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Posted by ミリタリーブログ  at 

2012年07月25日

誤爆 Friendly bombing 5

ラービフと配下の兵士たちは、10台の車両に分乗し、タリン・コットに向かった。「急げ!」。ラービフは怒鳴った。

アメリカ軍は誤爆をした。街は混乱しているに違いない。この混乱に乗じて街を攻撃し、占領はできないにしても、大打撃を与えることができれば、背後のカンダハルも再び戦闘意欲を回復するだろう。

街まで、1キロの地点まで近づいた。ラービフが予想したとおり、街は混乱しているようで、街から射撃は1発もない。

「街に突っ込むぞ。街に入ったら左右に撃ちまくれ。だが絶対に止まるな。街の中心を突っ切って、頃合を見計らって引き返す。そうしたら、再び撃ちまくれ。敵をかき回すんだ」。

先ほどまで自分の進退に悩み、ラービフの目は死んだ魚のようだったのだが、すでにアフガンの山岳地帯に住む荒鷲のような鋭い光を放つ目になっている。ラービフ一団は、タリン・コットに向け突進した。


一方のB-52である。J-DAMの命中を確認したティモシー・クロスビー中佐は、初めての攻撃成功に興奮していた。

「よし、やったぞ。2次攻撃は対地ミサイルを使う。タコ(タクティカル・コーディネータの略)は、即急に準備しろ」。初めての実戦、そして攻撃・・・。クロスビーの心は躍った。

そんなクロスビーに水を差す人物がいた。副操縦士のハリス大尉である。
「キャプテン、2次攻撃の前に戦果判定というか・・・、地上部隊からの報告を受けましょう」。

この進言にクロスビーは、「大尉、先ほどのタコの報告を聞こえなかったのか?J-DAMは命中した。だが、敵が全滅した保証はどこにもない。すぐに2次攻撃の準備をして何が悪い?」。

「大尉、私も君と同じく地上部隊からの報告を待っているのだよ。しかし報告がなければ、こちらの判断で動かねばなるまい」。ハリスは、クロスビーの戦闘をしたがっている気持ちがはっきりと分かり、言葉を返すことができなかった。

立場的なものもある。クロスビーは中佐、自分は大尉。命令権があるのは当たり前だが、空軍は他の軍と違い、世界が狭くポジションも少ない。佐官といえば高級士官であり、佐官であるクロスビーに睨まれれば、その後の昇進に多大な影響が出る。ハリスは沈黙せざる得なかった。

「あと20分でタリン・コット上空に達する。15分以内に報告がなければ、2次攻撃を行う」。クロスビーは言った。


誤爆を受けたタリン・コットでは、ジェイスン大尉とCCTのアレックスがいた。
「2次爆撃は絶対にくるのか?」。ジェイスンが尋ねた。
「こちらから中止の要請をしない限り、間違いなく来るでしょう。使用弾がクラスター爆弾なら、被害は甚大です」。アレックスは答えた。

「バックアップの無線はないのか?」。ジェイスンは重ねて訪ねたが、バックアップの無線は、先のタリン・コットの攻撃で撤退する際に破壊してしまったこと、その後に来たヴァイパーしか、上級司令部へ通信できる無線がなく、それも空爆で破壊されてしまったとアレックスは答えた。

「司令部と通信する唯一の方法は、手持ちのPRC-148から付近のヘリコプターか装甲車に通信し、そこから司令部に転送してもらうしかありません」。しかし、ヘリや装甲車が付近にいるとは限らない。

ジェイスン大尉は決断した。
「いまある無線機を全部集めろ。CCTのダン、ウェス、アレックスは、全部の無線を使ってどこでもいいからSOSを発信しろ」。すぐにODA574の隊員が持っている無線機が見晴らしの良いところに集められ、3名のCCTが通信を開始した。

その時である。タリン・コットの南側からAK47の銃声が聞こえた。アフガン兵が駆けてきて、「タリバン軍の攻撃です」。ジェイスンに報告した。
「よりによってこんな時に・・・」。ジェイスンは頭を抱えた。


次回更新は8月1日「誤爆」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(0)Story(物語)

2012年07月18日

誤爆 Friendly bombing 4

タリン・コット奪還軍の指揮官、ラービフは、隠れ家の洞窟の中で悶々としていた。先の奇襲攻撃が失敗し、配下の数も50名程度、使える車両にいたっては、10台しかなく、大幅な戦力減に次に打つ手が思いつかない。

奇襲攻撃の失敗は、既に根拠地のカンダハルにも伝わり、一時はラービフの戦死も囁かれたようである。すると、カンダハルの厭戦勢力が「北部同盟に降伏するべきだ」と動き出したそうだが、ラービフの生存が確認されると、潮が引くように消えた。

とはいえ、負けっぱなしのタリバン軍の中で、ラービフの攻撃は、ある意味「乾坤一擲」の攻撃と期待されていただけに、奇襲の失敗は、カンダハルのタリバン勢力にも少なからず影響があったようである。

その証拠に、カンダハルからの補修物資の量が著しく少なくなっていた。送られてくる量では、この洞穴で50名が野営するのが精一杯の量である。カンダハルは、このままラービフに飢えて死ねということか。

もっとも、この量の変化は、カンダハルの厭戦気分によるものだけではなく、アメリカ軍の空爆の精度が精緻を極めていることもある。いまや、ラービフの隠れ家周辺でも爆撃機の轟音を聞かない日はなく、トラックが2台連なっただけでも空爆される。

したがって、現在は、ロバの背に僅かな糧秣や弾薬を載せて、とぼとぼと歩いて運ぶのが最も安全な輸送手段である。大量に運べるわけがない。

この運搬方法は、ソ連アフガン侵攻時、シャワリ・コットの山岳地帯で行われ、山岳地帯に散らばるゲリラ部隊の隅々にまで物資が運ばれ、ゲリラは絶えずソ連軍を攻撃し、ソ連軍を苦しませた。しかし、現在のタリン・コット攻略軍には相応しい輸送手段ではない。

理由は簡単で、シャワリ・コットでは、ゲリラは山岳地帯一帯でソ連軍を待ち構えていれば良く、物資がなくなれば、自由に「撤退」や「移動」ができた。それに対し攻略軍は、攻撃をする「力点」が限定され、行動が制約されるだけでなく、兵力・火力ともに守備軍を上回らなければならない。

「現状維持」程度の物資では、再攻撃もおぼつかない。今のところ、タリン・コットのアメリカ軍・北部同盟軍の動きを牽制することはできているが、向こうの物資・兵力が充実してくれば、当然、掃討戦を行うだろう。どこまで耐えられるか・・・ラービフは自信がなかった。

カンダハルに撤退することも考えたが、部族社会のアフガニスタンでは、「敗軍の将」の地位は最低で、「敗将」のラービフは、殺されはしないだろうが、もはや政治的・軍事的「廃人」であり、それこそ、一兵卒の扱いだろう。

ラービフはため息をついた。
こんなことは・・政治的・軍事的進退について悩む・・彼の人生で初めてのことである。再びため息をつく。ソ連軍と戦っていた昔はよかった・・・。悩んだ結論が必ずそこへゆく。

ラービフは、小用を足しに洞窟の外に出た。遠くにタリン・コットの街が小さく見える。頭上からは爆撃機の爆音が聞こえる。いつもと変わらぬ。

民族衣装のカミースをまくり上げ、タリン・コットに向け放尿した。やがてその勢いが終わる頃、街の上空の雲の切れ間から、黒い点がまっすぐ街へ堕ちゆくのが見えた。その黒い点が街に吸い込まれると、地響きを伴った爆発音がおき、次いで街に火柱ときのこ雲が上がった。

ラービフの目が光った。下半身を露出したまま、付近の兵士に怒鳴った。
「おい、すぐに兵を集めろ。街を攻撃するぞ」。


次回更新は、7月25日「誤爆」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:01Comments(0)Story(物語)

2012年07月11日

誤爆 Friendly bombing 3

「カルザイ!」。
ODA574のジェイスン大尉は叫んだ。確かカルザイも、このホテルのどこかにいたはずである。万が一、この爆撃でカルザイが死ぬようなことがあれば、アメリカのアフガン統治政策が破綻してしまう。

「カルザイ!」。ジェイスンが再び叫んだ。

すると、ホテルの中庭の方から、「大尉、私はここだ」。カルザイの声がした。がれきを掻き分け中庭に出ると、カルザイが右肩を押さえ、立っていた。右肩は真っ赤に染まっていた。どうやら、中庭で休息中に爆発があり、飛散したガラスの破片で負傷したらしい。

「私のケガは大したことはない。それよりも、この爆発はタリバンのスパイが侵入し、爆弾を仕掛けて爆破させたのかもしれない」。

カルザイの意見ももっともであった。RPG‐7や迫撃砲が1発命中しただけでは、このような破壊力はない。スパイがいるとすれば、カルザイを暗殺しようとして、まだこの辺に潜伏しているはずである。

とにかくカルザイを連れてホテルの外に出た。スナイパーがいる可能性があるので、すぐにほかの建物に入り、カルザイには、絶対にこの建物から出ないように指示した。

やがてODA574のメンバーが続々と集まってきた。
「ホテルの火災を消せ」、「負傷者を一箇所に集めろ」、「自警団は戦闘配置につけ」。ジェイスン大尉は矢継ぎ早に命令した。ODAのメンバーは、アフガン徴用兵を指揮してそれぞれの作業を進めた。

その中で、ジェイスン大尉は次の対策を考えていた。「この爆発は、タリバンの野砲による攻撃なのか、スパイによる爆破なのか・・・」。それによって対応策が変わる。

「大尉、これは味方のB-52による誤爆です」。CCTのアレックスは、ジェイスンに進言し、自分が見た一部始終を説明した。

そのことを聞いて、ジェイスンは、「ならば、B-52に誤爆であることをすぐに伝えるんだ」。と言ったが、CCTのアレックスは深刻な表情を崩さずに、

「大尉、上空のB-52はもちろん、カブールの司令部にダイレクトに通信できる無線機は、ホテルにあったヴァイパーだけです。そのヴァイパーも、空爆で破壊されました」。

ジェイスンは、アレックスの言っていることが理解できなかった。アレックスは、各隊員が持っている無線機(PRC-148)では、個人の通信は出来るものの、上級司令部へのアクセスが難しいとのことを説明した。

これは、アフガン戦初期に、捕虜になったタリバン兵が米軍のPRC-117無線機を所持しており、タリバン軍が限定的ながらアメリカ軍の無線を傍受していたことが判明したため、司令部は、暫定処置として通信網を複雑にしたためである。

上級司令部への通信手段が破壊されたODA574は、アフガンの真ん中で、孤立した状態になってしまっているのだ。

「無線が・・、通信が復旧する見込みはあるのか?」。ジェイスンが尋ねると、
「それはわかりません。しかし確実に言えることは、このあと、もう1時間もすれば、2次爆撃が始まることです」。

空軍から来たアレックスによると、1回目の爆撃でJ-DAMを1発しか投下していないことから、この1発は、いわば「試し撃ち」であり、このデータをもとに、残りすべてに諸元を入力し、今度は全弾を投下する、飽和爆撃を行うというのだ。

「B-52の旋回能力を考えると、長くて1時間、早ければ45分程度で再びタリン・コット上空に達するでしょう。投下する爆弾もクラスター爆弾ならば、その制圧面積を考えると、タリン・コット全域が爆撃範囲になり・・・・」

ジェイスンは、アレックスの表情を凝視している。アレックスは続けた。
「防空施設のないこの街は・・・、消滅します」。


次回更新は7月18日 「誤爆」です。お楽しみに。
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2012年07月04日

誤爆 Friendly bombing 2

「J-DAM、リリース」。B-52のタクティカルコーディネータは、冷静に報告した。タコ(タクティカル・コーディネータの略)は、目の前のコンソールを見ている。

B-52は、巨大な爆撃機であるが、窓と呼べるものはコックピットにしかなく、パイロット以外は、機内から外を見ることができない。ちょうど潜水艦が浮上航行していても、外気に触れることができるのは、艦長をはじめとする艦内首脳士官だけなのと同じである。

従って、昔の爆撃機のように、爆弾が落ちてゆく様子を見ることもなく、また爆弾が投下される瞬間に機体に走る振動も感じることもない。

コンソールの画面には、目標地点の白い×印とJ-DAMを表すオレンジ色の×印が映っている。オレンジの×が左右に微妙に揺れながら、白い×へ近づいている。J-DAMの自律誘導システムが正確に作動しているのが分かる。

数秒後、白とオレンジのバツがぴったりと重なると、赤い×になり、激しく点滅し、やがて消えた。目標地点に着弾したのだ。あたかもテレビゲームである。「J-DAM、目標に命中」。タコは、機長のクロスビー中佐に短く報告した。

「機長からタコへ。次いで2次爆撃を行う。これより旋回を開始し、1時間後に再びタリン・コット上空に戻る。残り全弾の諸元入力を30分以内に終えろ」。クロスビーは無線を切った。


B-52から3000メートル下のタリン・コットでは、CCTのアレックスが自警団に行軍ドリルを行なっていた。しかし、B-52の爆音が激しいため、全員、しばらくその場に座り、休憩していた。

やがて爆音が遠のき、街に静寂が戻った。再びドリルを行うべくアレックスが立ち上がった。自警団の兵士にも、訓練再開を指示した。しかし、その一瞬後、爆音が遠のくのと反比例するように、今度は、キューっという、空気を切り裂く音が聞こえた。

その音が、J-DAMの自律誘導システムの尾翼が空気を裂く音だと、CCTのアレックスにすぐに分かった。すぐに音の方向に振り返ると、上空に黒い点がものすごい勢いで落ちてくるのが見えた。

B-52から放たれたJ-DAMは、最新無線機「ヴァイパー」とODA574の司令部のあるホテルへ一直線に落下し、その屋根を突き破り、室内で大爆発を起こした。

「Bombing!!(空爆)」。アレックスは叫び、すぐにその場に伏せたが、自警団には、意味がわからない。彼らは、その場にぼーっと突っ立っているほかなかった。

どーん、という音が響いた瞬間、ホテルの窓という窓から火炎が吹き出し、ホテル全体が火の柱と化した。あたかも火山が噴火するかのように、爆風でコンクリートや窓ガラスの破片が飛び散り、特に付近にいた自警団の兵士たちに降り注ぎ、まさに地獄絵図の様相を呈した。


同じ頃、ジェイスン大尉は、司令部で作戦会議を終え、街へ飲み物を買いに、ホテルのゲートを出たところであった。後頭部を思い切り殴りつけられるような爆音が響いたかと思うと、体が宙を浮き、5メートルほど吹き飛ばされた。

何が起きたのか訳も分からずホテルを見ると、ホテルは火柱と化していた。「タリバンの奇襲か?」 そう直感した。次いで、ホテルにとどまっていた、フォックス少佐、ペティソリー大尉を救うべく、燃え盛る建物へ入り、両名の名を叫んだ。

ペティソリーはすぐに見つかった。右足を骨折しているようだったが、ジェイスンの肩を借りてホテルを脱出した。次いでフォックス少佐を探した。しばらく捜索すると、落下したホテルの巨大なコンクリートの梁の下に、フォックスがうずくまっているのが見えた。

「少佐、脱出しましょう」。ジェイスンが呼びかけたがフォックスは答えない・・・。ジェイスンががれきを押しのけ、フォックスを引きずり出すと、彼は胸と口から大量の血を出し、すでに絶命していた。

「なんてこった・・」。ジェイスンは呟いた。その時、脳裏をかすめるものがあった。
「カルザイ・・」、ジェイスンは、再び言った。


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