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Posted by ミリタリーブログ  at 

2013年07月24日

シールズ・チーム6 Seals team 6

カンバーランド・パークウェー・バージニア州、現地時間、午前5時00分。

ラングレーのCIA本部で、パネッタとカポスが協議しているとき、ヴァージニア州のパークウェーでは、トロイ・ロバート軍曹が、毎朝必ずやっている10分間のストレッチを終えていた。

この10分間のストレッチを行ってから、12キロのランニングを行う。この日のコースは、トラッシュモア湖の西側を走り、ブロークロークカントリークラブの外周を回るものだった。ランニングのコースは、全部で8種類あって、毎日コースをランダムに変える。これがトロイの安全対策でもあった。

安全対策は、コースを変えるだけではない。腰には、グロック26が入ったカイデックホルスターをつけ、足首には、ラシド・ディッチナ・ナイフを隠していた。これならば、万が一、暴漢に襲われても撃退できる。

走っているときも、警戒を怠らない。速く走るのが目的ではない。走りながら周囲を警戒し、不測の事態を想定し、すぐに対応できるようにするために走っている。心のどこかで、誰かが攻撃してくれないかと、期待しているほどだ。12キロ距離は、現役のシールズ隊員には、警戒しながらでも40分程度で走りきってしまう。

自宅まで残り100メートル。いちばん警戒レベルを高める。「敵」が、自分の家族を人質に立て篭り、待ち伏せしているかもしれない。トロイは、走るのをやめ、いつでもグロック26を抜ける体勢で、ゆっくりと自宅まで歩いてゆく。

家のドアまで、何事もなくたどり着いた。いつものように呼び鈴を3度、鳴らす。誰も応答しない・・・・。ドアノブを回すと、鍵がかかっていない・・・。

ドアには十分に注油がされているため、静かに引くと全く音がしない。トロイは気配も立てずに、キッチンへ進む。キッチンのドアを押して室内に入ると、妻のブリタニーの後ろ姿が見えた。そのときはじめて、「ただいま」、と声を発した。

「いつもどおり、6時ジャスト。さすがね」。妻のブリタニーは、振り返って微笑みながら言った。
トロイとブリタニーは、帰宅時間とそのサイン、つまり、呼び鈴の数を、あらかじめ決めてから外出する。それ以外の時間と呼び鈴の数の場合、トロイが家にいるときは戦闘態勢をとり、ブリタニーが家にいるときは、地下の物置に隠れることになっていた。

トロイの妻のブリタニーは一般の女性である。結婚するとき、トロイから、「俺は、軍人で、特殊部隊に所属している。だが安心してくれ。特殊部隊といっても、ロジテスク(兵站)部門にいるから、戦場に行くことはないよ」、と言われた。

しかし、どうだろう。結婚して新居に引っ越したらすぐに、この外出ルールを守るように言われた。「用心深い」の一言では済まされないだろう。

「軍人とっても、ロジテスクは、サラリーマンみたいな仕事だ。毎日、同じことをする。同じ時間に出勤して、同じ時間に帰る」。トロイは、何度もブリタニーに言い、実際にそのような生活であった。

しかし、ときどき、緊張した顔で、「出張だ」。と言うときがある。そして、庭に置いてあるコンテナに篭ると、まる1日出てこない。そのコンテナには、ブリタニーは、入ることも近づくことも許されなかった。

やっとコンテナから出てきたかと思えば、しばらく実家に帰れと言う。当初は、夫婦のあいだで隠し事があることに、苛立つこともあったが、やがて、その隠し事こそが、二人の関係を永遠に続けるために必要なものであると、ブリタニーは、理解した。

外出のルールもさることながら、「健康管理」のためのランニングに、なぜ銃を持っていくのか?
疑うほうがが野暮というものだった。


次回更新は、8月7日「シールズ・チーム6」です。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(0)Story(物語)

2013年07月17日

CIA長官 レオン・パネッタ  Leon Panetta 5

謎の衛星携帯電話の持ち主が、アボタバードの屋敷に出入りしていたタレクであることが分かると、CIA工作員に加え、NSC(National security council・・・国家安全保障局)のスタッフも、タレクの尾行を行った。

タレクは、絶えず移動していた。その行動範囲は、主にアフガニスタンとパキスタンの中小都市を結んでおり、その都市にある、宝石商や不動産などの会社に出入りしていた。おそらくその会社が、アルカイダの拠点であり、資金調達の手段なのだろう。

タレクのあとを追って、それらの拠点が分かるたび、CIAは、工作員を1人づつつけ、電話などを盗聴した。その数は、驚くべきことに200箇所にもなった。

あまりの多さに、工作員が足りなくなり、CIAの内勤スタッフでさえも、パシュートゥ語などが不十分にもかかわらず、現地に派遣された。

これには、CIAおよびNSCの各部署からクレームが出たが、カポスは、以下のように反論した。
「物事には、80パーセントの完成度で良いものもあれば、100パーセントでなければならないものもある。99パーセントでもダメだ。ビンラディンの追跡は、まさに100パーセントの精度が求められるものだ」。

小さな拠点をいくつも作り、少しずつ資金を集めていたのだろう。また、かつてのタリバン勢力に属していた者は、比較的裕福層が多い。宝石や不動産の会社ならば、出入りしていても不自然ではないし、おそらく、そこで資金をアルカイダやビンラディンに「寄付」していたにちがいない。

タレクを追跡していると、もう1つ特徴があることがわかった。奴が建物から出てくると、おそらく資金を回収したのだろう、その金で、保存の効く缶詰などの食料品や衣類を、大量に買い込むのである。

なるほど、現金を、金融機関を使って送金すれば、すぐに足がついてしまう。また、大量の現金を持ち歩くのも危険だ。そこで生活物資を購入して、アボタバードに送っているのだろう。

またその輸送も、アフガン-パキスタンには、Fedexのような運輸会社があるわけではない。いくつもの業者が中継して輸送する。1個口で送った荷物も、中継点で分割されることがあり、こちらも追跡が難しくなる。

「どうりで、今まで足がつかなかったわけだ」。
ラングレーのCIA本部で、パネッタとカポスは、顔を見合わせて、敵の緻密な行動に感心した。

「さて、これからどうする?」。パネッタは、カポスに尋ねた。
「1つは、タレクが送った荷物です。多分、アボタバードの屋敷に送っていないでしょう。屋敷の近くの倉庫か何かに保管して、必要最低限の量だけ、屋敷に運び込んでいるはずです。それらを押さえて兵糧攻めにする」。
「もう1つは、奴らの集金ネットワークの全容を突き止め、アフガン・パキスタン政府に圧力をかけて、そのネットワークを潰す・・・・」。

「大掛かりなものになるな・・」。パネッタはつぶやいた。
「南米の麻薬王を捕まえるのとは訳が違います。中国のことわざに、「至らざるは、無きが如し」というのがあるそうです。「完璧でないものは、存在しないのと同じだ」、という意味です。ここで、手を緩めては、今までの苦労が泡と消えます」。カポスは答えた。

「わかった。大統領と国務長官に相談する」。パネッタは、そう言うと、執務室から出て行った。


次回更新は、7月24日「シールズ・チーム6」です。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(2)Story(物語)

2013年07月03日

CIA長官 レオン・パネッタ  Leon Panetta 4

ビンラディン特別班、通称BLGは、CIAの中でも特殊なセクションであり、公式の組織図にも記載されていない。もともとは、CIA内部のテロリズム対応センターとしてあった組織が、中東情勢の緊迫化から拡大され、さらにビンラディンの逮捕・殺害が主な任務となったものである。

このBLGには、軍やCIAの諜報活動のプロフェッショナルだけでなく、言語学者、中東の歴史家、心理分析官、経済学者など、わずかでも中東やアフガニスタンに関わる知識がある者が集められている。

この組織の特殊性の中で1番際立っているのは、諜報や分析の結果得た情報やデータを、他の組織に提供せずに、独自の判断で運用する点である。予算が10億ドル単位で割り振られているにもかかわらず、CIA以外の組織と連携しないのだ。

軍人出身のレオン・パネッタをCIA長官に据えることで、軍とCIAの融和を図った人事であったが、パネッタ自身が、CIAの諜報能力に驚き、今では、完全にCIA側の人間になってしまった。他の組織と連携しないのは、パネッタのそうゆう個人的な事情もあるかもしれない。

衛星携帯電話の傍受が継続されている。電話の主が、カネについて、いろいろと言及しているという傾向に加えて、2つ、新しい傾向が加わった。

1つは、従来は、5日とか10日間隔で、トルコ、イラク、アフガン、イラン、パキスタンなど、中東のさまざまな国で発信されていたが、電話の発信地が、アフガン・パキスタン両国に集中し始めたのである。

2つ目は、今まで「ダイヤ」としていた主語が、「主(マスター)」に変わったことである。この報告書が上がってきた時、パネッタとカポスは、電話の主が、ビンラディンに直に接触することができる人物であり、同時に、アボタバードに、ビンラディンが潜伏していることを確信した。

この電話の主は、どのような人物なのか?CIA内部では、より正確な情報を得るため行動を起こした。今まで、イランやトルコなどに配備していた工作員を、アフガン・パキスタンに集中させ、電話の発信ログを元に、この人物を突き止める作戦を開始した。

「電話が発信されたら、その座標をすぐに連絡する。そちらは、その座標に急行し、電話の主がどんな奴なのか調べろ。だが、決して気づかれるな。逮捕もしてはいけない。泳がせろ」。
BLGリーダーであり、国家秘密活動部長のスチュアート・カポスは、現地の指揮官に厳命した。

その後、3ヶ月の間、CIAと電話主とのあいだで、熾烈な「鬼ごっこが」繰り返された。敵も相当、警戒しているのだろう。電話を切るとすぐに移動しているようで、工作員が発信座標に到着した頃には、すでに気配すらないことが多く、時には、高速で移動する車中から発信することもあった。

しかし、最終的には、アメリカの最新技術、物量、人海戦術により、発信者のありかを突き止め、写真を撮ることに成功した。すぐに写真は、ラングレーのCIA本部へ送られた。

写真を見たパネッタとカポスは、驚きとともに予想どおりという反応をした。写真に写っていたのは、アボタバードの例の別荘に出入りしていた、タレクだったのである。


次回更新は、7月17日「レオン・パネッタ」です。Vショー出店のため、1週お休みします。
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