2012年10月24日

死に値すべきもの The worth dying for 2

「実戦に近い訓練だ。気を引き締めてくれ」。
ODB570司令官、ケアンズ少佐は、訓示を締めくくった。訓示が終わるとすぐにパイロットとPJたちはヘリへ走った。「Take Off」。2機のCH46がリノ基地の上空へ飛び立った。

ここで、リノ基地とタリン・コットの位置を確認しておきたい。リノ基地は、カンダハルの南西190キロの位置にあり、タリン・コットはカンダハルのほぼ真北、約120キロの位置にある。つまり、リノ基地からタリン・コットまでは、約220キロ離れている。

CH46の巡航速度が約240km/hであるから、ODB570の救助隊は、1時間未満でタリン・コットに到着できる。救助活動としては、全く問題が内容に思えるが、1つ、重大な要素がある。

それは、タリン・コットから高度医療設備が整っているカブールまでは、さらに240キロ北上しなければならないことである。CH46の標準的な飛行距離が約400キロであることを考えると、燃料を節約し、直線で飛行して、かろうじて到着できる距離である。

しかし、タリン・コットまで最短距離で飛ぼうとすると、タリバンの最後の根拠地であるカンダハルの近くを飛行しなければならない。カンダハルに近づけば、当然、タリバン軍があちこちにいるだろう。

タリバンが、大きな図体をさらしながら飛んでいるCH46を見逃すわけがなく、当然、撃ち落とすべくRPG‐7を放ってくるだろう。前述の飛行距離を考えれば、RPGの回避行動をとったり、欺瞞飛行をしたりする燃料の余裕はない。

つまり、敵に出くわさず、まっすぐタリン・コットへ到着し、そこで負傷者を収容し、続けて同様にカブールまで飛行する必要がある。

「何が実戦に近い訓練だ・・。実戦以上の無茶な飛行だ」。
CH46のパイロット、スティーヴ・グレッグおよびポール・アレグサンダー空軍大尉は、レーダーに映るそれぞれの都市の位置を見て言った。両人とも、これが訓練ではなく、紛れもない実戦であることは十分に理解している。

CH46αのパイロット、グレッグ大尉は、迷うことなく操縦桿をタリン・コットに向け傾けた。βのアレキサンダー大尉も続く。

グレックは、実際のところ、タリバンのRPG‐7の攻撃については、あまり心配していなかった。リノ基地に来てから、飛行中に何度かタリバンからRPGの攻撃を受けたが、いずれも見当違いの方向へ飛んでゆくことが多かったからだ。彼が恐れているのは、かつてアメリカ軍がムジャヒディンに提供した「スティンガー」であった。

スティンガーは、RPG‐7と異なり、赤外線・紫外線シーカーが装備されており、未熟なタリバン兵でも、ひとたび放てば、かなりの確率で命中する。もちろん回避することも可能であるが、今回は燃料の関係で、その退避飛行ができない。

(ソ連のアフガン侵攻時、終始、ソ連軍の航空戦力がムジャヒディンを圧倒していたが、スティンガーがムジャヒィディンに配備されてから、航空機の喪失が跳ね上がった。これがソ連の撤退を決意させた一因となった)

通常は、レーダー装置の充実した戦闘ヘリ「コブラ」が先導して、そのような脅威を排除するのだが、つまらないセクショナリズムのおかげで、護衛ヘリコプターがない。まさに、ないないづくしの命懸けの飛行である。

陽が大きく西に傾き、アフガンの砂漠を紅に染めている。

高度500メートルに達した時点で、副操縦士のマーティ・シュワイン少尉が、
「ご乗機の皆様、本機は、タリン・コット経由カブール行の直行便でございます。途中、機内が大きく揺れることがございますが、ごゆっくりと空の旅をお楽しみください」。と、いつもの調子で、格納エリアに控えるPJたちへ伝えた。

しかし、誰ひとりとして、その冗談を笑うものはいなかった。


次回更新は、10月31日「死に値すべきもの」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:01 │Comments(0)Story(物語)

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