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Posted by ミリタリーブログ  at 

2013年08月21日

シールズ・チーム6 Seals team 6 4

「なんてこった・・・・」。
突入チームの一人が言った。人質を救出するために編成されたチームが、逆に、自ら人質を殺してしまった。

ナイトビジョンのライムグリーンの円の中に、黒く映るリンダ・ノーグローブの死体を、チーム全員が囲んでいた。メンバーの一人が、地面に転がっていたクリンコフを掴むと、リンダの死体を腹ばいにして、背中の、ちょうど心臓のあたりに1発撃ち込んだ。

そして、タクティカルヘッドセットのマイクの部分を握り締め、音声が入らないようにして、
「いいか、俺たちは、この女を救出するため、小屋の周りの守備兵を一掃した。しかし、その騒動に動揺したこの女は、外に飛び出してきた。そこを後ろから、テロリストに撃たれた」。

「俺たちは、女が倒れることを確認し、もはや人質はいないと判断して、グレネードを投げ込み、小屋の中の敵を一掃した・・・・。女が死んだのは事故だ。この女はツイてなかった」。

その場にいた6名は、頷いた。そして、訓練と同じように、リンダ・ノーグローブの遺体を、遺体袋に入れ、ジッパーを締めると、袋を引きずって外に出し、赤外線ライトを上空に点滅させ、脱出用のヘリを誘導した。

ちなみに、この「詐術」を提案した兵士は、救出チームのリーダーでもなければ指揮官でもない。シールズの伝統として、便宜上、階級によりリーダーや指揮官を置くが、チームメンバーは平等であり、メンバーの発言や行動で、一番適切だと思うものに全員が従う。この場合、この「詐術」を全員が適切だと判断した。

リンダ・ノーグローブの遺体は、バグラム空軍基地へ運ばれると、洗浄され、すぐに彼女の故郷であるイギリスへ移送された。救出作戦を行った131のメンバーも、現場での打ち合わせ通りの報告をし、この救出作戦は、結果としては残念なものであったが、任務完了して処理された。

そして、2ヶ月後、アフガンに展開するチーム6のメンバーのほとんどが、その事件を忘れかけた頃である。その事件が再燃した。

リンダが所属していたNGO団体が、リンダの死体を調べ、実際の現場とシールズの報告に矛盾があると、英国メディアに発表したのだ。

NGOの主張によると、リンダの致命傷となった、テロリストの凶弾の入射角が、逃げるリンダの真後ろから撃ったとは思えないと言うのだ。むしろ、シールズが投げたグレネードの破片が、頚椎や顔面に刺さっており、こちらが致命傷ではないかと主張した。

昨今、アメリカ軍をはじめ、先進国政府は、メディアの動向に非常に神経質になっている。とくに、戦争や民間人の犠牲に関しては、どんな小さなことでも深刻に捉える。

直ちに、アメリカ軍内に調査・検証チームが編成され、作戦を遂行したメンバーに対する聞き取り調査が開始され、同時に、支援用に上空に飛ばしていた無人偵察機の映像の分析も始まった。

メンバー全員を集め模型を使った検証、個別に尋問した証言集、無人偵察機の映像との整合性など、様々な支店や手法で徹底的に調査が行われたが、チームの誰ひとりとして、あの夜に交わされた「密約」を証言する者は現れなかった。

結果として、アメリカ国防省は、
「民間の調査にあるように、弾丸の入射角に不自然な点があることを認めるが、当時の小屋の中には、暗闇の中に、さまざまなものが散乱しており、リンダ・ノーグローブは、それらを飛び越えるか避けるために、まっすぐに走ったとは考えられず、おそらく、その過程で、バランスを崩した際に、敵弾が背中に命中したと考えられる」。

「救出チームの作戦遂行手順は、完璧と言えなくとも、当時の状況を考えれば、十分に妥当性があると考えられ、リンダ・ノーグローブの死と作戦に直接的な因果関係はない」。と結論した。当然、メンバーの誰も訴追されることも、処分されることもなかった。

トロイは、この話を聞いて、つぶやいた。
「平和な活動をしたいなら、平和な国でやれ。戦場では、理念や良心なんてものはない。強いて言えば、生きていることが、その証明になるに過ぎない」。


次回更新は・・・・・9月11日「キャンプ・アルファ」です。
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Posted by 友清仁  at 07:01Comments(0)Story(物語)

2013年08月14日

シールズ・チーム6 Seals team 6 3

シールズ・チーム6のメンバーである、トロイ・ロバート軍曹は、妻のブリタニーを実家に帰らせるべく、付近の空港まで送り、そして家に到着すると、再び庭のコンテナに篭った。

コンテナの大きさは、長さ6メートル、高さ2.5メートル、幅2メートルである。トロイが扉を開けると、その中には、M4カービン、M870ショットガンなどの銃器やその弾薬、タクティカルベストなどがぎっしりと、しかし、整然と整理されて収納されてあった。

「出張」の命令が下ると、トロイは、このコンテナに篭もり、その出張の準備をする。しかし、出張の内容までは明かされないため、どんなものが必要なのか全くわからない。したがって、自分の過去の経験や、その時の軍事・政治状況を考慮して装備を考える。結論など出るわけがない。1日中篭らざるを得なかった。

誰にも相談できない。チーム6のメンバー同士でさえ、プライベートで連絡を取ることを禁じられている。チームの中での自分の役割や能力を考えて、持ってゆくものを決める。

前述のとおり、家族にも、任務の内容はもとより、自分の身分を明かすことも許されない。このように事実を完璧に隠匿できるかも、チーム6のメンバーになりうるかの条件であり、精神疾患や人格障害がないかも厳しくチェックされた。

その結果として、トロイは、何百回戦闘に参加しても、敵を何のためらいもなく、しかも効率的に殺すことができ、しかし一方で、家に帰れば、良き夫、よき隣人となり、地域のコミュニティに溶け込むことができた。言い換えれば、トロイは、理想的な戦闘マシーンとなっていた。

殺人と平和の間を行き来するトロイは、正直なところ、自分が何者であるか分からなくなっている。夢の中に住んでいるような感じであった。唯一、彼を現実世界と結びつけているもの・・。それは、海軍のIDカードだけであった。

この海軍のIDカードがなくなれば、俺には、いったい何が残るのだろう・・・。コンテナに篭るとき、必ず1回は考える。間違いなく、トロイは、寒空に放り出されるだろう。妻のブリタニーとも別れねばなるまい。なにせ、殺人しか特技がないのだから。




ほんの2ヶ月ほど前、トロイが所属するチーム6は、イギリス人NGO職員、リンダ・ノーグローブを救出する作戦を行った。ノーグローブは、9月26日、東アフガニスタンのクナル州で、3名のアフガニスタン人スタッフと共に、現地武装勢力に誘拐された。直ちに救出チームが編成され、現地に派遣された。

救出作戦は、基本的に夜間行われる。これは、現地武装勢力は、ナイトビジョンなどの装備を持っていないため、暗闇が最大のアドバンテージとなるからである。

6名の救出チームは、タスクフォース131と命名され、漆黒の闇の中、ブラックホークからファストロープで降下すると、すぐに、人質のリンダ・ノーグローブが監禁されている小屋を攻撃した。

はじめの一撃で、小屋の周囲の兵士、13名を殺害した。救出チームは、そのまま小屋に侵入し、リンダを救出するべく、小屋に小走りで接近した時である。中からPKMを構えた兵士が現れた。

救出チームの一人が、とっさの判断で、グレネードを小屋の入口付近に投げ込み、PKMの兵士をフッ飛ばした。あと一瞬遅れていれば、チーム全員がPKMの餌食になっていただろう。

しかし、安堵したのもつかの間で、グレネードの爆発音に、周りの武装兵力が集まってきた。敵は、闇夜を無差別に撃ってくる。その音に勢いづくかのように、さらに敵が集まってきた。

もはや、救出作戦どころでなかった。救出チームは、ナイトビジョンを活用して敵を狙撃した。ライフルにはサプレッサーが取り付けられているため、こちらの発射音はしない。暗闇から狙撃され、一人、また一人と仲間が殺される状況に、武装勢力の兵士は恐れをなし、やがて撤退した。

敵が撤退したのを確認すると、救出チームは、リンダ・ノーグローブが監禁されている小屋へ侵入した。しかし、そこで目にしたものは、ノーグローブの哀れな死体であった。死体の様子から、死因は、手榴弾によるものだとはっきりとわかった。


次回更新は、8月21日「シールズ・チーム6」です。
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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(0)Story(物語)

2013年08月07日

シールズ・チーム6 Seals team 6 2

シールズ・チーム6は、公式には、DEVGRU(デヴグル)と呼ばれ、1980年に創設され、初代司令官は、リチャード・マルチェンコであった。DEVGRUとは、海軍特殊戦開発グループであり、正式名称のUnited States Navy Special Warfare Development Groupである。

この組織は、1979年のイラン・アメリカ大使館人質事件(イーグル・クロウ作戦)での失敗を教訓にして、当時、編成されていたシールズの6番目の部隊として編成された。その後、いくつかの変遷を経て、1980年代後半に、現在のDEVGRUと呼ばれるようになった。(しかし、現在でもチーム6と呼ばれることもある) このことから、テロ対策専門の部隊であることがわかる。司令部はバージニア州ダムネックにある。

組織的には、海軍特殊戦コマンド(SOCOM)の隷下に置かれるが、その任務の特殊性から、デルタフォースとともに、統合特殊作戦コマンド(JSOC)の指揮・統括を受ける。

DEVGRUは公式には、アメリカ海軍特殊戦コマンドで運用される陸・海および空挺における戦術と技術の試験・評価・開発を行うとされているが、アメリカ政府ではDEVGRUがJSOCの指揮下で実際の特殊作戦に従事していることを公式には認めていない。 しかしその任務内容は、対テロ、(大量破壊兵器)拡散阻止、敵国内における高価値目標の奪還・暗殺である。

隊員の選考基準は、現役シールズの中から、実戦経験、体力や実射技能はもとより、言語能力を考慮されて、任命される。まさに、シールズの中のシールズと呼ばれるに相応しい部隊であり、予算もふんだんに割り振られているとされる。(組織上、存在していない部隊であるため、予算が組まれることがない)

配属後1年目の訓練は、年間365日、休暇が半日2回のみといわれ、東海岸の拠点だけでなく、国内数箇所を転々する。訓練内容は、海上における船舶強襲、海上油田の制圧、高高度パラシュート降下、そして実射訓練など、実戦さながらの訓練が行われる。非常に過酷な訓練であるため、訓練中に、死者が出ることもある。

射撃訓練では、隊員1人が1週間で3000発の弾を射撃し、発足時の90名が年間に消費した弾薬数がアメリカ海兵隊全体の消費量を上回ったといわれる。

DEVGRUが参加した作戦には、1983年のグレナダ、1992年のソマリア、2001年からアフガニスタンでの作戦がある。中でも有名な武勇伝として、ソマリアで、リチャード・フィリップ大尉救出作戦があり、DEVGRUスナイパーは、フィリップ大尉をホールドアップしていたテロリスト3名を、100メートル離れた揺れるボートの上から、正確に狙撃し、大尉を開放した。


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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(0)knowledge base(基礎知識)