2013年09月25日

キャンプ・アルファ Camp α 3

キャンプ・アルファに来たチャーリーは、特にすることがない。今まで働いていた分、休んでいれば良いのだが、もともと軍人なだけに、ダラダラ過ごすことができず、毎日、一定の距離を、義足と松葉杖で歩く訓練をした。しかし、数年間、箱車を使っていたため、正直なところ、この歩行訓練は辛く、時々、サボることもあった。

それを不憫に思ってか、基地責任者のカポスが電動くるま椅子を用意してくれた。そればかりか、主要な建物の入口にスロープ(傾斜)まで作ってくれた。
「アメリカと同じだ。ありがたい」。チャーリーは、つぶやいた。

数日後、チャーリーは、カポスに呼ばれ、カポスの執務室へ行った。執務室は、クーラーが効いていて快適だった。今日は、カポスと初めて打ち合わせをする。
「チャーリーさんは、奴がどこに潜伏していると思いますか?」 初めての打ち合わせであるせいか、陳腐な質問から始まった。

チャーリーは、すでに何度も語られたであろう、ビンラディンがあの屋敷にいる可能性や証拠について語った。カポスもじっと聞いている。最後に、ポケットから例の指輪を取り出すと、カポスの前に滑らせた。

「その指輪は、脱出の直前に、アボタバードの宝石店で手に入れた。裏には、サウジ王室に非常に近い人物しか持つことが許されないことを示す紋様がある。あの田舎町でそんなものを持っている者・・・。奴しか考えられん」。
カポスは、指輪をつまみあげると、チャーリーを見て頷き、「この指輪は、しばらくお預かりします」。

次いで、カポスは、「アボタバードの隠れ家の詳細な3D映像ができました」、と、大型プロジェクターのスイッチを入れた。「意外にでかいんだな」、チャーリーがつぶやくと、カポスの方が、意外という顔をした。それに気がついたチャーリーは、「俺は、箱車に乗って、壁しか見ていない」。カポスは納得したようだった。

カポスが映像を使って、建物を解説した。
「よく考えられている」。チャーリーは、感心した。建物は、いびつな三角形の塀に囲まれている。外界とつながっている門を抜けても、すぐに母屋に行けるわけではなく、三角形の頂点に向かって回廊が伸びている。この回廊を移動している間、絶えず母屋と、回廊の先からの攻撃にさらされる。




かろうじて、回廊を抜けたとしても、頂点部分がトラップになっていて、母屋から攻撃を受け続ける。その後、母屋のエリアに侵入すれば、そこは火力が集中しており、それらを制圧するには、相当な犠牲を覚悟しなければならない。

畑のエリアから侵入しても、遮蔽物のない畑を進む間、3階建ての母屋から狙撃を受けることになるし、母屋のエリアに侵入しても、重厚な攻撃を受けることになる。この屋敷・・というよりも城塞を攻略するには、優れた部隊が必要である。

「この作戦を遂行できる部隊といえば、デルタフォースか?」 チャーリーは、カポスに聞いた。
しかしカポスは、「デルタは縁起が悪いです」。と答えた。カポスの意味するのは、イーグル・クロウ作戦の失敗だろう。その答にチャーリーは、また鼻で笑ってしまった。情報を収集し、分析し、そのうえで実行するCIAが、縁起を担いでいるのである。

「デルタでないとすると・・・、シールズ・・・。チーム6?」 チャーリーの問いに、
カポスは、「今日は、ここまでにしましょう。しかし、現在、アフガンの某所にキルハウスを建設中です」。と答えた。

次回更新は、10月2日「キャンプ・アルファ」です。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(2)Story(物語)

2013年09月18日

キャンプ・アルファ Camp α 2

乞食のチャーリーは、指輪を受け取ると、そのまま町にあるCIAの拠点に入った。そして、何年かぶりにシャワーを浴び、ヒゲを剃り、清潔な体になった。

案の定、翌日には、「あの乞食は相当な金を持っている」、という噂が広まり、街中の人間が、チャーリーを探した。街の有名人で金持ちを見たいという者もいれば、今までの浄財を返せと怒る者おり、いずれにせよ、チャーリーは、アボタバードに居られなくなった。シャワーを浴び、ヒゲを剃ったのも、今が撤退の潮時と考えたからである。

さて、あの指輪であるが、さらに調べてみると、男性王族が持つ物と女性王族が持つ物、また、王族のグレードにより、紋様に微妙な違いがあることがわかった。指輪の紋様は、男性王族で、しかも、かなり王室に近い者がもつものであることがわかった。

パキスタンの片田舎で、サウジ王室に密接に関わりのある者・・・。チャーリーは、パキスタン在住のサウジ王室の者を調べた。3名ほどいたが、すべて首都イスラマバードに住んでおり、王室との関係も、この指輪が持てるほど深くなかった。

ビンラディン以外に、何者があの屋敷に住んでいるのだろう。チャーリーは思った。ビンラディンはサウジ王室に近い。例えば湾岸戦争の時、ビンラディンは、ファハド皇太子に謁見し、アメリカ軍をサウジに入れないように進言した。皇太子に謁見を許される程の者ならば、この指輪を持っていてもおかしくない。

数日後、チャーリーは、この指輪とともに、荷物に紛れて、パキスタンを去った。


アフガニスタン某所 キャンプ・アルファ
アフガニスタンの砂漠の真ん中に、古ぼけたコンテナが大量に遺棄されている。塗装が剥げ、腐食が始まっている。コンテナにキリル文字(ロシアの文字)があることから、ソ連侵攻時に、ソ連軍が持ち込み、そのまま捨てていったのだろう。コンテナは、2段に重ねられ、整然と並んでいる。遠目で見れば、まるで城壁がそびえているようである。

誰が見ても、遺棄されたコンテナ群にしか見えないのだが、このコンテナ群には、カラクリがあった。実は、コンテナはロの字に並べられており、真ん中に空間が空いている。広さは、ちょうどサッカーコートほどである。そのコートほどの広さのところに、大小さまざまな仮設の建築物が建っていて、まさにコンテナは、城壁のようにそれらの建築物を囲んでいる。

その城塞の中の建物の1つに、先ごろアボタバードを脱出したチャーリー・ベッカーがいた。両足のないチャーリーは、ソファに座っていた。すでに、体を洗いヒゲを剃り、アメリカ人の顔に戻っている。長く伸びた髪は、後ろに束ねている。

そこに、男が一人入ってきた。国家秘密活動部長のスチュアート・カポスである。チャーリーは、その姿を見て、鼻で笑った。「CIAのお偉いさんってのは、世界のどこでもアメリカと同じ生活をするんだな」。

カポスの格好は、下はスラックスを履き、上はネクタイこそしていないが、糊の効いたシャツを着ていた。この建物もクーラーが効いていたし、カポスの机と思しき所には、パソコンが2台もあった。
「ここは、ビンラディン追跡の最前線基地です。これくらいは普通でしょう」。カポスには、チャーリーの嫌味が通じていない。

チャーリーは、バグラム空軍基地に到着したらすぐに、ヘリに乗せられ、この秘密基地、キャンプ・アルファに連れてこられた。与えられた役割は、カポスのアドバイザーである。
「危険な任務、ご苦労様でした。しばらくここで休んでください」。カポスは、丁寧な言葉遣いで言った。

「ありがとよ。ここはアボタバードに比べれば、飯は美味いし、ビールも飲める。クーラーも効いて、シャワーも存分に使える。まさに天国だ。しばらく厄介になる」。
チャーリーは、義足を付け、松葉杖を掴むと、キャンプ内の自室へ戻っていった。

次回更新は、9月25日「キャンプアルファ」です。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(0)Story(物語)

2013年09月11日

キャンプ・アルファ Camp α

ラングレー、CIA本部
CIA長官室で、CIA長官レオン・パネッタと国家秘密活動部長のスチュアート・カポスがソファに座り、対談している。「何か動きがあったか?」 パネッタの問いに、
「はい、アルカイダの資金調達係のタレクが物資を送っている、パキスタン内の倉庫の位置が判明しました。アボタバードの屋敷から20キロほど離れた雑居倉庫に運び込まれているようです」。カポスは答えた。

「それで?」 パネッタが重ねて問うと、
「現在、合法的に、その倉庫を買収するか、賃貸契約を結ぼうと活動中です。それらが完了したら、タレクの荷物を押さえてしまいます」。

パネッタは、目を閉じて聞いている。
「もう一つ、アボタバードの屋敷で動きがありました。屋敷の東半分は畑になっているのですが、その畑に頻繁に人が現れるようになりました。しかも銃を持って・・。衛星画像を分析したところ、おそらく15人近くがあの屋敷に住んでいます」。「武装した者が15名もいる。相当な確率でビンラディンがいると見ていいですし、ヤツは警戒しています」。

パネッタは、目を閉じて、鼻で息を吐きながら、「それで?」、再び尋ねた。
「そろそろ、アフガンに現地司令部を設置しましょう。私が指揮を執ります」。
「わかった。うまくやれ」。パネッタは短く言うと、カポスは、一礼をして執務室を出て行った。

パキスタン アボタバード
乞食に変装した、元グリーンベレー隊員のチャーリー・ベッカーは、引き続き、アボタバードで情報を収集している。今では、すっかり街の名物になり、街の金持ちの中には、「我が家で一生暮らせ」と言ってくれる者も現れたが、断った。

スパイが目立つことは良くないことであるが、チャーリーは、むしろ目立つことで、情報の収集がしやすくなっていた。街をウロウロしているだけで、人々から声をかけられ、世間話をし、その中で、あの屋敷のことをいろいろと聞き出すことができた。

その情報の中で気になるものがあった。
「不定期だが、屋敷から女性が出てきて、街の宝石店に貴金属を売りに来る」、というものだった。
屋敷からは、ほとんど人の出入りがないだけに、チャーリーは、その女性の動きが気になった。アボタバードは小さな町である。貴金属店も多くなく、その店も、世間話の中で特定することができた。

数日後、チャーリーは、その貴金属店の周りをウロウロした。貴金属店と言っても、西洋のそれとは大違いで、宝石などはほとんどなく、主に、金・銀などメインに扱っている個人商店のようなもので、別段、怪しいところはない。

店の前を何往復もしていると、店のオヤジが、気がついた。
「もしかして、お前さんは、あの名物乞食か?」 店のオヤジは親しげに尋ねた。チャーリーは頷くと、オヤジは嬉しそうに笑った。街の有名人に会ったオヤジは、いろいろと世間話を話した。しばらくして、話の区切りがついたところで、「売ってもらいたいものがあるだが・・」、とチャーリーは切り出した。

その言葉に、せっかく街の有名人と知り合いになって有頂天な店のオヤジは、怪訝な顔をして、「あいにくと、ウチには、お前さんが買えるようなものはないよ」、と言った。

「カネならある」。チャーリーは、懐から札束を取り出した。その量に、オヤジはギョッとした。驚くオヤジを見て、「乞食は意外に儲かる。しかも生活費がかからない」。その言葉にオヤジも納得した。もちろんこの金は、CIAが活動資金として用意したものである。

「しかし、なんで貴金属を買うんだい?あんたには必要ないだろうに」。
「イスラマバードの縁者のところに行くのに、手ぶらでは行けまい。一生世話になるんだ。確か、妻と娘がいたはずだ。その二人に手土産を買おうと思ってな」。オヤジは再び納得した。

貴金属店のオヤジは、チャーリーの持っている札束を見て、上客の扱いをした。普段は店の奥にしまってある金器などを出してきたが、チャーリーは嬉しそうな顔をしない。
「不具の乞食が持ち歩くんだ。大きいものは困る。小さくて、珍しいものがいい」。チャーリーのリクエストに、オヤジは、思い出したように、店唯一のショーケースから1つの指輪を取り出した。

「こいつは、うちでは珍しいダイヤの指輪だ。2日前、ある金持ちの御婦人から買い取ったものだ。ダイヤの大きさといい、リングの金の彫刻といい、相当値の張るものだ。こんなものを、田舎の店に持ってくるんだから、相当、金に困ってるのかな?うちもいい買い物をさせてもらったよ」。

その言葉に、チャーリーの目が光った。「オヤジ、それを見せてくれ」。
チャーリーは、その指輪を受け取ると、鑑定士のように見た。リングの裏側に、ある紋様が彫ってある。その紋様とは、サウジの王室のもので、この紋様がある品物は、サウジ王室に縁のあるものしか所持することができない。

「オヤジ、これを頂く。金は全部置いてゆく」。チャーリーは、ふところとカバンの中の札束を全部出すと、指輪だけ受け取り、店を出た。あとでオヤジが札束を数えてみると、店の全商品を買っても、おつりが出るほどの金額だった。


次回更新は、9月18日「キャンプ・アルファ」です。
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