2012年06月13日

掃討戦 extermination 4

「付近に友軍機はいるのか?」。B52パイロットのクロスビー中佐は、TC(タクティカル・コーディネータ)に確認した。するとすぐに「付近に友軍機はありません。我々が最短です」。

「OK。我々が助けに行くぞ」。クロスビーは意気込んだ。しかしこれに待ったをかけたのが、副操縦士のハリス大尉であった。「キャプテン、一応、司令部に確認したほうが良いのでは?我々の任務は、トラボラの空爆です」。

しかしこの進言に、クロスビーは明らかに怪訝な顔をして、「大尉、ここは戦場だ。臨機応変に行動しなければならない」。そう言って、再び前方に視線を移し、ハリスの進言を退けようとした。

クロスビー中佐は、あたかも戦場を知っているかのような口ぶりであるが、実は、このアフガニスタンが初めての戦場であった。

クロスビー、ちょうど湾岸戦争の1年前、F-15戦闘機パイロット候補生として空軍に入隊した。当然、戦場へは行かず、戦争が終結するまで「特別待機」という状態であった。

その後、パイロット課程に進んだが、残念ながら戦闘機パイロットにはなれず、戦略爆撃機のパイロットになった。戦略爆撃機のパイロットでも大したものなのだが、彼はそれに満足していなかった。

戦略爆撃機の任務といえば、「警戒偵察」というもので、冷戦期にはソ連のミサイル攻撃に対する報復のため、絶えずアメリカ本土やヨーロッパ上空を飛行しているものであるが、クロスビーがB-52のパイロットになった時には、すでに冷戦が集結し「警戒偵察」任務も激減していた。

B-52の任務のほとんどが輸送任務であり、たまに巡ってくる「警戒任務」も核爆弾を搭載していないことが多く、訓練飛行となんら変わらなかった。

そしてアフガニスタン戦争が勃発した。クロスビー中佐にとって初めての戦場であった。彼の心は躍ったが、インド洋のディエゴガルシア基地に到着するとすぐに失望した。任務といえば、無作為に食料やビラをばら撒くだけで、失敗も成功もなかった。

とにかく、クロスビー中佐は戦闘がしたかった。それも、はるか上空から一方的に爆弾を落とすのではなく、急降下して・・あたかも戦闘機のように・・敵の頭上に爆弾を落としてやりたかった。

クロスビー中佐は、再び隣りのハリス大尉の顔を見た。明らかに躊躇(ちゅうちょ)の表情である。機内の通信はすべてログが残るようになっている。ハリスの進言を無視するわけにもいかなかった。

「ハリス大尉、ガルシア基地と空母カールビンソンに空爆の要請をして、すぐに発進しても、SOSの座標まで最短でどれくらいかかる? 3時間はかかるだろう。ならば、我々が応援に向かったほうが良いのではないか」。

クロスビーの意見に、ハリスは未だに釈然としない顔をしている。クロスビーには、ハリスの言いたいことが分かっていた。

B52の搭載しているJ-DAMは、精密誘導弾ではあるが、高度1万メートルからの投下では、ほとんど命中が期待できない。CEP(平均誤差半径・・Circular Error Probability)15メートルを確保するには、最低でも5千メートル、できれば3千メートルまで降下しなければならない。

B-52は、その巨体ゆえ、戦闘機のように地上の一点を目指して急降下ができない。目標値点を中心にぐるぐると渦巻きを描くようにゆっくりと降下しなければならず、それには3時間ほどかかるだろう。

「戦場では、効率性や合理性だけでは解決できないこともある。友軍が助けを求めているのに、任務を優先して素通りするのが正しいのか。1秒でも早く1mでも近く、助けに向かうべきだ」。

「しかし・・・」。ハリス大尉は言いかけたが、
「この巨体が地上に迫ってくるのを見れば、タリバン共は、肝を潰すはずだ。それだけでも時間が稼げる」。クロスビー中佐は、再び前方を見ながら言った。

この発言に、ハリス大尉も言を失い、「Yes、Sir」と答えざるを得なかった。


次回更新は、6月20日「J-DAM」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:01 │Comments(0)Story(物語)

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