2013年12月18日

ネプチューン・スピアー Neptune spear 5

パキスタン アボタバード
タレクは、倉庫の様子を見て愕然とした。目の前に広がるのは、もぬけの殻の倉庫であった。
「私の荷物は、どこだ?」 
タレクは、倉庫の管理人の胸ぐらを掴んで叫んだ。

管理人の初老の男は、泣きそうな顔をして、
「昨日、イスラマバードの本社よりトラックがやってきて、引渡しの日が早まったので、直ちに荷物を処分するとかで、すべての倉庫の荷物をトラックに乗せて持って行きました・・・」。

タレクは、管理人を突き飛ばすと、倉庫事務所の電話で倉庫会社の本社に怒鳴った。しかし、電話に出た担当者は、要領を得ないようで埒があかなかった。タレクは、受話器を叩きつけると、その場で頭を抱えた。

アルカイダ、いやビンラディン一家の財産を奪われた・・・。タレクは、胸に矢が刺さったかのような気持ちになった。非常にマズイ・・。ビンラディンの財産を預かる身として、この責任を取らねばなるまい。

このまま逃げてしまおうか・・・。一瞬考えたが思いとどまった。なぜなら、タレクの妻と娘が人質として、あの屋敷にいるのである。彼女らを捨てて自分だけ逃げるわけにはいかない。

自分が逃げれば、その責任を妻子が取らねばならない。ひどい拷問のうえ、殺されるに違いない。そんな場面を、タレクは、今まで何度も見てきた。
とりあえず、屋敷に戻り、マスター(ビンラディン)の許しを乞おう・・・。タレクはトボトボと歩き出した。なんの警戒もせずに・・・。背後には、CIAの工作員が尾行し、屋敷に入るところを確認した。


アボタバード ビンラディンの屋敷
その日の夜、タレクは、羊のように丸まって、ビンラディンの前に平伏していた。ビンラディンは、最近、物資や金がなかなか送られてこなかったことを、思いつく限りの言葉で罵倒した。

そして最後に、ビンラディンはドスの効いた声で尋ねた。
「なぜ事前に連絡もせずに、ここへ戻ってきた?」 
タレクは、子犬のような目をして、
「久しくマスターのお顔を拝見しておらず、また屋敷の皆も元気かどうか心配になりまして・・・」。
消え入りそうな声で答えた。

「黙れ!そのような見え透いた嘘をつくな。何か隠しているだろう?」
ビンラディンの鼻腔が大きくなった。

タレクは観念し、荷物・財産を全て失ってしまったこと、衛星携帯電話が故障したことを必死に弁解した。5秒、沈黙が続き、ビンラディンは、「お前の携帯電話を見せろ」。静かに言った。

タレクは、恐る恐る懐から例の携帯電話を取り出し、ビンラディンに手渡した。見ると、電源が入ったままであった。電源が入っているということは、携帯電話から微弱電波が発信されているに違いなかった。この携帯電話の位置を知らせているようなものだ。

そのあと、ビンラディンは、急に穏やかな声になって、SIMカードやプリペイドカードを確認したかなどを尋ねた。タレクは、なぜそんなことを聞くのか分からなかったが、考える余裕はなかった。なによりも、ビンラディンの声が穏やかになったことで安心した。

安心すると、喉がカラカラに乾いていることに気がついた。たまらず目の前の氷水を一口飲んだ時だった。ビンラディンが立ち上がり、タレクの携帯電話を、バキバキと音を立てて2つに割った。目が鋭く、不気味に輝いていた。

タレクは、氷水のグラスを手から滑り落とすと、立ち上がることもできず、四つん這いになって、出口へ逃げようとした。これから起こることを、タレクは動物的な勘で察知した。

あと30センチで、ドアノブに手が届くというところで、タレクは、後ろの襟首を掴まれ、部屋の中央に引きずり戻された。タレクは、何かを叫びながら抵抗したが、身長が190センチ超の大男のビンラディンには、なんの意味もなかった。

ビンラディンの右の拳が、タレクの腹に突き刺さった。ビンラディンは、ただのサウジの金持ちではない。格闘技の相当な達人でもあった。腕力で周りを威圧しなければ、金だけ奪われて、国際テロ組織のリーダーになれなかっただろう。右の拳が、タレクの肝臓を破裂させた。

ビンラディンは、腹を抱え、激痛に苦しむタレクに何の情けをかけることもなく、顔や腹を何度も殴りつけた。10分後、タレクの体が動かなくなった。
「この死体を片付けろ。奴の妻と娘も犯して殺せ」。ビンラディンは、平坦な声で言った。


次回更新は、12月25日「ネプチューン・スピアー」です。
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Posted by 友清仁  at 07:00 │Comments(0)Story(物語)

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