2014年02月19日

作戦終了 Over the Operation

2週間、お休みをいただきまして、ありがとうございます。


アボタバードのビンランディンを襲撃し、作戦を見事に成功させたシールズ・チーム6を載せたヘリは、いったん、アフガン国内のキャンプ・アルファへ帰還した。かつてのビンラディン襲撃作戦の最前線基地は、シールズたちが出撃した、ほんの2、3時間前とは様子がまったく変わっていた。

出撃前は、工作員たちが活動するバラックが整然と並び、レーダーなどのアンテナがあちこちに立っていたのだが、それらがすべて取り壊されてしまった。基地の中央に大きな穴が掘られ、それらが次々と投げ込まれていた。無論、それらを操作していたコンピュータやモニターなどもハンマーで打ち砕かれ、どんどん穴に放り込まれてゆく。

すべてが穴に放り込まれると、ガソリンが撒かれ、火がつけられた。闇夜に大きな火柱が上がる。おそらく炎は、コンテナの城壁よりも高く上がっているだろう。遠くからでも、炎の先端が見えるはずである。

今まで、基地内では、厳しい灯火管制が敷かれ、夜中に基地内を歩くのにも不自由したほどだが、作戦が終了した現在では、灯火管制よりも証拠隠滅のほうが優先している。

シールズを出迎えた基地責任者のシュチュワート・カポスも、普段のYシャツとスラックスからマルチカムのBDUに着替えていた。しかし、彼の場合は、単に「作業着」に着替えた程度の感覚だろう。基地で着ていたシャツやスラックスも「証拠隠滅」したのだろうか?

キャンプ・アルファで、シールズたちがやった作業は単純だった。ビンラディンの遺体とともに、待機していた航続距離の長いチヌークへ移動しただけである。チヌークは、基地を飛び立つと、まっすぐ、インド洋で待機している、空母カールビンソンへ向けて飛び立った。

カールビンソンに、ビンラディンの遺体が到着すると、すぐに医務室へ運ばれ、皮膚の細胞が採取された。DNA鑑定を行うためである。アメリカには、ビンラディン本人のDNAサンプルはなかったが、前年にビンラディンの妹がアメリカ国内で脳腫瘍で死亡していたため、妹のDNAと比較するのである。

DNAがビンラディン本人のものではないが、血縁者のDNAは酷似している。鑑定の結果、検体とサンプルが本人と一致してないことを考慮しても、この遺体がビンラディンではない確率は、12兆8千億分の1であることが判明した。間違いなくビンラディンは殺害された。

DNA鑑定の結果が、ホワイトハウスのオペレーションルームで作戦を見ていた、オバマ大統領たちに伝えられた。一同、作戦の成功に胸をなでおろした。通信障害があったのか、作戦の途中から、現地の映像が途絶えていたため、その場にいたすべてのスタッフが、作戦の結果を案じていた。すぐに、作戦成功の演説をするべく、オバマ大統領は、その場を去った。



空母カールビンソン 飛行甲板
元グリーンベレー隊員で、CIA工作員のチャーリー・ベッカーが、空母の医務室が用意してくれた手動の車椅子に座り、飛行甲板から朝日を眺めていた。今日は、甲板での訓練が休みなのか、飛行甲板は閑散としている。朝日が、チャーリーの顔をオレンジ色に染めていた。

すべて終わった。長かった。チャーリーは深く思った。自分がこのような体になってから、4年の歳月が流れていた。自分をこのような体にしたのは、もちろん、直接的にビンラディンではないのだが、この4年間、自分の体を見るたび、ビンラディンを思っていた。

海風が、ゆっくりとチャーリーの眉を撫でる。
「ここにいたんですか、チャーリーさん」。

後ろから声がした。振り返ると、CIAのシュチュワート・カポスが立っていた。しかし、その姿を見て、チャーリーは笑ってしまった。昨夜のマルチカムのBDUから、再びYシャツとスラックスに着替えていたからである。キャンプ・アルファで、「証拠隠滅」をしていなかったらしい。チャーリーの電動車いすは、廃棄されてしまったというのに・・・

「この船はアメリカに向かっているんだろ?いつ本国に着くんだ?」 
チャーリーは尋ねた。
「この艦がアメリカに向かっているかどうかは分かりませんが、数日中に、本国へ帰還するようになります」。

このカポスの答えに、「数日か・・・。それなら、暇つぶしにアイツに載ってみたいな」。
チャーリーは、飛行甲板にあるF-18/Aを指さして言った。

カポスは、機体を見て少し困ったという顔をしながらも、
「今回の作戦の最大の功労者はチャーリーさんです。お望みなら、CIAから海軍に申請しますが・・・」。
カポスには、チャーリーの冗談が通じていない。

「あのF-18/Aは海軍じゃない、申請するなら海兵隊だ。だが、断られるだろうよ。たぶん奴ら、「なんで、この作戦に海兵隊が投入されなかったんだ!」って拗ねるだろうからな」。

チャーリーは、車椅子を漕いで、カポスの脇を通り、艦内の自室へ戻った。それを見送るカポスの衛星携帯電話が鳴った。また別のテロ組織の壊滅の指令が下ったようだった。

おわり


次回更新は、2月26日 「アフターマス」です。
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Posted by 友清仁  at 07:00 │Comments(4)Story(物語)

この記事へのコメント
相変わらずおもしろいです!作戦終わってホッとしました。
ゼロダーク〜をみてもこちらを拝読していても、
戦闘員もすくなく抵抗らしい抵抗がなかったようで不思議です。
(事実としてあっても情報がでてこないのかな?)
Posted by オカマエタイ at 2014年02月20日 13:30
オカマエタイ さま
コメントありがとうございます。

ビンラディンの最後の隠れ家には、ほとんど戦えるほどの兵士はいなかったようです。なので、一方的にやられてしまったのでしょう。

私の数少ない実銃射撃経験で恐縮ですが、
私の射撃と、射撃場オーナーの射撃でも、雲泥の違いがありました。ましてや特殊部隊とでは、相当な違いがあったと思います。
Posted by 友清仁友清仁 at 2014年02月20日 14:40
結末が分かっていても、私も思わずホッとしました。
次回からも楽しみにしています。
よろしくお願いいたします。
Posted by 淳屋 at 2014年02月21日 13:06
淳屋さま

コメントありがとうございます。
とりあえず、ビンラディン襲撃が終わり、私もほっとしております。
次回からは、アフガン戦の総まとめに入ります。
Posted by 友清仁友清仁 at 2014年02月21日 15:54
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