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Posted by ミリタリーブログ  at 

2012年12月26日

死に値すべきもの The worth dying for 11

「システム、オールグリーン」。
ODB570所属のCH46のパイロット、グレック大尉は、タリン・コットの南の空き地に着陸を成功させると、すべての計器に異常がないことを確認した。背後では、PJたちが室内灯をつけて、医療装備を準備している。タリン・コットには相当数の負傷者がいるはずである。入念な準備が必要である。

陽が落ちたタリン・コットの街は、もちろん灯火管制を敷いていないのだが、暗黒の街であった。しばらくすると、車のヘッドライトが近づいてきた。グレックは、シートベルトをはずし、ヘルメットを脱ぐと、扉を開けて外に出た。

車がヘリの横に止まり、内からジェイスン大尉が出て、
「ODA574指揮官、ジェイスン・クラフト大尉です。救援に感謝します」。と、敬礼した。
グレックも、自分の所属を述べ、敬礼を返した。

「ともかく、負傷者が大量にいる。メディックは、すぐに車に乗ってくれ」。ジェイスンはそう指示し、ODB570のPJたちは、医療装備とともにトヨタピックアップに乗り込むと、闇に消えた。パイロットのグレック大尉とガナーのマルティネス軍曹らは、ヘリに残る。

タリン・コットの負傷者が集められている広場に着いたPJたちは驚いた。大量の負傷者のなか、手当をしているのは、たったひとりのメディックのケンだけだったのである。

「ほかのメディックはどこだ?アメリカ兵はいないのか?」。ODB570のPJは、ODA574のたったひとりのメディックのケンに聞いた。
「あいにく、メディックは俺ひとりだ。アメリカ兵も全部で10人くらいしかいない。とにかく人手が足りない。医療品も使い果たした。すぐに手当を開始してくれ」。

PJたちは、負傷者が並べられている広場、かがり火だけで全体を見わたすことができないが、負傷者のほとんど、いや全部がアフガン人である。彼らは、すこし戸惑った。我々は、アメリカ兵を助けるためにやってきたのではないのか・・・・。

なかなか負傷者の中に入ってゆかないPJたちに、ジェイスン大尉は、「早くやれ」。と命令した。しかし、PJの一人は、「アメリカ兵の負傷者はどこですか?限られた医療品でやるのですからアメリカ兵が優先です」。と返した。

その言葉に、ジェイスンは唖然として、人差し指を立てて言った。「彼らはアフガン人だが、アメリカ軍に協力してくれている。そしてこちらの誤爆で負傷した。助けねばならん。負傷者に国籍が関係あるのか」。

その発言に、PJたちは、黙って負傷者の中に入っていった。しかし、何か釈然としないものがあった。アメリカ人特有の、選民思想とか差別などではないアメリカ第一主義というべき発想が、PJの中に漂っている。

我々は命をかけて、仲間のシュワイン少尉の死を乗り越え、ここまでやってきた。それはアメリカ軍、アメリカのためである。自分と仲間の命をかけて行うべきことが、アフガン人の手当なのだろうか。

しかし、兵士は戦場に入ると、ある種の機械になってしまう。ODBのPJたちは、何かわだかまりがありながらも、負傷者を前にすると、テキパキと手当を開始した。

いままで、放って置かれた重傷者にも手当が施されるようになった。(戦場医療では、治療を施す順番は、運ばれた順でもなく負傷の種類でもない。助かりそうな負傷者から優先的に治療が施される)
いままで絶望的な雰囲気であったアフガン人に、希望の光が見えてきた。

応援のPJたちの働きもあり、手当にめどがついてきた時である。メディックのケンが「では、重傷者からヘリに運べ。カブールでさらに治療をする」。と言った。この言葉に、PJたちは、一斉にケンの顔を見た。


次回更新は、1月2日「死に値すべきもの」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(2)Story(物語)