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Posted by ミリタリーブログ  at 

2012年05月02日

新展開 The new phase

夜が明けた。アフガンの夜は非常に寒い。朝が来て、太陽の光がタリン・コットの建物を照らし始めると、人々の体温が上がり、1日が始まる。アフガニスタンで何百年と繰り返されている風景である。

ODA574の隊長、ジェイスン大尉は、マイク軍曹が狙撃していた、そしてRPG-7が命中して、ポッカリと大きな穴が空いている建物の屋根に登り、街の南側を眺めていた。

街の南側からカンダハルへ通じる幹線道路には、無数の焼け焦げた車両が数珠つなぎのように並んでいた。なかには、未だに炎をチラチラと揺らしているものもあった。昨晩の感熱ホーミングミサイルによる空爆の結果である。おそらく攻撃部隊は全滅してしまったのだろう。人影は見えない。

タリン・コットの防衛に成功した。しかし、完勝ではなく、こちらもマイクとCIAのキャスパーを失った。部下や仲間を失った勝利というのは、敗走した戦いより後味の悪いものだ。ジェイスンは、ポケットからマルボロを取り出すと、火をつけて大きく煙を吐いた。

「大尉、ご苦労だった」。
背後から声がした。ジェイスンが振り返ると、クリス少佐が立っていた。クリスは、ジェイスンのとなりに座ると、人差し指と中指を立てて小刻みに動かした。ジェイスンはタバコを1本取り出して、クリスに渡すと火をつけた。

クリス少佐も大きく煙を吐き、「なんとか、タリン・コット防衛に成功だな」。
「成功しましたが、こちらもマイクとキャスパーを失いました」。ジェイスンが答えると、
「終わったことは、故郷(くに)に帰ってから考えろ。戦場では、現在と未来しかない」。
クリスは再び煙を吐いた。

クリス少佐は、現時点で自分の持っている情報を、ジェイスンに話してやった。
「カブールの東側のトラボラで、シールズによる掃討作戦が本格的になった」。
「ビンラディンとオマルは、依然として行方不明だが、シールズは、タリバン政権の首脳のほとんどを逮捕・拘束した。タリバンは壊滅したといっていい」。

「中央作戦軍は、アフガン暫定政権の創設に取り掛かっている。しかし、厄介な問題は、主要閣僚、特に大統領の人選だ」。

「現在、カブールには、北部同盟のファヒム将軍の軍が駐留し、街を統治している」。
「しかし、カブールの人口に対して軍勢が少ないのと、所詮、雑軍ゆえに秩序を完全に維持できていない。イギリスのSASが実質的な警察となっている」。

「ドスタム将軍の軍隊も、すでにカブールの西30キロの地点まで到達している。ドスタムは、すぐにカブールに入城したがっているが、現在は、そこに留めている。理由は、奴が入城すれば、必ずファヒムと衝突してカブールで戦闘が起きるからだ」。

「状況的に考えれば、アフガン政府の首長には、ファヒムかドスタムのいずれかがなるのが妥当だろう」。
「しかし、フランクス大将は、いずれの将軍も首長に指名するつもりはない。カルザイこそ相応しいと考えている」。
ジェイスンは、クリス少佐を見た。クリスは南を向いたまま続けた。

「ファヒムは、バグラム空軍基地を奪取し、カブールを陥落させた。ドスタムもマザリシャリフを堕とし、クライ・シャンギ監獄の暴動を鎮圧した。両人共に十分な実績を持っている。しかし、カルザイには何の実績もない」。

「カルザイに実績を作らせ、トラボラで拘束したタリバン首脳をカルザイの前に連れ出して、カルザイの勢力に降伏させなければならない。それも早急に、だ」。

クリス少佐は、吸い終わったタバコを投げ捨てると、立ち上がり、ジェイスン大尉に命令した。
「必要な物資や資金を届ける。直ちにカンダハル攻略を開始しろ」。


次回更新は、5月9日「カンダハル」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:01Comments(0)Story(物語)