2011年03月09日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 15

一方、レーザー02のレンジャーである。
このレンジャー部隊を統率するのは、オスカー・エスカーノ大尉である。エスカーノは、湾岸戦争時はまだ新米少尉で、戦場すら行かなかった。その後、サウジなどの中東諸国で訓練を行ったことはあるが、実戦は初めてであった。

初めての実戦でありながら恐怖心はさほどなかった。チヌークのエンジンの振動も、ハッチから見える眼下の風景も訓練時となんら変わることがなかった。「恐れることはない。実戦でも訓練と同じことをすればいい」。と念じた。

エスカーノ大尉は、それでも訓練と実戦とは違うのだと自らに言い聞かせるため、胸のポーチからペンを取り出し、左手に「God bless U.S.A.(神の加護あれ)」、右手に「911(9・11の意)」と書いた。チヌークの振動も眼下の風景も変わることはなかった。

「まもなく着陸地点到着します。お客様はシートベルトを締めてください」。
チヌークのパイロットからの無線であった。実戦では誰しもが緊張する。普段はくだらないと思う冗談も、このときばかりは心地よかった。「降下用意!装備確認」。エスカーノ大尉は部下に怒鳴った。

チヌークがどんどん高度を下げていった。アルカイダは、再度、獲物をしとめようとRPGを撃ってきたが、500m以上離れているため、すべてが見当違いの方向に飛んでいった。チヌークの左右のミニガンが火を噴いた。すさまじい火力に、アルカイダはタコツボから頭を出すことができず、再び銃だけを出して、「めくら撃ち」をはじめた。

パイロットのスレイマン中尉は、このまま着陸すらできるのではないかと思ったが、その一瞬後、松の大木の下で対空砲の砲身がゆっくりとこちらに回転しているのが見えた。

「12時方向、対空砲あり!退避!」。そう叫ぶと、操縦桿を思いっきり引いた。機内は、ジェットコースターのように揺れ、レンジャーたちはヘリの壁に押し付けられた。その直後、対空砲の火箭がチヌークの下に走った。一瞬遅れていれば、レーザー02も、アルカイダの対空砲で串刺しになるところであった。

間一髪、危機を乗り越えたレーザー02は、「松の大木の下に対空砲あり。予定着陸地点には、着陸は不可能。指示を待つ」。と司令部に打電した。ハーゲンベック将軍は、「レーザー02は、安全に着陸できる地点まで退避し救出部隊を下ろせ」。と命令した。レーザー02は、山頂から5キロ下に降下して、レンジャーたちを下ろした。

ハーゲンベックは、エスカーノ大尉に、「大尉、その場所まで、山頂のセルフ大尉たちと負傷者たちが下ってくることができるか?」と尋ねた。
エスカーノは、山頂を見上げ、「途中、急斜面や雪が深いところもあり、負傷者をかかえ戦闘しながら移動するのは不可能です」。と返した。さらに、「山頂の対空砲や陣地を始末しない限り、ヘリによる撤退は難しいと思います」。と続けた。ハーゲンベックは、至急、山頂のセルフ大尉たちと合流するように命令した。

そのころになると、退避していたSealsも山頂を目指し行動を開始したが、アルカイダの巧みに構築されたタコツボ陣地に阻まれていた。アルカイダは、AKによる射撃に加え、迫撃砲を撃ち込んできた。その距離はわずか500mである。仰角は、ほぼ直角である。命中精度は、お世辞にも良いとはいえないが、それでもSealsたちの急造陣地の30~50m付近には絶えず落下していた。

アメリカ軍は、GPSを使って、はるかに離れたところから針の先ほどの地点に何トンもの爆弾を落とすことができるが、GPSがなければ目標付近に落とすことさえ難しい。

それに対しアルカイダは、わずかな距離でも命中こそできないが、間段なく迫撃砲を撃つことでSealsたちを釘付けにしていた。否、迫撃砲とは、点に命中させる兵器ではなく、面を制圧する兵器なのである。そういった意味で、アルカイダは、戦闘における必要と十分を本能的に理解しているのかもしれなかった。
タクール・ハー山頂を巡る戦いは、いまだ予断を許さない。


次回更新は、3月16日「タクール・ハーの戦い」です。お楽しみ。
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Posted by 友清仁  at 07:01 │Comments(0)Story(物語)

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