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Posted by ミリタリーブログ  at 

2013年06月26日

CIA長官 レオン・パネッタ  Leon Panetta 3

パネッタは、間抜けな報道官の始末を終えるとすぐに、CIA本部の地下3階にある、ビンラディン捜索特別グループ、通称BLGの責任者である、国家秘密活動部長スチュアート・カポスを呼び出した。

ほどなく、カポスがパネッタの執務室に現れた。パネッタは、カポスにソファに座るようにすすめ、両人が着座すると、「見たか?」とカポスに尋ねた。カポスは、パネッタの意図が分かっている。「ハイ」と短く答えた。

「面倒くさいことになった」。パネッタは続けた。
「万が一、ビンラディンがあの放送を見ていたら、直ちに隠れ家を変えてしまうだろう。たしかに、アボタバードに隠れているという確証はないが、私は、かなりの確率で、ヤツはアボタバードにいると考えている」。

カポスも、パネッタと同様にビンラディンがパキスタンに潜伏していると思っている。ロシアやイラン潜伏説に対して、パキスタンには、謎の電話やアルカイダ幹部のナセルがVIP待遇でいることなど、付加情報が多いからである。

「私も長官と同じ意見です。おそらくビンラディンは、隠れ家を変更するか、さらにカモフラージュを高めるなどの行動を起こすでしょう。そうすれば、今までの追跡が全て水の泡になる可能性はあります」。

「しかし、チャンスであるとも言えます。アボタバードの「隠れ家」が完成してから、丸二年が経過しています。ビンラディンがそこにいると仮定すると、奴は、2年間は追跡されていない、うまく隠れている、と思っているはずです」。

パネッタは、カポスの言いたいことが分からないような顔をした。
「つまり、安心しきっているところへ、当てずっぽうのデマ情報とはいえ、アボタバードと指定された・・・。奴は動き出すでしょう。ろくな準備も警戒もせずに・・・」。

パネッタは、カポスの意図がわかった。
「奴がアセって動き出せば、手がかりが得られるということか」。
カポスは、無言でうなずた。

翌日、パネッタの行動は早かった。現在、割と暇な地域である極東や南米担当の工作員や分析官を、ほぼ全員、ビンラディン捜索グループに編入し、衛星電話をはじめとする、さまざまな通信媒体の分析を開始した。

パキスタンに何か動きがあれば、わずかなことでも報告書にまとめるように厳命した。報告書は、1日に数百枚になることがあったが、パネッタとカポスは、全て目を通し、必要があれば協議した。

数日後、二人は、ビンラディンが、かなりの確率でアボタバードにいるという確証を得た。例の衛星携帯電話の発信が頻繁になったのである。

通話内容は、相変わらずビジネス会話のようであるが、「金を集めろ」とか「金を送れ」などの言葉が多くなった。これは今までになかった傾向である。

電話の主は、アルカイダの相当な幹部であることは分かっている。その幹部が金を集めているということは、何か行動を起こす予兆であろう。

「餌に食いついた」。パネッタとカポスは、ほくそ笑んだ。


次回更新は、7月3日「レオン・パネッタ」です。お楽しみに。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(0)Story(物語)

2013年06月19日

CIA長官 レオン・パネッタ  Leon Panetta 2

その若い女性の声-バグラム空軍基地では全滅多に聞くことのない-に、その場の全員の視線が集まった。声の主のメアリー・ヤングは、アフガンという土地で、髪の手入れができないのか、長い髪を後ろに束ねていた。そのため、顔の輪郭がはっきりと見え、ほっそりとした顔で、美人の部類に入る顔立ちだ。

「ビンラディンの捜索は、どこまで進んでいるのでしょうか」。
ありきたりの質問だが、その場の記者は、それを聞きたくて集まっているのである。しかし、トップシークレット扱いのため、このような定例記者会見で発表されることも、質問されることもない。

それくらい、当たり前の内容なのだ。しかし、メアリーは真剣に質問している。おそらく、ワシントン・ポストに所属して、初めての海外特派員の仕事なのだろう。その姿は、初々しく見えた。

アフガンで定例記者会見を行うようになって、初めての質問であり、その質問の主が美人ときている。コリンズ大尉の胸は高鳴った。

「その件につきましては、なにぶん、トップシークレットに属することでして、詳しくお答えすることができません。しかし・・・」
そう言って、コリンズ大尉は、背後にあるアフガニスタンの地図を振り返った。

「すでにご存知のとおり、ビンラディン一味は、カブールを脱出したあと、トラボラの山岳地帯へ逃げ込みました。そこで、特殊部隊と空爆により、ビンラディンを追い詰めましたが、その後の行方は分かっていません」。
コリンズは、地図上のトラボラのあたりで、指でぐるっと円を描いた。

「その後、どこに行ったのか・・・・・。ロシアに逃げたとか、イランに亡命したとか、東南アジアのイスラム勢力の保護を受けているとか・・・・・。いろいろな説が飛び交っているね」。
コリンズは、美人のメアリーの前に、頬が緩んでいる。まるで恋人に話しかけるような口調になってしまった。

「でも、一番可能性があるのは、パキスタンの田舎に潜伏してるんじゃないかな?例えば、この辺の、アボ・・・アボタ・・・、ん?読みにくい地名だね・・・。アボタバードなんてところがあやしいね」。
コリンズは、地図上の、アボタバードを指して言った。

もちろん、コリンズ大尉程度の末端の報道官に、現在CIAが行っている秘密作戦の内容が伝えられているわけではない。コリンズは、適当に地名を言っただけである。

その場の、メアリー以外の記者たちは、コリンズが適当に答えていることを十分に承知している。つまらんことを聞くなと言わんばかりの、半ば嘲笑に似た、ざわつきが記者会見場に溢れた。

しかし、メアリーは、いたって真面目である。真面目であるがゆえに、コリンズ大尉の対応や、その場の雰囲気に、自分がバカにされていることに気がつき、腹が立ち、顔を赤くした。

「それでは、アメリカ軍としては、ビンラディンは、パキスタンのアボタバードに潜伏していると考えていると、そのように記事にしても良いですねっ」。
メアリーの声は、ほとんど泣き声であった。しかし、毅然と振舞うことが、新米記者として馬鹿にされたことに対する、せめてもの抵抗だと思い、発言を終えると、すぐに記者会見場から去った。

メアリーが消えると、その場は、嘲笑に包まれ、そこでテレビ中継が切れた。おそらくテレビを見ていたほとんどの者が、軍報道官が、新米記者を適当にあしらった程度にしか写らなかっただろう。しかし、これを深刻に見ていた人物がいる。CIA長官、レオン・パネッタである。

CNNは、全世界に放送されている。アメリカ人だけでなく、イギリス人もアフリカ人も、衛星設備さえあれば視聴できる。当然、その中には、中東諸国の人々も含まれている。その中東諸国の人々の中に、ビンラディンはかなりの確率でいて、この放送を見ている可能性は高い。

「なんてことだ。万が一、奴がこの放送を見ていたら、パキスタン国内にいる奴は、たとえアボタバードにいなくても、必ず潜伏場所を変えるはずだ。せっかく掴みかけた小さな手がかりまで失うことになる・・」。
パネッタは、手にしていたテレビのリモコンを投げつけたいほどの怒りを覚えた。

すぐに、事務机にあるホットラインの受話器を取った。ワンコールで副官が出た。
「今のCNNの放送を、絶対に再放送させるな。あと、メアリー・ヤングとかいう、女性記者もアフガンから帰国させ、たとえ、3行記事であっても、絶対に記事にしないようにワシントン・ポストに圧力をかけろ。どんな手を使っても構わない」。
パネッタの声は、怒りに震えていた。

そして、受話器を置こうとした瞬間、再び、受話器を構え、冷たく言い放った。
「あの、報道官のコリンズ大尉を、今すぐアラスカのレーダー基地へ飛ばせ。着替えや防寒着は後から送ってやればいい」。


次回更新は、6月26日「レオン・パネッタ」です。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(2)Story(物語)

2013年06月05日

CIA長官 レオン・パネッタ  Leon Panetta

バージニア州 ラングレー 2010年12月7日、現地時間6時45分
第22代CIA長官レオン・パネッタは、ベトナム戦争中は情報将校であり、その後、カリフォリルニア州の弁護士となった。やがて弁護士から政治家に転身し、保険省、教育省長官を務め、福祉の公民権専門[市民運動]の弁護士でもあった。

国会議員の8期目には、行政管理予算局の責任者の職務に就き、やんちゃで聞き分けのない若者が、ビル・クリントンであるが、第42代大統領になったとき、その若者は、自分を補佐する人物としてパネッタを主席補佐官に任命した。以来、パネッタは、政治の中枢にいた。

いつもならこの時間は、アルジャジーラ、CNN、BCCを見ながら、CIA本部の地下にあるトレーニングジムでランニングマシンの上で5マイルほどの距離を走っているところだった。

バージニア州ラングレーの6時45分は、アボタバードの15時45分なのだが、なぜか、パネッタは、パキスタンに潜伏しているチャーリーのことが気になった。

パネッタは、チャーリーがバグラム空軍基地を去る3週間前に、極秘に面会していた。バグラム空軍基地に、急遽作られたCIA長官室にチャーリーを呼び寄せ、顔を付き合わせて、チャーリーが行おうとする、勇気ある行動を賞賛した。

「あの男は、今、何をしているのか・・・」。パネッタは、ランニングマシンの上でぼんやりと考えていた。

ランニングを終え、シャワーを浴び、衣服を整えて、CIA長官の執務室に戻った。テレビをつけると、CNNが流れた。ソファにもたれながら、ボーッとテレビを見ていた。

ビンラディンの行方は、依然として分からない。さまざまな報告が上がってくるが、どれも確証となるほどのものではなかった。しかし、パネッタの、情報将校としての技術と勘、そして弁護士としての理論的な思考から、ビンラディンは、パキスタンのどこかに潜伏していると考えていた。

それゆえ、元特殊部隊のチャーリーを乞食に変装させ、単身、パキスタンに潜入させるようなリスクの高い作戦も実行している。
「間違いない。ビンラディンは、必ずパキスタンにいる。絶対に見つけ出せ」。パネッタは、この言葉をチャーリーへの餞別(せんべつ)とした。

テレビのCNNは、たわいもない国内ニュースを流している。まもなくバグラム空軍基地の定期記者会見が始まる。


同時刻のバグラム空軍基地では、マイク・コリンズ陸軍大尉が定期記者会見の準備をしていた。コリンズ大尉は、6ヶ月ほど前に、現地報道官としてバグラム空軍基地に赴任してきた。

当初は、初めての海外任務で、うれしくもあり緊張もしていたが、3ヶ月を過ぎたあたりから、アフガニスタンの環境が、退屈で孤独な時間であることが分かり、ウンザリしていた。

バグラムから一歩でも出れば、テロリストから狙われ、治安などあったものではなく、ほぼ1日を基地の中で過ごし、宿舎とオフィスを往復する日々だった。

記者会見といっても、何か特別なことを発表するわけではない。○○村で弾薬が100キロ見つかったとか、週末に、現地民とサッカーの親善試合が行われるといった内容がほとんどであった。

報道各局の記者たちも、記者会見にはやってくるが、誰ひとりとして、メモも取らなければ、質問もしない。コリンズ大尉が一方的に喋って、記者会見は終わる。

副官から記者会見の原稿を受けると、コリンズは、会見場へ移動した。中央の壇上に立つと、いつものように、やる気のない記者たちが待っていた。

いつものように、コリンズは、一方的に原稿を読み上げ、最後に、「以上です。何か質問は?」。これもいつもどおりであった。10秒。10秒待って質問がなければ、記者会見は終わる。コリンズは心の中で数えた。

「8・・・9・・・」と会見場の後ろの壁を見ながら数えた時、「報道官、1つお尋ねしても良いでしょうか?」。1オクターブ高い声が聞こえた。コリンズ大尉だけではない。その場にいた全員が、声の主に向かって振り返った。

「ワシントン・ポストのメアリー・ヤングです。ここ数日、動きがないようですが、ビンラディン捜索は現在どこまで進んでいるのでしょうか?」。

声の主は、まだ、20代半ばの若い女性記者であった。コリンズ大尉を含む、その場の全員の時間が一瞬止まった。


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