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Posted by ミリタリーブログ  at 

2011年09月07日

第5特殊作戦群の人々 Men in 5th SFG

時計の針を、2ヶ月ほど戻す。
カルザイ脱出作戦の2ヶ月前の9月14日、ジェイスン大尉は、カザフスタンのアルマトイのホテルの一室で、同僚のダン・ペティソリー大尉を待っていた。このホテルは、カザフスタンでは高級ホテルの部類に入るそうだが、部屋の調度品といえば、安っぽいテーブルとベッド、そして大きな鏡があるだけだった。

アメリカのホテルならば、質素すぎるこの部屋が・・・・ジェイスンには、士官用の個室にしか見えないが・・・、高級な部屋であることに、装飾美より機能美を愛する、軍人のジェイスンには、快適だった。

やがて、ペティソリーが部屋に入ってきた。ペティソリーは、ジーンズにTシャツ、そしてレッドソックスの野球帽という、どう見ても旅行者か、商用に来ているバイヤーにしか見えなかった。ジェイスンも似たような格好である。

「本国の司令部から、何か指示があったか」。ジェイスンが聞くと、「情報収集に努めよ、とのことだ」。ペティソリーは、力なく答えた。「カザフに来て1年・・・。我々の仕事といえば、情報収集だけ。3日前にツインタワーが攻撃されたというのに、なんの指示も情報もない」。ジェイスンは、壁の鏡に向かってパンチするまねをした。

ここで何もせずに無駄に過ごしている間にも、ビンラディンは、アフガニスタンの洞窟で、どんどん強くなっていると思うと、ジェイスンは、無力感に襲われた。

すでにアフガニスタンに対する作戦が発動されているとの噂だが、2人の所属するODA574には、何も命令が届いていない。「とにかく、俺たちの任務は、ソ連退役軍人、アシモフ大佐とメシを食うことだ」。ペティソリー大尉は、そう言うと、部屋を出た。

2人が定期的にメシを食う、ソ連退役軍人アシモフ大佐は、ソ連のアフガン侵攻時には、ソ連軍空挺部隊の大尉で、ソ連崩壊後、カザフスタン国軍に編入され、現在は、カザフ軍空挺連隊の予備役大佐である。アフガンのゲリラ戦術に詳しいと見込んでジェイスンたちは接触しているわけだが、たいした人物ではなかった。

毎回の食事会では、ひたすら自分の武勇伝を語るだけで、特殊部隊の2人には学ぶところなどなく、むしろ同業者の自慢話ほど、うんざりするものはなかった。しかし、これが当時の中央作戦軍の「最前線」部隊の任務であった。当時の中央作戦軍の諜報能力は、この程度のものであった。


その日、クリス・ミラー少佐は、ケンタッキー州のキャンベル基地の第5特殊作戦軍の司令部にいて、第5作戦軍司令官、マンホールドランド大佐の部屋へ向かっていた。

2001年、アメリカ軍は7個の特殊作戦軍を創設し、第5特殊作戦軍は、そのうちの1つである。編成は、大尉を隊長とする6個の小隊が1個中隊とし、司令官は少佐である。その中隊が3個集まって大隊を編成する。司令官は中佐である。さらに大隊が3個集まって特殊作戦軍となり、大佐が司令官となるように編成されていた。

クリス少佐は、士官学校を修了するとすぐに、幹部レンジャー課程に進み、そのままグリーンベレーに配属された。そのままずっと特殊部隊畑を歩き、湾岸戦争や南米の麻薬シンジケート撲滅作戦に参加し、現在は第5特殊作戦軍の中隊長になっていた。今回も、自らアフガンにパラシュート降下し、部隊を直接指揮して、ビンラディンを逮捕するつもりでいた。

ミラーは、マンホールドランド大佐の部屋のドアに到着すると、ノックをした。中からは、「入れ」とだけ返事があった。部屋に入るとすぐに、「ミラー少佐、忙しいところをすまん。知ってのとおり、3日前にツインタワーにテロ攻撃があった。大統領は、即座に報復攻撃を行うことを決定し、軍やCIAなどに作戦要綱を提出するように命令された」。

マンホールドランド大佐は、椅子に大きく寄りかかりながら、ため息をついた。明らかに苦慮の顔である。マ大佐は、ミラーとは正反対のキャリア、つまり、軍政(人事・予算)畑をずっと歩いてきた人で、作戦立案や部隊指揮の経験もほとんどなかった。現在の特殊作戦軍司令のポストも腰掛けで、しばらくすれば、陸軍幕僚大学へ進み、将官に進級して、軍監査部長か何かになり、国防総省で勤務するつもりでいた。

「大統領に提出する作戦要綱を作るにあたり、フロリダのタンパでSOCCENT(中央軍特殊作戦司令部)が発足し、月曜日に全体会議が開かれることとなった。そこで提出する資料を急いで作成してもらいたい。もちろん、君は、私のオブザーバーとして会議に出席する。以上だ」。マ大佐は、椅子をくるりと回転させ、ミラーに背を向けた。ミラー少佐が部屋を出ようとすると、

「たしか君は、タンパにある特殊作戦研究班のケリー少佐とは同期だったな。中央軍特殊作戦司令部に自由に入れるように手配しておくから、一足先に現地に入って、ケリー少佐の意見も聞いておいてくれ」。

部下の経歴を諳んじているあたりが、軍政畑を歩いてきた将校らしいとミラー少佐は思いつつ、部屋を出た。

次回更新は、9月14日「第5特殊作戦群の人々2」です。お楽しみ。
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Posted by 友清仁  at 07:03Comments(6)Story(物語)