2013年09月11日

キャンプ・アルファ Camp α

ラングレー、CIA本部
CIA長官室で、CIA長官レオン・パネッタと国家秘密活動部長のスチュアート・カポスがソファに座り、対談している。「何か動きがあったか?」 パネッタの問いに、
「はい、アルカイダの資金調達係のタレクが物資を送っている、パキスタン内の倉庫の位置が判明しました。アボタバードの屋敷から20キロほど離れた雑居倉庫に運び込まれているようです」。カポスは答えた。

「それで?」 パネッタが重ねて問うと、
「現在、合法的に、その倉庫を買収するか、賃貸契約を結ぼうと活動中です。それらが完了したら、タレクの荷物を押さえてしまいます」。

パネッタは、目を閉じて聞いている。
「もう一つ、アボタバードの屋敷で動きがありました。屋敷の東半分は畑になっているのですが、その畑に頻繁に人が現れるようになりました。しかも銃を持って・・。衛星画像を分析したところ、おそらく15人近くがあの屋敷に住んでいます」。「武装した者が15名もいる。相当な確率でビンラディンがいると見ていいですし、ヤツは警戒しています」。

パネッタは、目を閉じて、鼻で息を吐きながら、「それで?」、再び尋ねた。
「そろそろ、アフガンに現地司令部を設置しましょう。私が指揮を執ります」。
「わかった。うまくやれ」。パネッタは短く言うと、カポスは、一礼をして執務室を出て行った。

パキスタン アボタバード
乞食に変装した、元グリーンベレー隊員のチャーリー・ベッカーは、引き続き、アボタバードで情報を収集している。今では、すっかり街の名物になり、街の金持ちの中には、「我が家で一生暮らせ」と言ってくれる者も現れたが、断った。

スパイが目立つことは良くないことであるが、チャーリーは、むしろ目立つことで、情報の収集がしやすくなっていた。街をウロウロしているだけで、人々から声をかけられ、世間話をし、その中で、あの屋敷のことをいろいろと聞き出すことができた。

その情報の中で気になるものがあった。
「不定期だが、屋敷から女性が出てきて、街の宝石店に貴金属を売りに来る」、というものだった。
屋敷からは、ほとんど人の出入りがないだけに、チャーリーは、その女性の動きが気になった。アボタバードは小さな町である。貴金属店も多くなく、その店も、世間話の中で特定することができた。

数日後、チャーリーは、その貴金属店の周りをウロウロした。貴金属店と言っても、西洋のそれとは大違いで、宝石などはほとんどなく、主に、金・銀などメインに扱っている個人商店のようなもので、別段、怪しいところはない。

店の前を何往復もしていると、店のオヤジが、気がついた。
「もしかして、お前さんは、あの名物乞食か?」 店のオヤジは親しげに尋ねた。チャーリーは頷くと、オヤジは嬉しそうに笑った。街の有名人に会ったオヤジは、いろいろと世間話を話した。しばらくして、話の区切りがついたところで、「売ってもらいたいものがあるだが・・」、とチャーリーは切り出した。

その言葉に、せっかく街の有名人と知り合いになって有頂天な店のオヤジは、怪訝な顔をして、「あいにくと、ウチには、お前さんが買えるようなものはないよ」、と言った。

「カネならある」。チャーリーは、懐から札束を取り出した。その量に、オヤジはギョッとした。驚くオヤジを見て、「乞食は意外に儲かる。しかも生活費がかからない」。その言葉にオヤジも納得した。もちろんこの金は、CIAが活動資金として用意したものである。

「しかし、なんで貴金属を買うんだい?あんたには必要ないだろうに」。
「イスラマバードの縁者のところに行くのに、手ぶらでは行けまい。一生世話になるんだ。確か、妻と娘がいたはずだ。その二人に手土産を買おうと思ってな」。オヤジは再び納得した。

貴金属店のオヤジは、チャーリーの持っている札束を見て、上客の扱いをした。普段は店の奥にしまってある金器などを出してきたが、チャーリーは嬉しそうな顔をしない。
「不具の乞食が持ち歩くんだ。大きいものは困る。小さくて、珍しいものがいい」。チャーリーのリクエストに、オヤジは、思い出したように、店唯一のショーケースから1つの指輪を取り出した。

「こいつは、うちでは珍しいダイヤの指輪だ。2日前、ある金持ちの御婦人から買い取ったものだ。ダイヤの大きさといい、リングの金の彫刻といい、相当値の張るものだ。こんなものを、田舎の店に持ってくるんだから、相当、金に困ってるのかな?うちもいい買い物をさせてもらったよ」。

その言葉に、チャーリーの目が光った。「オヤジ、それを見せてくれ」。
チャーリーは、その指輪を受け取ると、鑑定士のように見た。リングの裏側に、ある紋様が彫ってある。その紋様とは、サウジの王室のもので、この紋様がある品物は、サウジ王室に縁のあるものしか所持することができない。

「オヤジ、これを頂く。金は全部置いてゆく」。チャーリーは、ふところとカバンの中の札束を全部出すと、指輪だけ受け取り、店を出た。あとでオヤジが札束を数えてみると、店の全商品を買っても、おつりが出るほどの金額だった。


次回更新は、9月18日「キャンプ・アルファ」です。
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Posted by 友清仁  at 07:00 │Comments(5)Story(物語)

この記事へのコメント
来た〜!チャーリー!
Posted by x83 at 2013年09月11日 22:10
おはようございます!
次回のビクトリーショーで新刊出せそうですか?
スナイパーの本楽しみにしているのですが。
Posted by JTGCチーフ at 2013年09月13日 08:58
JTGCチーフ さま

今週末に、印刷が上がってきますので、ご期待下さい。
Posted by 友清仁友清仁 at 2013年09月13日 19:35
はじめまして!コミックトレジャーにて挨拶させていただいた者です。

いよいよチーム6の出番ですね!?

ところで、このブログの書籍化は大阪ショットショーに合わせてということでしょうか?
Posted by 戦場の貴公子 at 2013年09月14日 20:13
戦場の貴公子 さま

コメントありがとうございます。
本ブログの書籍化ですが、大阪ショットショーの直前の、「帝都軍事宴会」(東京)で照準を合わせております。しかし、ショットショーは、その翌週なので、大規模ミリタリイベントとしては、大阪ショットショーがお初になります。 

現在、頑張っているので、ご期待下さい。
Posted by 友清仁友清仁 at 2013年09月14日 21:36
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