2012年03月07日
タリン・コットの戦い 8 Battle of Tarin Kowt
真正面に黄色い炎が上がるのを見たのは、屋根の上で狙撃しているマイク・ブレント軍曹だけではなかった。その軒下で戦闘を指揮していたジェイスン大尉にもはっきりと見えた。
「RPG!」。
ジェイスンは叫び、周囲に警告した。あの榴弾は間違いなく自分に向けられたもので、これで自分は終わったと思い、固く目をつむった。その直後、腹の底に響くような轟音と全身に衝撃が走った。
ジェイスン大尉は、長年特殊部隊に所属し、多くの戦場を渡り歩き、被弾も数えきれないくらいあったが、RPGの直撃弾だけは食らったことがなかった。あまりの衝撃に体の平衡感覚がなくなり、あたかも深海に放り込まれたように何も聞こえなくなった。これが死なのかと、この時はのんびり考える時間が少し流れた。
しばらく真空状態が続いたが、すぐにAK47の銃声が耳のそばで鳴り響いた。ゆっくりと目を開けると、先程と変わりない戦場の風景が現れた。アフガン兵が盛んに小銃を撃っている。
「俺は生きている。戦わねば・・・」。ジェイスンの軍人としての本能が復活した。
ジェイスンは、再び立ち上がり銃を構えようとしたとき、足元に、30センチほどの丸太が転がっているのが見えた。
「屋根の部材が落ちてきたのか。こんなところにあれば転ぶぞ」。そう思って、陣地の外へ放り投げようと、丸太を掴んだ瞬間、それは、丸太ではなく、人間の足であることが分かった。
その人間の足には、ナイキのスニーカーと3カラーデザートのBDUが付いていた。この組み合わせ、しかもこのスニーカーは・・・・。ジェイスン大尉はあたりを見回すと、5mほど後ろに、変わり果てた姿のマイク・ブレンド軍曹が横たわっていた。
「メディック!」。
ジェイスンは叫びながら、マイクのもとへ走っていった。すぐにマイクの肩を抱きかかえたが、それは人間ではなく血まみれの肉塊だった。両足が膝の下からなくなっていた。白い大腿骨が真っ赤な肉の先から見えていた。
マイクの体には大小の榴弾砲の破片が突き刺さり、その根元の全てから血が流れ出ていた。特に胴体に刺さった5センチほどの破片からは、ドクドクと規則正しく血が吹き出ていた。その出血を止めようとジェイスンは、懸命に傷口を抑えたが、抑える手が真っ赤に染まるだけで、出血が止まることはなかった。
メディックのケンが駆けつけ、応急処置を始めた。
「マイク、大丈夫だ。すぐに病院に連れて行ってやる。たいしたことないぞ」。
ジェイスン大尉は懸命に励ました。しかし、当のマイクが死を悟ったらしく、「大尉・・・、写真・・・・胸のポケットの・・・」。かすれるような声で言った。
ジェイスンは、胸ポケットのフラップを開けて、中から写真を取り出した。写真はすでに血まみれになっていたが、指で血を拭うと、マイクの妻と生まれたばかりの子供が現れた。
「マイク、見ろ。お前のカミさんも息子も、お前が帰ってくるのを待っているぞ。こんな所でくたばるな」。
マイクが右腕を震わせながら上げた。自分で写真を持ちたいのだろう。ジェイスンは、写真を持たせてやろうと右手を掴んだが、すでに手首から先がなかった。おそらく、榴弾の爆発を、とっさに手で防ごうとして手を出したのだろう。しかしRPGの爆発力は、手で防げるようなものではなかった。
もう一度、息子、ドミニクを抱きしめたい・・・。家を出るとき、コーヒーの煎れ方悪いと、妻のバーバラに文句を言ったことを謝らなければ・・・。マイクは、薄れゆく意識の中でそんなことを考えていた。
やがて胸に熱くこみ上げてくるものを感じた。しかしそれは、自責の念ではなく、内出血した大量の血であり、それらが口から溢れ出たとき、マイク・ブレント軍曹は、死の宣告が下されたことを知った。
銃声が、そしてジェイスン大尉の呼びかける声が次第に薄れてゆく・・・。マイク・ブレント軍曹は静かに目を閉じた。
次回更新は、3月21日「タリン・コットの戦い」です。(本業が忙しくなったので、1週お休みします)
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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「RPG!」。
ジェイスンは叫び、周囲に警告した。あの榴弾は間違いなく自分に向けられたもので、これで自分は終わったと思い、固く目をつむった。その直後、腹の底に響くような轟音と全身に衝撃が走った。
ジェイスン大尉は、長年特殊部隊に所属し、多くの戦場を渡り歩き、被弾も数えきれないくらいあったが、RPGの直撃弾だけは食らったことがなかった。あまりの衝撃に体の平衡感覚がなくなり、あたかも深海に放り込まれたように何も聞こえなくなった。これが死なのかと、この時はのんびり考える時間が少し流れた。
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「俺は生きている。戦わねば・・・」。ジェイスンの軍人としての本能が復活した。
ジェイスンは、再び立ち上がり銃を構えようとしたとき、足元に、30センチほどの丸太が転がっているのが見えた。
「屋根の部材が落ちてきたのか。こんなところにあれば転ぶぞ」。そう思って、陣地の外へ放り投げようと、丸太を掴んだ瞬間、それは、丸太ではなく、人間の足であることが分かった。
その人間の足には、ナイキのスニーカーと3カラーデザートのBDUが付いていた。この組み合わせ、しかもこのスニーカーは・・・・。ジェイスン大尉はあたりを見回すと、5mほど後ろに、変わり果てた姿のマイク・ブレンド軍曹が横たわっていた。
「メディック!」。
ジェイスンは叫びながら、マイクのもとへ走っていった。すぐにマイクの肩を抱きかかえたが、それは人間ではなく血まみれの肉塊だった。両足が膝の下からなくなっていた。白い大腿骨が真っ赤な肉の先から見えていた。
マイクの体には大小の榴弾砲の破片が突き刺さり、その根元の全てから血が流れ出ていた。特に胴体に刺さった5センチほどの破片からは、ドクドクと規則正しく血が吹き出ていた。その出血を止めようとジェイスンは、懸命に傷口を抑えたが、抑える手が真っ赤に染まるだけで、出血が止まることはなかった。
メディックのケンが駆けつけ、応急処置を始めた。
「マイク、大丈夫だ。すぐに病院に連れて行ってやる。たいしたことないぞ」。
ジェイスン大尉は懸命に励ました。しかし、当のマイクが死を悟ったらしく、「大尉・・・、写真・・・・胸のポケットの・・・」。かすれるような声で言った。
ジェイスンは、胸ポケットのフラップを開けて、中から写真を取り出した。写真はすでに血まみれになっていたが、指で血を拭うと、マイクの妻と生まれたばかりの子供が現れた。
「マイク、見ろ。お前のカミさんも息子も、お前が帰ってくるのを待っているぞ。こんな所でくたばるな」。
マイクが右腕を震わせながら上げた。自分で写真を持ちたいのだろう。ジェイスンは、写真を持たせてやろうと右手を掴んだが、すでに手首から先がなかった。おそらく、榴弾の爆発を、とっさに手で防ごうとして手を出したのだろう。しかしRPGの爆発力は、手で防げるようなものではなかった。
もう一度、息子、ドミニクを抱きしめたい・・・。家を出るとき、コーヒーの煎れ方悪いと、妻のバーバラに文句を言ったことを謝らなければ・・・。マイクは、薄れゆく意識の中でそんなことを考えていた。
やがて胸に熱くこみ上げてくるものを感じた。しかしそれは、自責の念ではなく、内出血した大量の血であり、それらが口から溢れ出たとき、マイク・ブレント軍曹は、死の宣告が下されたことを知った。
銃声が、そしてジェイスン大尉の呼びかける声が次第に薄れてゆく・・・。マイク・ブレント軍曹は静かに目を閉じた。
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作戦終了 Over the Operation
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毎週 水曜日の朝が、楽しみになっております。
季節の変わり目で、体調を崩される方も多い時期なのでお体には充分気をつけて頑張ってくださいね。
コメントありがとうございます。楽しみにしていただける方がいらっしゃることが、本当に更新の励みになります。
当方の住む長野県もようやく春の兆しがありますが、朝夕は依然として寒いです。ちょっと私も風邪気味です。
今後ともよろしくお願いします。