2013年05月08日

アボタバード Abbottabad 7

数ヶ月が過ぎた。パキスタンの捜索拠点だけでなく、全世界の拠点でも、アルカイダやビンラディンに関する有力な情報や動向が掴めなくなった。

「泳がせ」ている携帯電話からは、相変わらず、冗長な会話が交わされているが、ビンラディンに関する直接的な情報はもとより、隠語や暗号らしきものも出てこない。

ビンラディンが姿を消してから10年近く経過している。CIAの中には、死亡説まで唱える者もいた。これには根拠がある。ビンラディンがトラボラから姿を消したとき、糖尿病を患っていたという情報があり、逃亡生活では、ろくな治療も受けられず死んでしまったのだろう、という予想である。

しかし、依然としてアルカイダ直系組織の活動は活発で、それらの資金や命令が、いったい誰から出ているのかという疑問があった。

CIAの捜索メンバー全員が、捜査に疲れ、ダレてきたときである。例の不明な衛星携帯電話からの発信が頻繁に行われるようになった。捜索グループは、総力を挙げて、この携帯電話のIDを追跡した。

しかし、再び不可解な事態が発生した。それは、この携帯電話の発信地域が頻繁に変わるのだ。その変わり方も非常に大きく、ある日、パキスタン国内から発信されたかと思うと、しばらくして、サウジアラビアから発信され、その5日後には、トルコで発信される。

なぜ、このように、中東地域のあちこちで発信されるのか?CIAも全く理由がわからなかった。再び、単なる中東の商社のビジネスマンの携帯電話ではないのかという疑念が浮かび上がってきた。

しかし、今度はCIAに抜かりがなかった。スイス・コム社に圧力をかけ、その通話内容を傍受することができた。

現在の携帯電話は、「電波を拾う」やり方では傍受できないが、音声をデジタル信号化するため、いったん、その携帯電話会社のサーバーにデータとして記録される。そのため、サーバーさえ押さえてしまえば、いくらでも傍受できる。

通話内容を傍受して、いよいよ問題の確信に迫れるかと期待したCIAであるが、その通話内容は、彼らを落胆させるに十分な、つまらない内容であった。まさに、ビジネスマンの業務電話であったのだ。

だが、1つ気になることがあった。この電話の主は、必ず「アル・マス」という言葉を主語に使っていた。アル・マスとは、アラビア語でダイアモンドという意味である。当初は宝石商かと思われたが、会話には、ダイアモンド以外の鉱石の名前が全くなく、また、アル・マスが何かの行動主体のような表現が頻繁に出てくる。

この携帯電話の過去ログを調べてみると、2005年に、ロンドンへの通話が集中していることがわかった。そこで、イギリスのMI6へこの携帯電話のIDを照会すると、驚くべきことがわかった。

なんと、2005年7月に発生したロンドン同時多発テロの首謀者が、頻繁に連絡をとっていた携帯電話のIDと一致したのである。イギリスMI6は、テロ首謀者を尋問して、その主を探ろうとしたが、首謀者は、何者かを知らず、ただ、資金的に苦しくなったときだけ、「金が欲しい」とだけ伝えると、数日後、アジトのポストに札束が入った封筒が放り込まれていたらしい。

CIAは、この電話の主が、アルカイダの相当な幹部であることを確信した。


次回更新は、5月15日「アボタバード」です。
ご意見・ご感想をお待ちしております。最近、話が単調で申し訳ないです・・・・。
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Posted by 友清仁  at 07:00 │Comments(2)Story(物語)

この記事へのコメント
一昔前、エシュロンという国際諜報ネットワークが世界の通信を全部盗聴していると騒がれたことがありますが、現実にはそんな魔法のような超ハイテク情報機関がこの世にあるはずもなく、CIAといえども警察の犯罪捜査みたいに地味にこつこつ進めていくしかないんですよ、といったところでしょうか。
Posted by 21century_po at 2013年05月09日 21:50
21century_po さま

コメントありがとうございます。

私もエシュロンという謎の諜報組織が、ビンラディン襲撃に関与しているのでは?と思いましたが、実際は、偵察衛星と無人偵察機からの映像と、CIA工作員の地道な、足を使った捜索が行われていたようです。

何かで読んだことがありますが、「CIAと言えども、やってることは私立探偵の身辺調査と同じ」と発言していた元CIA工作員がいたことを思い出しました。
Posted by 友清仁友清仁 at 2013年05月10日 08:07
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