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Posted by ミリタリーブログ  at 

2011年12月28日

タリン・コットの戦い 1 battle of Tarin Kowt

11月16日は、イスラム教のラマダン(断食)の初日である。この期間、イスラム教徒は日の出から日の入りまで断食をする。彼らは、アラーの神を信奉し、富める者は貧しい者に施し、揉め事がある者はそれを修復し、全てのイスラム教徒は、自分以外の全てのものへ慈悲や愛情を注ぐ。

そのラマダンが始まる日に、ODA574とカルザイが潜んでいる村では、カブールの秘密基地からチヌークで届けられた膨大な量のライフル、銃弾の分配に明け暮れていた。

ウルズガン最大勢力であるルシディーの軍閥を壊滅させてから、これといった脅威もなく、むしろ、ルシディー軍閥の空白を埋めるかのように、ODA574の反タリバン勢力が大きくなった。あの激戦の時に逃げ出した兵士たちも、何食わぬ顔で再び軍に加わっているほどである。

アフガン兵たちは、列を作ってAK74と銃弾を受け取っているのが、村長の屋根に作られた物見櫓から見えた。CCTのダンが彼らに武器を手渡している。その様子があたかも、マクドナルドで接客しているようだったので、ジェイソンは、「マックウェポン開店」。とふざけて言った。

「いったいどこにこんなに人がいたんだ?」とペティソリー大尉が愚痴ると、「兵隊が集まるのは良いことだ」。ジェイスンは、言った。

「どれだけ集まるか、想像できるか」?「それは分からん。しかし200人以上は集まるだろう」。「単独で来る奴もいれば、仲間を連れてくる奴もいる」。「多けれりゃ多いほどいい。来る者は拒まず、だ」。物見櫓の上で、そんな会話している。

「しかし、奴らはカルザイの威光で集まってきているとは思えん」。「俺もそう思う」。「カルザイの影響力は未知数だ。カルザイは慎重すぎるのか、あまり前面に出てこないな」。「彼が何を考えているか一度聞いてみなけりゃならんな」。

そうやってしばらく、たわいもない会話していると、メディックのケンが櫓に上がってきた。手にはメモを持っている。ケンは、そのメモを両大尉に渡した。カルザイからのメッセージのようである。

ペティソリーがメモを読み上げた。
「我々は、戦闘行為を行うまでにはまだまだ時間がかかる・・。今のままでは軍事行動がいつになるかもわからない。待つのではなく状況を作るべきだ。私はその手段を持っている」。
「どうやら、カルザイに何か考えがあるようだな。いい機会だ。彼と話そう」。両大尉は、櫓から降りて、カルザイの部屋へ向かった。

カルザイの部屋の前では、4人の若者がAKを持って警護していた。それらを通り抜けて、屋敷の中に入ると、カルザイは、キャスパーと何か打ち合わせをしているようだった。

カルザイは、ジェイスンたちを見ると、微笑んだ。「私のメッセージを見たか」?カルザイは尋ねた。ペティソリーがうなずくと、カルザイは話し始めた。

「タリン・コットにいる私の仲間からの情報によると、そこのタリバン司令官は、ルシュディーで、奴が戦場にいるときは、代理の司令官が統治していたらしい」。

「だが、ルシュディーが死んだことがわかると、司令官をはじめ、留守番部隊もろとも逃げ散ったそうだ。現在、町は住民たちで統治され、町の住人たちは、私を町の統治者、そして反タリバン軍のリーダーに迎えたいと言っている」。

「私は、この誘いに乗りたいとおもう」。カルザイは、力を込めて言った。


次回更新は、1月4日 「タリン・コットの戦い2」です。お楽しみに。
ご意見・ご感想をお待ちしております。


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Posted by 友清仁  at 07:01Comments(2)Story(物語)

2011年12月14日

タリバン部隊 Taliban squad 3

ウルズガン地帯のタリバン司令官、ルシュディーは、目の前の光景に憮然としていた。突撃の先陣を務める車両が次々と狙撃され炎上し、後続の部隊の頭目も同様に狙撃され、小部隊がどんどん戦場を放棄してゆくのだ。このままでは、攻撃をするのは、ルシュディーの直属の部隊、500名だけになってしまう。

「バカどもを突撃させろ」。ルシュディーは、周りの側近に怒鳴った。すぐにAK-74 RPKを持った兵士が、前方のタリバン兵に向け、威圧射撃をした。後方からの銃声が、タリバン兵にはルシュディーの怒号に聞こえたのか、すぐに退却をやめ、機能を失った車両に隠れ射撃を開始した。

タリバン兵が射撃を開始したといっても、頭目という現場指揮官が不在のため、多くの兵士が銃だけを出して射撃する、「めくら撃ち」をしているだけで、誰一人として積極的に前進する者はなかった。

一方のODA574と徴用アフガン兵は、積極的に応戦した。タリバン兵が隠れている車両は、装甲車などではなく、一般のピックアップトラックであり、SR25の7.62mm弾は容易に貫通し、背後のタリバン兵をたおした。

タリバンが持っている唯一の装甲車といえば、旧ソ連製の輸送車くらいであった。しかしこの装甲も、最新の50口径アンチマテリアルライフルの前には板塀と同じで、タリバン兵は次々と串刺しにされた。

タリバン軍は、勢いがあれば相当な貫通力を持つが、いったんその勢いがなくなってしまうと、所詮、雑軍であり、散発的な攻撃しかできなかった。

これ以上の攻撃は、単なる戦力の損耗であり、果ては、自身の支配力の低下になることを恐れたルシュディーは、退却の信号弾を撃たせた。退却の信号を聞いたタリバン軍は、九死に一生を得たとばかりにぞろぞろと退却を始めた。

ルシュディーも歴戦の司令官である。彼は、一計を案じ、退却と見せかけて、追撃してくる敵を陣地からおびき出し、一挙に包囲・殲滅しようと考えたていた。しかし、ODA574の正確な狙撃と味方の背後からの威圧射撃に士気喪失したタリバン軍にそのような部隊行動が取れるはずもなく、退却も無秩序な退却であり、背後を撃たれるタリバン兵が続出した。

背後を狙撃される恐怖というものは計り知れない。恐怖が恐怖を生み、兵士達は我先にと逃げ出した。もはやルシュディーの命令はおろか威圧射撃も効かなかった。ルシュディーも大量のタリバン兵の濁流に飲み込まれたようになり、退却せざるをえなかった。

「追撃するぞ」。ペティソリーが急造陣地から飛び出そうとすると、後ろから肩をつかんで制止する者がいた。ソ連空挺大佐のアシモフである。

「やめておけ。敵の数が多すぎる。奴らは退却すると見せかけて、陣地から出てきたところを包囲・殲滅する作戦を取ることがある。ソ連軍は、それで何度も全滅させられた」。

アシモフの言うとおり、100名足らずの兵とわずかな車両では、目の前を雲霞のように退却して行くタリバン軍の前には、たいした打撃力にはなりえず、むしろ、それに巻き込まれる恐れがあった。

しかし、ここでタリバン軍に大損害を与えなれば、2回目、3回目の総攻撃を受けることは確実で、そのときには、今回のような戦法は通じなくなっているだろう。どうするべきか、ODA574の面々に沈黙が流れた。そのとき、はるか上空から、キーンという金属音が聞こえた。

空爆を要請した、海兵隊のF18が到着したのである。CCTのアレックス軍曹は、すぐにタリバン軍の座標を上空のパイロットに通信した。(以前は、空爆を要請する際には、敵と味方の座標の両方を通信していたのだが、クライ・シャンギ監獄での誤爆事件をきっかけに、敵の座標のみを伝えるようになった)

「敵座標を確認。これより爆撃体勢に入る」。6機の戦闘機が機体を横に滑らせて、順番に高度を下げてゆく。戦闘のパイロットが、クラスター爆弾のリリーススイッチに手をかけた瞬間、山岳地帯の山道を退却しているタリバン部隊が視界に入った。

山岳地帯といっても、ウルズガン地帯の山にはほとんど木がなく、パイロットには、退却するタリバン軍が、砂山を行進する蟻の隊列のように見えた。

パイロットは、リリーススイッチを押した。クラスター爆弾が勢いよく飛び立ち、やがて先端が割れて、子爆弾が飛び出し、タリバン軍の頭上に降り注いだ。あとは業火と砂煙が当たり一面に広がり、少し遅れて、どどーんという爆発音がした。

これが各機2回、合計12回繰り返され、蟻の行進は消滅した。ウルズガン総司令官のルシュディーも、その蟻の一匹であった。


次回更新は、12月28日「タリン・コットの戦い」です。お楽しみに。Vショー参加のため、1週お休みします。ご意見・ご質問をお待ちしております。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(2)Story(物語)

2011年12月07日

タリバン部隊 Taliban squad 2

「奴らは、攻撃に行ったのではない。ここから逃げたのだ」。カザフ空挺少佐のアシモフは平然と言った。ペティソリー大尉は、そんなことが信じられなかったが、すぐにそれが事実であることが分かった。車両に搭載している無線に何度呼びかけても、応答がないのだ。

ジェイスン大尉は、すぐにCCTのアレックス軍曹に空爆を要請した。インド洋の空母カールビンソンから、すぐに海兵隊のF18数機が出撃したが、到着するまで1時間ほどかかるという。

村に残っているのは、100名ほどの兵士であった。否、残っているのではなく、逃げ遅れたといったほうがいい。どの兵士の顔も、恐怖におののいていた。

「1時間持ちこたえれば、爆撃機が来て決着する。それまで持ちこたえるんだ」。ジェイスンは、兵士達に怒鳴ったが、兵士達の動揺を抑えることができなかった。

ODA574の全メンバーは、戦死を覚悟していたが、こんなにも早く、危機が訪れるとは思わなかった。取り敢えず、村の周囲に急造した防衛陣地に兵士を配置し、敵が突撃してくるのを待った。

迫撃砲の威圧射撃が終わると、四方からタリバン部隊が一斉に攻めて来た。タリバン軍は、車両と馬の混成部隊が先陣で、その後に小銃を持った歩兵が続いている。

「アメリカ人よ。まずは、足の早い車両を狙え。その次に、馬に乗っている頭目を撃て」。アシモフは、ドラグノフに初弾を装てんしながら、ジェイスンたちに言った。

ジェイスンは、車両は分かるが、頭目というのが分からなかった。頭目とは何なのかと聞くと、アシモフは、説明するのが面倒くさいと思ったのか、「とにかく、車両を全滅させたら教える」。と言うのみだった。

ロニー、マイク、ブレントの3軍曹が、村で一番背の高い家の屋根に上り、バレットM82A1 (対物ライフル)を構えた。1人に1丁、合計3丁である。サポートにアフガン兵が2人ずつ付いた。

ロニーがスコープを覗くと、タリバン軍が見えた。車両のエンジン部分をレティクルに合わせると、すぐにトリガーを引いた。どおんっという音とともに、周囲に砂塵が舞い上がった。次の瞬間、スコープの中の車両が、エンジンを撃ちぬかれて炎上するのが見えた。

「次っ」。ロニーが叫ぶと、サポートのアフガン兵2人は、バイポッドを掴んでバレットを持ち上げ、バレルをわずかに左にずらした。

ロニーがスコープを覗くと、また別の車両が見えた。トリガーを引くと、すぐに遠くの車両が炎上した。「次っ」。ロニーが叫ぶ。2人がバレットの向きをずらす。ロニーがトリガーを引く。車両が炎上する。「次っ」。・・・
同様なことが、マイク、ブレント軍曹のバレットでも行われた。

3軍曹のバレットには、ナイトフォース社の最新スコープだけでなく、レーザーポインタも装備されていた。したがって、スコープに目標を捉えるだけで百発百中であった。

タリバン軍の車両があらかた破壊されると、今度は、馬に乗っている頭目を撃つ番になった。ジェイスン、ペティソリーらは、SR25に初弾を装てんすると、アシモフの指示を待った。「アメリカ人よ。派手なターバンを巻いている奴を撃て」。アシモフは簡潔に言った。

ジェイスンがスコープを覗くと、確かに派手なターバンを巻いている奴が、ある一定の割合でいることが分かった。言われるままに狙撃し、弾丸が頭目に命中すると、周りの兵が頭目の死体に群がるのだが、頭目の死を確認すると、なぜか後方へ引き返してゆく。同じことが、ペティソリーやキャスパーの狙撃でも起こった。

後のアシモフの説明によると、タリバン軍は、欧米のような近代的な軍隊ではなく、単なる部族の集まりであり、頭目と戦闘員は雇用関係にある。その頭目は、さらに上の頭目、この場合はウルズガン地帯の総司令官ルシュディーと雇用契約になっている。

つまり、頭目が生きている限り、給料が支払われ、兵士は戦闘を続けるのだが、頭目が死んでしまうと、給料の支払い元が無くなり、賃金を受け取ることができない。その瞬間から、兵士達は戦場にいる意味がなくなってしまう。ゆえに、頭目の死を確認すると、さっさと戦場から去って行くのだ。

もちろん、さらに上の頭目であるルシュディーと雇用契約を結ぶことも考えられるが、それを予想・期待して戦闘を続けることは無い。彼らが戦うのは、あくまでも契約が成立してからである。欧米の軍隊であれば、少尉が戦死しても、軍曹が指揮を執るが、タリバン軍はそのようになっていない。

頭目が狙撃されるたび、タリバン小部隊は、潮が引くようにどんどん退却して行く・・・


次回更新は、12月14日「タリバン部隊3」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(2)Story(物語)