2011年04月06日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 19

「レーザー03より報告。タクール・ハー山頂の敵司令部を占領しました。負傷者多数。至急、救援ヘリを」。激戦を制したレンジャー小隊の隊長である、セルフ大尉は、意気揚々と司令部へ報告した。ガルディーズのハーゲンベック将軍は、「大尉、困難な戦闘をよく戦った。貴官と部下の奮闘に感謝する。至急、撤退用のヘリを向かわせる。しばらく待機せよ」。と返した。

ガルディーズからタクール・ハー山頂まで、ヘリで30分ほどである。救援ヘリはすぐに来るかと思ったが、なかなか姿を現さなかった。そればかりか無線も沈黙したままであった。それでもセルフは、少しも不思議に思わず、PJのハニンガム軍曹に負傷者を搬送する用意をするように命令した。だが、山頂のセルフたちは気がつかないが、司令部では大変なことになっていた。

「着弾測定員から司令部へ。アルカイダ戦闘員は、陣地を捨て、山頂へ向かっています。その数100名以上」。
司令部の高級将校たちは、山頂の画像を見て驚愕した。着弾測定員の報告どおり、アルカイダが、セルフ大尉たちが待機している山頂へ向けて続々と移動しているのである。その光景は、タクール・ハーという砂糖の山に群がる蟻のようだった。救助ヘリなど派遣することなどできない。

アルカイダ司令官ハザラト・アリは、山頂のタコツボを中心に各所にタコツボ陣地を作り、アメリカ軍を撃退する作戦を立てていた。周辺陣地の小隊長には、山頂でどのようなことがあっても、部署を守るように厳命していた。そのため、各陣地に不安を与えないように、頻繁に伝令を走らせ戦況を伝えていた。

しかし、ヘルファイアミサイルにより、司令官アリをはじめとする司令部が壊滅してしまったため、急に伝令が来なくなった。不安を覚えた各陣地のアルカイダたちが陣地を捨て、山頂へ移動を開始したのは当然であった。もっとも、司令部がなくなり指揮命令系統が消滅してしまった今、貧相な装備とわずかな食料だけで人跡未踏の渓谷を越えて逃げることなど不可能で、彼らは山頂へ向かうほかとるべき行動がなかった。

「ハニンガム軍曹、負傷者を山頂まで運べ」。セルフ大尉は命令し、山頂のレンジャーたちも手伝うべくタコツボから墜落したチヌークまで移動した。レンジャーたちは、タコツボ陣地を占領したことで、戦闘が終わったと勘違いしていた。普段なら必ず行う周囲の警戒もせず、談笑しつつ、まるでキャンプ場で荷物を取りに行くような感じで歩いた。しかし、そこはなお戦場であり、レンジャーたちを殺すべく何百人のアルカイダが迫っていたのである。

ガルディーズの司令部も、セルフたちの直下の状況を知らせるべきであったが、新たな救出作戦を立てるのに忙しく、司令部の誰一人として知らせようとしなかった。

日は完全に昇り、山頂からは、シャハ・コット渓谷の全容を眺めることができた。
「美しい」。エスカーノ大尉は、山頂から果てしなく広がる渓谷を見て、純粋にそう思った。戦争が終わったら、もう1度ここにきて、この風景をゆっくり眺めたいとさえ思った。

そのときである。AK47の射撃音が再びタクール・ハー山頂に響いた。エスカーノ大尉は、すぐに銃声の方向をみると、アルカイダ兵3名が、かつてレンジャー達が隠れていた岩場の上でAKを掃射していた。AKの火箭の先には、PJのハニンガム軍曹が倒れていた。アルカイダの残党が頂上まで到達し、ハニンガムを撃ったのである。墜落したチヌーク付近のレンジャーは、すぐに応射し、アルカイダを一掃した。

エスカーノ大尉は、事態を把握するため周囲を見渡すと、恐るべきことに、自分達のタコツボから500メートルほど周辺で、アルカイダの残党が山頂を目指して移動している姿があちこちに見えた。

エスカーノ大尉らレンジャー達は、再び地獄の戦場に叩き込まれることになった。

次回更新は、4月13日「」タクール・ハーの戦い」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:05 │Comments(0)Story(物語)

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