2010年11月03日

タクールハーの戦い Battle of Takur Ghar

2002年3月4日未明。アフガニスタン東南部のタクール・ガール山頂付近を、特殊部隊を載せたMH-47Eチヌークが飛行していた。この特殊部隊は、タクール・ガール山頂付近に司令部を作るための先遣隊で、その任務は、司令部を作る場所の確保と土地の測量であった。さして難しい任務ではなかった。

チヌークが特殊部隊と物資を下ろすため、着陸態勢に入ったそのとき、1発のRGPがチヌークに命中した。そのときから状況が一変し、激しい戦闘が開始された。この戦闘は、アフガンに侵入して以来、タリバン・アルカイダから抵抗らしい抵抗を受けてこなかった特殊部隊にとって、もっとも過酷な戦闘となった。

タクール・ガールの戦い、すなわち、アナコンダ作戦は、アフガンのガルディーズ地方に広がるシャハ・エ・コット渓谷に潜伏するアルカイダを攻め潰すことである。

具体的には、
1渓谷の要所に観測員をおき、タリバン兵の拠点の位置を航空機に知らせ、空爆を行う。
2空爆を避け、退却するアルカイダ部隊をさらに空爆し、山岳地帯へ追いみ、タクール・ガール山を越えさせる。
3タクール・ガール山の東側には、第10山岳師団および第101空挺師団が鶴翼の陣で展開し、山越えで疲れきったアルカイダを一網打尽にする。

空爆で追いたて、地上部隊が殲滅するといった作戦は、湾岸戦争でも行われ、かなりの戦果を上げていた。この作戦の要は、航空部隊と陸上部隊の綿密な連携であった。

しかし、だだっ広い平原で行うならいざしらず、シャハ・エ・コット渓谷のような非常に険しい地形で行うためには、司令部、航空部隊および陸上部隊の無線通信が確実に行える必要があった。同渓谷は、3000メートル級の山々が連なる渓谷地帯であり、場所によっては、まったく無線が使えなかった。

山岳機動部隊司令官、ハーゲンベック中将は、渓谷に展開している軍を再編成し、司令部を高地へ移すことに決めた。司令部が見晴らしのよい高地にあれば、渓谷に展開する部隊に無線も届くからである。

ハーゲンベック将軍は、偵察部隊を近隣へ派遣し、適当な場所を探させた。数日後、「3,000メートル以上の高地で、タクール・ガール山の頂上は見晴らしがよく、部隊指揮には理想的である」と報告を受けた。

将軍は、衛星写真だけでなく、山頂付近にチヌークを何度も飛ばして分析した。偵察部隊の報告どおり、周囲の見晴らしもよく、うまい具合に、山頂付近には木が一本もなかった。これならレーダー施設も造れるかもしれない。将軍は、直ちに同地を確保するように命じた。

理想の場所を見つけたと喜んでいたのは、ハーゲンベック将軍だけではなかった。山頂を頻繁に飛行するチヌークから、近く山頂付近に何か動きがあると感じた人物がいる。アルカイダ司令官のハザラト・アリである。

「アメリカ軍は山頂で何かする気だ。兵を山頂へあげろ。オレも山に登る。武器弾薬もあるだけもって行け。重機関銃はもとより、可能なら野砲も上げろ」。「アフガン開戦以来、アメリカに反撃するときがついに来た」。ハザラト・アリは、ほくそ笑んだ。

次回更新は、11月10日 「タクール・ハーの戦い2」です。お楽しみに。
写真は、イメージです。ご意見、ご質問をお待ちしております。
タクールハーの戦い Battle of Takur Ghar

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Posted by 友清仁  at 07:05 │Comments(2)Story(物語)

この記事へのコメント
 毎週、すばらしい記事を楽しみにさせていただいております。ついに待ちに待った「ロバート・リッジの戦い」に連載が突入し、居てもたっても居られず、コメントさせていただきました。
 まるで彼の地に居合わせたかのような臨場感ある記事を、毎週ただで拝見させていただいており心苦しい限りですが、きっとこの作戦に関しても圧倒的な情報量を提供してくださるものと期待しております。
 日本ではほとんど語られる事のない戦いですが、あの日、あの頂で起きた出来事の真相を是非、よろしくお願い致します。
Posted by てけひろ at 2010年11月03日 21:25
てけひろ さま

ご購読いただき、ありがとうございます。
大変お待たせいたしました。ついにアナコンダ作戦に突入いたしました。
私としても、これがアフガン戦最大のクライマックスと考えております。皆様の期待を裏切らないよう、鋭意、取り組みたいと思います。
今後ともよろしくお願いします。
Posted by 友清仁友清仁 at 2010年11月04日 07:13
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