2011年04月27日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 22

「ハーゲンベックからペイブホークおよびチヌークへ。今度はチヌークが山頂へ着陸する。だが、アルカイダどもも馬鹿じゃない。今度は容赦なく攻撃を加えてくるだろう。だから、上空からアルカイダの位置をチヌークのガンナーに指示を出すんだ。チヌークのガンナーは、指示通りの方向へミニガンをぶっ放せ」。

チヌークからも煙幕弾が投下された。タクール・ハー山頂はさらに煙幕に包まれ、山頂の地形すら分からなくなった。「チヌーク、突入!」。ハーゲンベック将軍は命令した。

ペイブホークのパイロット、レンゲル少佐は、チヌークが煙幕の中に消えていくのを見送った。すぐに操縦桿を引き、上昇し、山頂を見ると、煙に向かってアルカイダが突入したり、激しく射撃したりするのが見えた。

「煙幕の向こうにヘリがいるぞ。今度は図体がでかい。撃てば当たる。とにかく撃て」。アルカイダ残党のリーダーが叫んだ。その声とAKの銃声がアルカイダを勢いづけた。生還できないことを覚悟した兵士の中には、煙幕の中へ突入する者もいた。

「ペイブホークからチヌークへ。4時方向から3人接近。10時方向からも5人!」。レンゲル少佐は、怒鳴った。
チヌークのガンナー2名も、レンゲル少佐の指示の方向に向かってM134ミニガンをぶっ放した。煙幕でアルカイダは見えない。ガンナーたちは、誤ってレンジャー達を撃ってしまうのではないか、煙幕の中から突然アルカイダが迫ってくるのではないか、頭がおかしくなりそうであったが、今は、上空からの指示に従うほかなかった。

左右のミニガンを激しく咆哮させて、チヌークが地面に近づいてきた。山頂のエスカーノ大尉は、「あれに撃たれるのだけはごめんだ」。そう思いながら、チヌークを眺めていた。やがて、図ったように、後方ハッチをエスカーノたちのほうへ向けてチヌークは着陸した。「今だ。走れ」。エスカーノはレンジャーたちに命令した。

「Go、Go、Go」。セルフ大尉は叫びながら、レンジャー達の肩を叩いてチヌークへ走るように促した。同時に人数も数えていた。どんな状況であっても訓練どおりに体が動いていることに、我ながら驚いていた。最後のレンジャーの肩を叩き、煙幕の中に消えるのを確認すると、岩場に残っているのは、セルフとエスカーノ大尉だけであった。
「さぁ、家に帰るぞ。スクールバスに乗れ」。セルフ大尉は、そう言ってエスカーノ大尉とともにチヌークへ飛び込んだ。

「収容完了」。チヌークのクルーが叫ぶと、パイロットのスレイマン大尉は、操縦桿を思いっきり引いた。チヌークに浮力が加わり、ぐんぐん上昇した。アルカイダもレンジャー達を逃がすまじと、さかんにチヌークに向け撃ってきたが、いずれもチヌークに損傷を与えることなく、やがてチヌークは射程圏から離脱した。

山頂が遠のき、アルカイダが芥子粒ほどの大きさになると、エスカーノ大尉は、「Fuck you アルカイダ!」。と叫ぶと、手榴弾を山頂へ向けて投げた。手榴弾は、山頂には届かず空中で炸裂した。

「チヌークから司令部へ。レンジャーを収容し帰還中。機体に損傷があるが、飛行に支障なし」。司令部に無線が入った。時計は19時を過ぎていた。司令部の高級将校の全員が、長い1日が終わったことを知った。作戦開始の深夜0時から20時間以上の戦いであった。

「将軍、すばらしい部隊指揮を目の当たりにし、感動しました。我々も非常に勉強になりました」。参謀の1人が言った。その言葉にハーゲンベックは、わずかに微笑むと、「諸君らは知らんと思うが、ベトナムでは、こんなことは日常茶飯事だったよ」。ハーゲンベック将軍は、冷めたコーヒーを一気に飲み干した。

次回更新は、5月4日「ビンラディンはどこに・・・」です。お楽しみに。
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2011年04月20日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 21

ハーゲンベック将軍からの突入命令の直前、ペイブロウのパイロット、アンダーソン少佐は、ヘルメットのバイザーを上げ、裸眼で煙幕に包まれる山頂を見た。山頂からは煙幕がもうもうと上がり、まるで火山が噴火しているようだった。アンダーソンは、バイザーを上げたが、具合が悪いことに山頂にはまだ雪が残っていて、雪なのか、煙なのか、ヘルメットのバイザーをあげても、見分けがつかなかった。

「少佐、バイザーをつけておいたほうがいいです」。隣の副操縦士が言った。副操縦士の言うとおり、バイザーの裏側には、ヘリの状態を表す数値がリアルタイムでデジタル表示されているため、ヘリを緻密に操縦するのなら、バイザーをつけているほうが良かった。

だが、副操縦士の助言をアンダーソンは無視した。たしかに通常の着陸ならば、副操縦士の言うとおりだろう。アンダーソンは、15年以上も経験のあるベテランパイロットである。しかし彼には、「危機的な状況な時ほど、機械を当てにするな」、というジンクスがあった。アンダーソンが信頼した唯一の計器は、コックピットの正面にあるアナログの高度計だけだった。

「ペイブロウ突入」。ハーゲンベックからの突入命令がでた。アンダーソン少佐は、ハーゲンベックの指示とおり、墜落したチヌークのある場所へ機体を導いた。煙幕で視界はまったく効かないが、アナログの高度計の針がぐんぐんと地面に近づいていることを示していた。
アンダーソンには、コックピット正面の防弾ガラスに映る副操縦士の顔が見えた。副操縦士の表情はバイザーで隠れて分からないが、明らかにこわばっていた。もしかすると、バイザーの向こう側で目を閉じているかもしれなかった。

「着地まで5メートル。4・・3・・2・・」。アンダーソンは、アナログの高度計を見て叫んだ。本来、高度計を読み上げるのは副操縦士の仕事だが、副操縦士は沈黙していた。

煙幕の中から突然、墜落したチヌークの巨体が現れるのかと思うと気が休まらなかったが、それは杞憂に終わった。地面に近づくほど、煙幕は、ペイブロウのプロペラの風圧で左右に分かれ、直近20メートルほどの視界は、驚くほど良好だった。ペイブロウは、チヌークのわずか5メートルの位置に着陸した。

ヘリが着陸すると、すぐに救援のヘリクルーが飛び降り、「重傷者から先に乗せろ」と怒鳴った。セルフ大尉らレンジャー達は、すぐに負傷者をペイブロウまで運んだ。

山頂を取り囲んだアルカイダたちも、濃密な煙幕の向こうで何かが行われていることを察知し、盛んにAKを撃ち込んできた。AKの銃弾がペイブロウの装甲を激しく叩いた。「クソ、袋叩きだ」。アンダーソンはつぶやいた。しかし気持ちは、ヘリのローターなどに銃弾が当らないようにと必死に願っていた。

やがて、ヘリクルーから、「負傷者の収容を完了!」。と無線が入った。アンダーソンは思いっきり操縦桿を引いて、山頂を脱出した。
「ペイブロウから司令部へ。負傷者を乗せ、山頂を離脱中」。アンダーソン少佐から司令部に無線が入った。司令部にわずかに安堵の空気が広がった。

「ハーゲンベックから上空のチヌークへ。今度はお前の番だ。上から見て、要領は分かったと思う。私の合図とともに突入せよ」。

次回更新は4月27日「タクール・ハーの戦い」です。もう少し続きます・・・
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2011年04月13日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 20

タクール・ハーの山頂を観察している着弾観測員から、頻々と山頂の様子が司令部に報告されている。同時にアルカイダに包囲されている山頂のセルフ大尉たちからも、報告が上がってきた。
「山頂を囲むようにアルカイダが展開しています。その数200名以上。レーザー02の弾薬は残りわずか。至急、応援を」。セルフ大尉らの無線は、悲痛を極めた。

セルフ大尉を悲痛にさせているのは、死への恐怖ではない。戦死はアフガニスタンに派遣されたときから覚悟している。だが、部下が苦しんで死んでゆくのを、指揮官として冷静で見ていることなどできなかった。山頂には、医療品も、そして緊急医療の技術を持つPJもいなかった。セルフができることといえば、司令部へ救出を要請することだけであった。

ガルディーズのハーゲンベック将軍は、司令部のスクリーンを凝視していた。どのように救出するべきか・・・。この戦場に投入できるヘリコプターは、チヌーク、MH-53ペイブロウ、そしてMH-60ペイブホーク、それぞれ1機だけである。

「至急、援軍を!」。セルフ大尉から再び無線が入った。その声は冷静さを失っていた。すでにアルカイダ残党は、山頂へ向け、射撃を開始したようである。
「ヘリのパイロットをここに呼べ。今から、山頂のレンジャーを始め、ヘリのパイロットすべての部隊を、私が直接、部隊指揮を執る」。セルフ大尉の悲痛な叫びは、ハーゲンベック将軍の何かを呼び起こしたようだった。

すぐにMH-53ペイブロウのパイロットのレイトン・アンダーソン少佐、そしてMH-60ペイブホークのパイロットのエドワード・レンゲル少佐が司令部にきた。

「貴官らに、非常に危険な任務をやってもらいたい。この作戦の指揮官として、戦死の可能性がある任務を貴官らに出すことが心苦しいが、貴官ら以外に頼める者がいない。とにかく山頂へ向け飛んでくれ。作戦は、山頂に着いてから説明する」。

ハーゲンベックが訓示すると、アンダーソン少佐は、「司令、我々SOAR(第160特殊作戦航空連隊)も、すでに2機やられています。アルカイダのやつらの好きにはさせません」。

2機のヘリは、すぐにタクール・ハー山頂に向けて飛び立った。機内には大量の煙幕弾が積まれていた。これは、ハーゲンベック将軍の指示である。
空爆については、あれほど誤爆を恐れていたハーゲンベックだが、ガンシップによる機銃掃射には積極的だった。「上空のガンシップに連絡。山頂を制圧射撃せよ。救援ヘリが到着するまで、アルカイダを1ミリも近づけるな」。AC-130ガンシップは、その命令どおり山頂を制圧射撃し、アルカイダの動きを封じ込めた。

2機の救援ヘリのパイロットから、山頂へ到着した旨の無線が届いた。
「いいか。チヌークの位置を良く覚えておけ。煙幕が広がったら、何も見えなくなるぞ。そして私の合図とともにチヌークの真上に降りろ」。ハーゲンベックは、アンダーソン少佐に言った。

「煙幕弾投下」。ペイブロウの副操縦士が叫んだ。ペイブロウから無数の煙幕弾が山頂に放出され、着地すると、勢いよく煙を吐き出した。それに合わせて、セルフ大尉たちも、手持ちの煙幕や信号弾を一斉に投げた。すぐに山頂は、白、赤、黄色の煙に包まれた。

司令部の山頂を映すスクリーンも、あっという間に煙幕で何も見えなくなった。参謀達が不安そうにスクリーンを見ている中で、ハーゲンベック将軍だけが、確信に満ちた目でスクリーンを凝視していた。やがて、「今だ。ペイブロウ突入」。
アンダーソン少佐は、操縦桿を思いっきり倒し、まったく視界の効かない煙幕の中に突入した。濃霧の中を飛行した経験は何度もあるが、それは水平飛行に近い状態であり、不正地面に向かっての着陸ではなかった。ペイブロウは、煙幕弾の煙の中を急降下した。

次回更新は、4月20日「タクール・ハーの戦い」です。※もう少し続きます・・
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2011年04月06日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 19

「レーザー03より報告。タクール・ハー山頂の敵司令部を占領しました。負傷者多数。至急、救援ヘリを」。激戦を制したレンジャー小隊の隊長である、セルフ大尉は、意気揚々と司令部へ報告した。ガルディーズのハーゲンベック将軍は、「大尉、困難な戦闘をよく戦った。貴官と部下の奮闘に感謝する。至急、撤退用のヘリを向かわせる。しばらく待機せよ」。と返した。

ガルディーズからタクール・ハー山頂まで、ヘリで30分ほどである。救援ヘリはすぐに来るかと思ったが、なかなか姿を現さなかった。そればかりか無線も沈黙したままであった。それでもセルフは、少しも不思議に思わず、PJのハニンガム軍曹に負傷者を搬送する用意をするように命令した。だが、山頂のセルフたちは気がつかないが、司令部では大変なことになっていた。

「着弾測定員から司令部へ。アルカイダ戦闘員は、陣地を捨て、山頂へ向かっています。その数100名以上」。
司令部の高級将校たちは、山頂の画像を見て驚愕した。着弾測定員の報告どおり、アルカイダが、セルフ大尉たちが待機している山頂へ向けて続々と移動しているのである。その光景は、タクール・ハーという砂糖の山に群がる蟻のようだった。救助ヘリなど派遣することなどできない。

アルカイダ司令官ハザラト・アリは、山頂のタコツボを中心に各所にタコツボ陣地を作り、アメリカ軍を撃退する作戦を立てていた。周辺陣地の小隊長には、山頂でどのようなことがあっても、部署を守るように厳命していた。そのため、各陣地に不安を与えないように、頻繁に伝令を走らせ戦況を伝えていた。

しかし、ヘルファイアミサイルにより、司令官アリをはじめとする司令部が壊滅してしまったため、急に伝令が来なくなった。不安を覚えた各陣地のアルカイダたちが陣地を捨て、山頂へ移動を開始したのは当然であった。もっとも、司令部がなくなり指揮命令系統が消滅してしまった今、貧相な装備とわずかな食料だけで人跡未踏の渓谷を越えて逃げることなど不可能で、彼らは山頂へ向かうほかとるべき行動がなかった。

「ハニンガム軍曹、負傷者を山頂まで運べ」。セルフ大尉は命令し、山頂のレンジャーたちも手伝うべくタコツボから墜落したチヌークまで移動した。レンジャーたちは、タコツボ陣地を占領したことで、戦闘が終わったと勘違いしていた。普段なら必ず行う周囲の警戒もせず、談笑しつつ、まるでキャンプ場で荷物を取りに行くような感じで歩いた。しかし、そこはなお戦場であり、レンジャーたちを殺すべく何百人のアルカイダが迫っていたのである。

ガルディーズの司令部も、セルフたちの直下の状況を知らせるべきであったが、新たな救出作戦を立てるのに忙しく、司令部の誰一人として知らせようとしなかった。

日は完全に昇り、山頂からは、シャハ・コット渓谷の全容を眺めることができた。
「美しい」。エスカーノ大尉は、山頂から果てしなく広がる渓谷を見て、純粋にそう思った。戦争が終わったら、もう1度ここにきて、この風景をゆっくり眺めたいとさえ思った。

そのときである。AK47の射撃音が再びタクール・ハー山頂に響いた。エスカーノ大尉は、すぐに銃声の方向をみると、アルカイダ兵3名が、かつてレンジャー達が隠れていた岩場の上でAKを掃射していた。AKの火箭の先には、PJのハニンガム軍曹が倒れていた。アルカイダの残党が頂上まで到達し、ハニンガムを撃ったのである。墜落したチヌーク付近のレンジャーは、すぐに応射し、アルカイダを一掃した。

エスカーノ大尉は、事態を把握するため周囲を見渡すと、恐るべきことに、自分達のタコツボから500メートルほど周辺で、アルカイダの残党が山頂を目指して移動している姿があちこちに見えた。

エスカーノ大尉らレンジャー達は、再び地獄の戦場に叩き込まれることになった。

次回更新は、4月13日「」タクール・ハーの戦い」です。お楽しみに。
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