スポンサーサイト


上記の広告は1ヶ月以上記事の更新がないブログに表示されます。
新しい記事を書くことで、こちらの広告の表示を消すことができます。  

Posted by ミリタリーブログ  at 

2013年01月23日

死に値すべきもの The worth dying for 14

ODB570のCH46がタリン・コットの街を飛び立った。操縦桿が重い、上昇のスピードも緩慢である。パイロットのグレック大尉の脳裏に、「無事に到着できるか・・」、不安が襲った。

ODA574指揮官、ジェイスン大尉も上昇するヘリを見送った。CH46の巨体が次第に小さくなり、ローター音もなくなり、暗闇に、緑色の戦術ライトだけが小さく見えた。その戦術ライトも、やがて深黒の闇に塗りつぶされ、見えなくなった。
「Good Luck」、ジェイスンは心の中でつぶやいた。

結論から言うと、2機のCH46は、カブールの手前30キロの地点で、燃料不足のため不時着した。その旨をカブール総司令部に連絡すると、すぐに英軍SAS2個小隊がソ連製トラックに乗って救出にやってきた。

2個小隊のうち、1個がトラックで負傷者をカブールまで運び、もう1個がCH46を警備した。さらに1時間ほどすると、燃料タンクを積んだブラックホークが飛来し、CH46に燃料を補給し、2機は、とりあえずカブールへ移動した。

首都カブールでは、骨折したペティソリー大尉は、ギプスと松葉杖をあてがわれると、タリン・コットの状況を報告するため、カルランド少将、マルホールランド大佐らが待つ司令部へ向かった。

総司令部で、ペティソリーは、誤爆はODA574の無線の誤操作が原因であること、フォックス少佐の戦死、さらにカンダハル攻撃の中核をなすタリン・コット軍が空爆により大被害を受け、カンダハル攻略には、かなり時間がかかることを報告した。

報告が終わるころ、タリン・コットからロニーの戦死が報告された。司令部の面々に疲労の色が濃くにじみ、カルランド少将は、手で顔を覆ったほどだ。夜がうっすらと白み始めていた。

留守を預かるカルランド少将は、当座、英軍SAS1個小隊をタリン・コットへ派遣すること、関係各位は、本日午後1時まで休息し、再度、集合して事後をはかることを伝え、会議は解散した。

タリン・コットも同様であった。ジェイスン大尉は、フォックス少佐とロニーの遺体を回収すると、最低限の見張り兵を残し、残りの兵員は午後まで休息するように伝えた。ジェイスン自身もタバコを1本吸うと、あとは泥のように眠った。

12時をわずかに過ぎたころ、ジェイスンは目が覚めた。戦場にいる緊張が、どんなに疲れていても長く寝ることを許さなかった。わずか数時間の睡眠であったが、軍人であるジェイスンは、十分に体力・気力ともに回復した。

昨晩、負傷者を収容した街の広場に向かって歩いてゆくと、人だかりができているのが見えた。人だかりの中央で、聞き覚えのある声が、聴衆に向かって何かを叫んでいる。

声の主は、カルザイであった。
「われわれは、非常な困難に直面している。しかし、立ち止まってはならない。タリバンの、アルカイダの悪政を止め、新しい世の中を創らねばならない」。
「今日は犠牲者を弔おう。しかし明日は、タリバンの根拠地カンダハルへ攻め込むのだ。敵もこの空爆で大被害を受けた。攻めるのは今しかない」。
聴衆のアフガン人は皆、武器を持ち上げ、応という反応を見せていた。

アフガン人の中で、何かが生まれ、そして激しく旋回し始めている。


次回更新は、1月30日「戦闘終結」です。お楽しみに。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
------------------------------------------------------------------------------------------
同人誌も発行しております。こちらもどうぞ。同人誌書店COMIC ZIN通販ページと 虎の穴通販ページに飛びます。(購入には会員登録が必要です。)



私の訳書(共訳・監修)です。よろしかったらお読みください。
画像クリックでamazonへ飛びます。







  


Posted by 友清仁  at 07:01Comments(2)Story(物語)