダ司令官ハザラト・アリに、まさに地獄の大鉄槌が下された。

地獄の大鉄槌が下されたあと、すぐに地獄の業火(ヘルファイア)が山頂を襲った。ミサイルの炸薬燃焼温度は数千度である。落下地点にいた者は、逃げる間もなく焼き尽くされた。

ミサイル着弾の瞬間、セルフ大尉たちは、ずーんと地響きを感じた。そのあと、周りが赤くなったかと思うと、大爆発が起こった。しばらくしてセルフは再び岩場から顔を出すと、対空砲を隠していたボンサイと名づけた大木は、葉や枝が吹っ飛び、黒焦げの幹だけを残していた。落下地点は、ボンサイ以外に燃えるものがなかったせいか、火はなかった。同時に動くものもなかった。

セルフ大尉は、正面のタコツボ陣地を占領するのは今しかないと思い、「突撃!」、とレンジャーに命令した。セルフ大尉らレンジャーたちは、いっせいに岩場を飛び出し、タコツボに向かって走った。

あと20メートルでタコツボにたどり着くかと思ったとき、アルカイダのマシンガンの銃弾がレンジャーたちの足元に跳ねた。地獄の業火の中を生き残ったアルカイダがいたのである。マシンガンの銃声に呼応するかのように他のAKも火を噴いた。多勢に無勢、セルフ大尉たちは、再び岩場に退避せざるを得なかった。

次回更新は、3月30日「タクール・ハーの戦い18」です。おたのしみに。
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Posted by 友清仁  at 07:03Comments(3)Story(物語)

2011年03月17日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 16

お詫び
私のつまらぬ感傷のため、本ブログを楽しみにしていただいた方々の期待を裏切るかたちとなり、本当に申し訳なく思います




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「アメリカ軍は、エサに食いついたぞ。岩場のやつらは放っておけ。やつらを助けに来る援軍を叩き潰すのだ」。アルカイダ司令官ハザラト・アリは言った。

山頂付近に展開した大小のタコツボ陣地から、エスカーノ大尉の部隊およびSealsの情報が、無線や伝令でアリのもとへ頻々と集まってきた。「弾丸のストックなど気にするな。どんどん使え」。

アリも兵士たちも生還など考えていない。一人でも多くのアメリカ兵を殺すことに、残りの生きる時間を費やすつもりである。

岩場に隠れているセルフ大尉からは、正面のタコツボ陣地から各タコツボへ伝令が走っているのが見えた。「クソッ」。セルフは拳を地面にぶつけた。自分たちのために、味方が危険に晒されているのである。

セルフは、再び無線で、「私の正面にあるタコツボに敵司令部があるようです。そこから各陣地に命令が飛び、敵は組織的な戦闘をしています。司令部を叩かない限り、状況は変わりません。山頂を空爆してください」。

ガルディーズ司令部のハーゲンベック将軍は、正面のスクリーンを凝視していた。空爆するべきか迷っているようである。F-15に搭載されているMK84-500ポンド爆弾の破壊影響範囲は400mであった。セルフたちから敵タコツボまでわずか50メートルである。誤爆の危険性は十分にある。かといってセルフ大尉たちを退避させることもできなかった。負傷者が多すぎるのである。

「爆破範囲を考えれば、誤爆の可能性がありますが、誘導装置を使った場合の半数必中界は3mです。セルフ大尉たちが岩場に隠れていれば、誤爆しても損害はありません」。
司令部の航空参謀が言った。ハーゲンベックは、航空参謀をしばらく見つめると、無線のハンドマイクのスイッチを入れ、「セルフ大尉、貴官の進言を容れて、山頂を空爆する。だが誤爆の危険性は十分にある。岩場から絶対に動くな」。

数分後、タクール・ハー山頂に2機のF-15が飛来した。パイロットは、山頂のCCT、ヴァンス軍曹からの座標を爆弾の誘導装置に入力するとすぐに爆弾を放った。

2発の500ポンド爆弾が山頂付近に着弾し、大爆発を起こした。岩場のセルフたちは、爆発で鼓膜を破られないように耳を覆い、うずくまっていた。爆発の直後、大量の土砂や雪がセルフたちに振りかかかったが、岩のおかげで爆風と熱に晒されずに済んだ。

降りかかる土砂が落ち着くと、すぐにセルフ大尉は、敵のタコツボを見た。タコツボ陣地の右側の地面が大きくえぐれ、地表が現れていた。しかし爆弾は、タコツボからわずかにずれていたようで、陣地にさほどダメージを与えていないようであったが、アルカイダ戦闘員のほとんどが鼓膜を破られたようで、ヨタヨタと歩いている姿が見えた。「爆弾は、陣地に命中せず。しかし敵戦闘員に影響大」。セルフは司令部に報告した。

突然の空爆に驚いたアルカイダは、秘蔵のソ連製対空砲を空に向けて撃ち始めた。しかし、旧式の対空砲で音速の爆撃機を捉えられるわけもなく、闇雲に空に向けて撃っているだけであった。

タコツボの最深部にいたアリは、かろうじて鼓膜を破られずにすんだ。周囲が静まると、対空砲の激しい咆哮が聞こえた。

「対空砲をやめさせろ」。アルカイダ司令官ハザラト・アリはすぐにタコツボから飛び出して怒鳴ったが、空爆で鼓膜を破られている部下には聞こえなかった。アリの作戦では、対空砲はあくまでチヌークなどのヘリをたたき落とすためのものであり、防空に使うつもりはなかった。

しかし、アリがどんなに怒鳴っても、耳の聞こえない彼らは、ぽかんとアリの顔を見るばかりで、誰一人として対空砲へ伝令に走らなかった。アリは、自ら伝令に走らねばならなかった。

対空砲の発射音を聞いたセルフ大尉は、すぐに空に向けて対空砲が火を噴いていることを確認し、「将軍、敵は対空砲を撃っています。位置が分かりますか?」。と無線で言った。ハーゲンベック将軍は、「はっきりと分かった。もう1度、爆撃する。そこを動くな」。

「ヘルファイアミサイルのレーダーを熱感知に切り替えて発射せよ」。司令部の航空参謀は、無人偵察機プレデターのオペレータに命令した。

次回更新は、3月23日 「タクール・ハーの戦い 17」です。


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Posted by 友清仁  at 06:47Comments(2)Story(物語)

2011年03月09日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 15

一方、レーザー02のレンジャーである。
このレンジャー部隊を統率するのは、オスカー・エスカーノ大尉である。エスカーノは、湾岸戦争時はまだ新米少尉で、戦場すら行かなかった。その後、サウジなどの中東諸国で訓練を行ったことはあるが、実戦は初めてであった。

初めての実戦でありながら恐怖心はさほどなかった。チヌークのエンジンの振動も、ハッチから見える眼下の風景も訓練時となんら変わることがなかった。「恐れることはない。実戦でも訓練と同じことをすればいい」。と念じた。

エスカーノ大尉は、それでも訓練と実戦とは違うのだと自らに言い聞かせるため、胸のポーチからペンを取り出し、左手に「God bless U.S.A.(神の加護あれ)」、右手に「911(9・11の意)」と書いた。チヌークの振動も眼下の風景も変わることはなかった。

「まもなく着陸地点到着します。お客様はシートベルトを締めてください」。
チヌークのパイロットからの無線であった。実戦では誰しもが緊張する。普段はくだらないと思う冗談も、このときばかりは心地よかった。「降下用意!装備確認」。エスカーノ大尉は部下に怒鳴った。

チヌークがどんどん高度を下げていった。アルカイダは、再度、獲物をしとめようとRPGを撃ってきたが、500m以上離れているため、すべてが見当違いの方向に飛んでいった。チヌークの左右のミニガンが火を噴いた。すさまじい火力に、アルカイダはタコツボから頭を出すことができず、再び銃だけを出して、「めくら撃ち」をはじめた。

パイロットのスレイマン中尉は、このまま着陸すらできるのではないかと思ったが、その一瞬後、松の大木の下で対空砲の砲身がゆっくりとこちらに回転しているのが見えた。

「12時方向、対空砲あり!退避!」。そう叫ぶと、操縦桿を思いっきり引いた。機内は、ジェットコースターのように揺れ、レンジャーたちはヘリの壁に押し付けられた。その直後、対空砲の火箭がチヌークの下に走った。一瞬遅れていれば、レーザー02も、アルカイダの対空砲で串刺しになるところであった。

間一髪、危機を乗り越えたレーザー02は、「松の大木の下に対空砲あり。予定着陸地点には、着陸は不可能。指示を待つ」。と司令部に打電した。ハーゲンベック将軍は、「レーザー02は、安全に着陸できる地点まで退避し救出部隊を下ろせ」。と命令した。レーザー02は、山頂から5キロ下に降下して、レンジャーたちを下ろした。

ハーゲンベックは、エスカーノ大尉に、「大尉、その場所まで、山頂のセルフ大尉たちと負傷者たちが下ってくることができるか?」と尋ねた。
エスカーノは、山頂を見上げ、「途中、急斜面や雪が深いところもあり、負傷者をかかえ戦闘しながら移動するのは不可能です」。と返した。さらに、「山頂の対空砲や陣地を始末しない限り、ヘリによる撤退は難しいと思います」。と続けた。ハーゲンベックは、至急、山頂のセルフ大尉たちと合流するように命令した。

そのころになると、退避していたSealsも山頂を目指し行動を開始したが、アルカイダの巧みに構築されたタコツボ陣地に阻まれていた。アルカイダは、AKによる射撃に加え、迫撃砲を撃ち込んできた。その距離はわずか500mである。仰角は、ほぼ直角である。命中精度は、お世辞にも良いとはいえないが、それでもSealsたちの急造陣地の30~50m付近には絶えず落下していた。

アメリカ軍は、GPSを使って、はるかに離れたところから針の先ほどの地点に何トンもの爆弾を落とすことができるが、GPSがなければ目標付近に落とすことさえ難しい。

それに対しアルカイダは、わずかな距離でも命中こそできないが、間段なく迫撃砲を撃つことでSealsたちを釘付けにしていた。否、迫撃砲とは、点に命中させる兵器ではなく、面を制圧する兵器なのである。そういった意味で、アルカイダは、戦闘における必要と十分を本能的に理解しているのかもしれなかった。
タクール・ハー山頂を巡る戦いは、いまだ予断を許さない。


次回更新は、3月16日「タクール・ハーの戦い」です。お楽しみ。
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Posted by 友清仁  at 07:01Comments(0)Story(物語)