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Posted by ミリタリーブログ  at 

2013年04月10日

アボタバード Abbottabad 4

乞食に変装した元グリーンベレー、チャーリー・ベッカーは、通りに車が来ないことを確認すると、箱車を漕いで、ヨタヨタと通りを横切った。アボタバードの商業地帯は、非常にいびつな形をしているのだが、東の外れに軍属の官舎と、パキスタン陸軍の士官学校があった。

士官学校の近くに来ると、当然のことながら、多くの士官候補生を見ることができた。チャーリーは、アメリカ海軍士官学校があるメリーランド州のアナポリスを連想した。若い士官候補生たちとともに、士官学校の周りには、大きな屋敷がいくつもあった。これもアナポリスと同じだと、チャーリーは思った。

日本では意外に知られていないが、アメリカのアナポリスは、士官学校の所在地であるとともに、中央政界で、政争に敗れた政治家や高級官僚などが、余生を静かに送る場所でもある。そのため、大きな屋敷が多い。パキスタンでも同じなのか、アボタバードにも、かつての大物政治の大邸宅がいくつもある。

士官学校の大きな城門の前を通り過ぎるとき、スズキのSUVが士官学校の中から出てきた。荷台には、AK47を持った兵士が5、6人乗っている。明らかに士官候補生ではない。なぜなら、肩に下士官の階級章が付いているのだ。

SUVの行き先は、市場の中心部のようだった。チャーリーは、車の行き先には、関心がないようなフリをしつつ、しかし、鋭い眼光で、車のナンバーを記憶した。奴らは何者なのか・・・・

チャーリーは、箱車を再び漕ぎ出した。右手には、士官学校のコンクリートがむき出しの壁が延々と続く。左手には、大邸宅の白い壁が続く。実のところ、チャーリーがこの場所に来たのは、初めてではない。

彼は、この街を捜索する基本ルートを8つ持っており、士官学校の周辺は、そのうちの1つである。

このルートを何回かまわるうち、付近の住民から施しを受け、ついでに世間話もし、今では、どの屋敷に誰が住んでいるかも、大体把握している。

いつもは、士官学校の外周を回って、再び市場へ戻るのだが、この日は少しコースを変え、街の郊外へ出ることにした。30分ほど漕ぐと、住宅が途絶え、一面が畑になった。

小麦畑が左側に広がり、トマト、カリフラワー、そしてキャベツ畑の畝が右側に、きれいに並んでいた。そして、その先に、白い大きな建物が見えた。チャーリーは、その大きな建物まで、箱車を漕いだ。建物に近づくと、その建物の特殊性に気がついた。

建物の周りは、白い塀で囲われているのだが、異様なのは、その高さである。塀は、平均で4から5mもあり、場所によっては、7mもあった。そして、塀の上には、有刺鉄線が張り巡らされている。さらに、監視カメラも要所に取り付けられていた。

いかに家の主が用心深いといっても、アボタバードは、治安が比較的良く、ほかの大邸宅も、ここまでしていない。

さらに、不審な点は、この屋敷には、退役した高級将校の邸宅には必ずある衛星放送のアンテナもなく、そればかりか、電話線や電線すらなかった。また、アボタバードでは、3階建以上の建物の建設が禁じられているのだが、この建物は、3階建てであった。

何かの倉庫であるといえば、そうも見えなくはないのだが、それにしては、すべてが大げさすぎるのである。

チャーリーは、付近の農民に、この屋敷の持ち主を尋ねた。農夫が言うには、この建物の所有者は、アシェットとタレク兄弟であるとのことであった。

アシェットとタレク兄弟・・・。この土地の言葉を理解できない者には、変哲もない名前に思えるが、これは、「一郎と二郎の兄弟」という程度の意味である。パシトゥー語に堪能なチャーリーは、疑念が確信に変わった。

チャーリーは、農夫にいろいろ聞きたかったが、あまり、しつこく詮索すると、かえって怪しまれるため、その場を後にし、市場へ戻った。

市場に戻ると、「町外れにある屋敷には、イスラマバードの金相場で大儲けした大富豪が住んでいるらしい」、という偽情報を、あちこちで言いふらした。この狙いは、明らかに間違った情報を流せば、真実を知っているものが、訂正するはずである。それこそが本当の情報だろう。

※この手法は、日本の警察でもよく使う手である。例えば、犯人の名が「山田」であるなら、あえて、「山本」とか「山下」という、似たような名前で聞き込みをする。そうすると、犯人は、自分の近くまで捜査が及んでいることを知るが、名前が異なるため、油断と緊張を同時にし、証拠隠滅や逃走をするため行動を起こす。しかし、その行動こそが、警察の罠にかかる元なのである。

そんな、デマ情報を数日間、流していると、
「正体はわからないが、ときどき、屋敷から女性が出てきて、街の貴金属店に、宝石を売りに来る」
「2ヶ月に1回ほど、トヨタのトラックが横付けされて、荷物が運ばれる」。
などの情報が得られた。


次回更新は、4月17日「アボタバード」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(2)Story(物語)