2011年08月24日

カルザイの出庵 Karzai comes out

2001年11月3日深夜、特殊作戦分遣隊574(ODA574・・・Operation Detachment Alpha)のジェイスン大尉は、パキスタン、シンド州のジャコババード地方の小道を、遠くの民家の光に向けて、懸命に走っていた。光を放つ民家の主は、アフガニスタン王族の末裔で、現在はパキスタンに亡命しているハミッド・カルザイである。

ジェイスンを照らすのは月明かりのみである。少しずつ近づいてくる民家の明かりが、ジェイスンには、アメリカでハイウェイを飛ばして、大都市に近づいているかのように思えた。

やがて民家に着いた。ジェイスンは、木製の古びたドアを叩くと、「カルザイさん、私はアメリカ陸軍大尉ジェイスン・クラフトです。あなたにお願いがあってきました。家に入れてください」。ジェイスンは、軍人らしく、用件だけを簡潔に述べた。

しばらくすると、ドアが内側から開き、室内の光がジェイソンの顔を照らした。光の中に、この家の主、ハミッド・カルザイがいた。「ようこそ、我が隠れ家へ」。カルザイは、ジェイスンを招き入れた。

ジェイスンは、家の奥に通された。奥といっても2部屋しかなく、その部屋は寝室のようだった。二人は、テーブルを挟んで着座したが、しばらく沈黙が続いた。カルザイは、額をさすりながら瞑目し、ジェイスンの出方を待っているようだった。

「カルザイさん、時間がないので用件だけ言います。今すぐ、荷物をまとめて私とともにアフガニスタンに入ってください。詳しいことは、道中のヘリの中でお話します」。ジェイスンは、再び簡潔に言った。

時間がない。まさにその通りであった。ジェイスン大尉は、夜が明ける前に、カルザイとともに、パキスタンを脱出しなければならなかったのだ。

パキスタンは、アフガンの開戦以来、アメリカ軍に国内の空港の使用と領空の通過を許していたが、パキスタン国内を自由に飛び回ってよいといっているわけではなく、許可したのは、あくまで指定する空港と航路だけである。

カルザイの隠れ家があるシンド州のジャコババード地方は、その指定航路から大きく外れており、ジェイスンは、いわば、領空、領域侵犯をしているのだ。ゆえにパキスタン国軍に見つかる前に、この地を脱出しなければならない。

それでもカルザイは、額に手に沈黙していた。ジェイスンは、足元のナイキのリュックサックに手を伸ばした。中には、ベレッタM9ピストルと80万ドルの札束が入っていた。カルザイの連行、懐柔に必要ならば使うように渡されたのだ。銃と札束、いずれを使うか、ジェイスンが考えていると、

「1700年以来、アフガニスタンには29人の王や統治者がいたが、そのうち25人は、暗殺、追放、幽閉、あるいは絞首刑になった」。カルザイは、静かに言った。「30人目のオマルやビンラディンも例外ではなかった」。

「アメリカは、私に31人目の統治者になれ、ということだろう。私はアフガンのためならば、命は惜しくない。しかし、アフガンの歴史を忘れるな」。

カルザイは英国のアクセントの完全な英語でつぶやくように言うと、ベッドの下から荷物を取り出し、雑嚢のようなものに入れ始めた。ジェイスンが、カルザイの言葉と行動を図りかね、カルザイを見ていると、「大尉、時間がないのだろう。そこで座っている場合ではないぞ」。カルザイは力強く言った。

次回更新は、8月31日「カルザイの出庵2」です。お楽しみに
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Posted by 友清仁  at 07:03 │Comments(0)Story(物語)

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