2011年04月20日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 21

ハーゲンベック将軍からの突入命令の直前、ペイブロウのパイロット、アンダーソン少佐は、ヘルメットのバイザーを上げ、裸眼で煙幕に包まれる山頂を見た。山頂からは煙幕がもうもうと上がり、まるで火山が噴火しているようだった。アンダーソンは、バイザーを上げたが、具合が悪いことに山頂にはまだ雪が残っていて、雪なのか、煙なのか、ヘルメットのバイザーをあげても、見分けがつかなかった。

「少佐、バイザーをつけておいたほうがいいです」。隣の副操縦士が言った。副操縦士の言うとおり、バイザーの裏側には、ヘリの状態を表す数値がリアルタイムでデジタル表示されているため、ヘリを緻密に操縦するのなら、バイザーをつけているほうが良かった。

だが、副操縦士の助言をアンダーソンは無視した。たしかに通常の着陸ならば、副操縦士の言うとおりだろう。アンダーソンは、15年以上も経験のあるベテランパイロットである。しかし彼には、「危機的な状況な時ほど、機械を当てにするな」、というジンクスがあった。アンダーソンが信頼した唯一の計器は、コックピットの正面にあるアナログの高度計だけだった。

「ペイブロウ突入」。ハーゲンベックからの突入命令がでた。アンダーソン少佐は、ハーゲンベックの指示とおり、墜落したチヌークのある場所へ機体を導いた。煙幕で視界はまったく効かないが、アナログの高度計の針がぐんぐんと地面に近づいていることを示していた。
アンダーソンには、コックピット正面の防弾ガラスに映る副操縦士の顔が見えた。副操縦士の表情はバイザーで隠れて分からないが、明らかにこわばっていた。もしかすると、バイザーの向こう側で目を閉じているかもしれなかった。

「着地まで5メートル。4・・3・・2・・」。アンダーソンは、アナログの高度計を見て叫んだ。本来、高度計を読み上げるのは副操縦士の仕事だが、副操縦士は沈黙していた。

煙幕の中から突然、墜落したチヌークの巨体が現れるのかと思うと気が休まらなかったが、それは杞憂に終わった。地面に近づくほど、煙幕は、ペイブロウのプロペラの風圧で左右に分かれ、直近20メートルほどの視界は、驚くほど良好だった。ペイブロウは、チヌークのわずか5メートルの位置に着陸した。

ヘリが着陸すると、すぐに救援のヘリクルーが飛び降り、「重傷者から先に乗せろ」と怒鳴った。セルフ大尉らレンジャー達は、すぐに負傷者をペイブロウまで運んだ。

山頂を取り囲んだアルカイダたちも、濃密な煙幕の向こうで何かが行われていることを察知し、盛んにAKを撃ち込んできた。AKの銃弾がペイブロウの装甲を激しく叩いた。「クソ、袋叩きだ」。アンダーソンはつぶやいた。しかし気持ちは、ヘリのローターなどに銃弾が当らないようにと必死に願っていた。

やがて、ヘリクルーから、「負傷者の収容を完了!」。と無線が入った。アンダーソンは思いっきり操縦桿を引いて、山頂を脱出した。
「ペイブロウから司令部へ。負傷者を乗せ、山頂を離脱中」。アンダーソン少佐から司令部に無線が入った。司令部にわずかに安堵の空気が広がった。

「ハーゲンベックから上空のチヌークへ。今度はお前の番だ。上から見て、要領は分かったと思う。私の合図とともに突入せよ」。

次回更新は4月27日「タクール・ハーの戦い」です。もう少し続きます・・・
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Posted by 友清仁  at 07:01 │Comments(0)Story(物語)

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