2011年11月30日

タリバン部隊 Taliban squad

翌朝、ジェイスン、ペティソリー、そしてキャスパーは、村の若者30名を、付近の平野に集めて軍事訓練を始めた。3名は、基礎的な訓練から始めようと思っていたのだが、若者たちは戦乱の国の民である。小銃の扱い方や射撃術などは、「生まれながら」身についているようで、教える必要が無かった。

しかし、部隊行動や偵察などの行動は、彼らの頭の中に概念として存在していないようで、部隊の一部に射撃の号令をかけても、全員が射撃を開始するし、敵情の報告も、同じものを偵察させているにもかかわらず、部隊によって報告が異なることが当たり前だった。毎回違う報告に、CIAのキャスパーは、発狂寸前になった。

そんな状態であっても、訓練を重ねるうちに次第に部隊らしくなってきた。また兵士になれば、相当な賃金が支払われるという噂が付近の村にも広がり、あっという間に500人程度の部隊になった。集まってきた者の中には、対戦車砲や対空砲などを手土産に持参した者もいた。

500人となれば、およそ2個中隊くらいの規模であり、軍事演習もかなり大掛かりなものとなった。対戦車砲を使った攻城訓練も行った。部隊もだいぶ統率が取れるようになり、ジェイスン・ペティソリー両大尉も、満足げだった。



このような大規模な軍事演習を、付近のタリバン部隊が気がつかないわけが無かった。普段は銃声もめずらしい平原で、野砲や小銃が鳴り響いているのである。

岩山の頂で、石に脚をかけて、眼下で行われている演習を双眼鏡で凝視しているアフガン人がいた。ウルズガン方面のタリバン司令官、ルシュディーである。

「ウルズガン地方で、俺の許しも無く、兵士を集めて訓練するようなタリバン頭目はいない」。「パシュトゥーン人どもが、火遊びを始めたのだとすれば、必ずアメリカ人がいる」。「奴らを潰す。周囲に部隊を展開しろ」。ルシュディーは、部下に言った。

ルシュディーは、ウルズガン地帯の総司令官であり、隷下に5000人ほどの部下がいる。大部隊であるが、司令官の号令1つで、水が流れるように静かに動き、あっという間にODA574がいる村を包囲してしまった。

ODA574も、村の付近に監視兵を置いて絶えず周囲を警戒していたのだが、徴用したアフガン人は、前述の通り、偵察や分析がいい加減で、村の周囲の警戒を担当しているキャスパーが、相当数の敵に包囲されていると知ったのは、敵の攻撃が始まってからである。

その日がきた。早朝から、村の近くに迫撃弾が絶え間なく炸裂した。強烈な爆発音にODA574のメンバーは跳ね起き、あたりを見渡した。3キロ離れた岩山の頂の数カ所から、迫撃弾がどんどん撃ち込まれているのがすぐに分かった。

徴用した500名のアフガン部隊が、車両に乗ってどんどん村から出て行った。攻撃を受けてすぐに行動できるほど、訓練の成果が上がっていたのかと、ペティソリーは嬉しくなったのだが、それに水を差す人物がいた。カザフ空挺部隊のアシモフ大佐である。

「アメリカ人よ。奴らは敵を攻撃しに行ったのではない。ここから逃げたのだ。これから大変だぞ」。ペティソリーは、そんな恐ろしいことを平然と言ってのけるアシモフの顔を見て、唖然という顔をした。


次回更新は、12月7日「タリバン部隊2」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:04 │Comments(0)Story(物語)

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