2012年04月04日
タリン・コットの戦い 11 Battle of Tarin Kowt
警察署の2階が大爆発を起こした瞬間、ODA574の全てのメンバーの頭に、カルザイの安否がよぎった。中でもジェイスン大尉は、真っ先に警察署に駆けつけ、未だに炎上する2階へ、階段を駆け上がっていった。
会議室に飛び込むと、中は異常な静寂に包まれていた。RPG-7の直撃を食らったにも関わらず、室内は乱れた様子はなかった。
「カルザイ!」。ジェイスンが叫ぶと、
「おぉ、私はここだ。たいしたケガはないぞ」。と暗闇の中から、カルザイの声が返ってきた。
ジェイスンは、カルザイの無事に安堵するのも束の間、「キャスパーはどこへ行った?」。と尋ねた。
「彼は、機密書類を廃棄するとかで、部屋を出て行った。するとすぐに弾頭が飛んできた」。カルザイは答えながら、壁を指差した。
壁を見ると、大きな穴がポッカリと空き、その向こうでは火災が起こっていた。もしやと思い、ジェイスンが会議室をでて、廊下側の会議室の大穴の辺りまで進むと、足元に変わり果てたキャスパーの遺骸が横たわっていた。キャスパーの遺体は、右腕が根元から吹っ飛び、目は何かを睨むかのようであった。
おそらく、超至近距離から放たれたRPG-7の弾頭は、会議室の薄い壁を貫通したのち、廊下で爆発を起こしたのだろう。それゆえ、会議室には爆風や破片が飛び散らず、カルザイも無事だったのだが、運悪く、廊下に出たキャスパーが直撃弾を喰らってしまった。戦場には、常に生と死が隣り合わせている。
「とにかく、ここは危ない。別のところに移るぞ」。ジェイスンは、カルザイに促した。警察署の地下で司令部と連絡をとっていた、CCTのダン、ウェス、アレックスなども、必要最低限の機材だけを持って付近の家屋に移動した。その間にも、警察署には何発もRPGが撃ち込まれ、その度、大爆発を起こした。
警察署の大爆発は、タリン・コット防衛軍に大きな衝撃をもたらした。ODA574のメンバーよりも、現地で徴用したアフガン人に動揺がひどかった。みな、背後で燃えさかる警察署を見て、南側のタリバン軍に対する射撃がまばらになってしまった。
「それ、敵は動揺しているぞ。今こそ突撃だ」。
タリバン司令官ラービフは、全軍に突撃命令を出した。
ラービフ率いるタリバン軍500名は、一斉に突撃体制に入った。ある者はそのまま街に向かって走り、またある者は、車両に乗り込み、そこから銃を乱射した。
このタイミングの良い攻撃に、タリン・コット防衛軍のアフガン人は、ひたすら銃を乱射するか、前線を棄てて逃げ出す者も現れた。ODAのロニーやゼペスがどんなに督戦しても、一度、ネガティブになった軍隊を立て直すのは難しかった。
科学技術の進んだアメリカ軍の戦い方とは、いかに必要なところに十分な、敵を圧倒する戦力・火力を集中するか、ということに焦点を置いている。
「集中して強打」。これこそがアメリカ軍の戦い方である。
しかし、この戦術は、あくまで戦闘の主導権を握り、能動的に作戦を立てることができる場合のみ成立するのであって、今回のように、打点を自らの判断で選べず、守勢に回るようなことになると、脆くも崩れる。アメリカ軍は、ベトナム戦争以来、守勢に回るような戦争をしたことがない。
それに対し、タリバン軍の戦い方とは、中世の戦い方そのものであり、あくまで敵の弱いところや隙を突いて戦う。
「兵は詭道なり」
戦いは、騙し合いで、いろいろの謀りごとを凝らして、敵の目を欺き、状況いかんでは当初の作戦を変えることによって勝利を収めることができる。
タリン・コット防衛軍は、ODA574の督戦も虚しく、総崩れとなった。
次回更新は、4月11日「タリン・コットの戦い」です。お楽しみに。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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会議室に飛び込むと、中は異常な静寂に包まれていた。RPG-7の直撃を食らったにも関わらず、室内は乱れた様子はなかった。
「カルザイ!」。ジェイスンが叫ぶと、
「おぉ、私はここだ。たいしたケガはないぞ」。と暗闇の中から、カルザイの声が返ってきた。
ジェイスンは、カルザイの無事に安堵するのも束の間、「キャスパーはどこへ行った?」。と尋ねた。
「彼は、機密書類を廃棄するとかで、部屋を出て行った。するとすぐに弾頭が飛んできた」。カルザイは答えながら、壁を指差した。
壁を見ると、大きな穴がポッカリと空き、その向こうでは火災が起こっていた。もしやと思い、ジェイスンが会議室をでて、廊下側の会議室の大穴の辺りまで進むと、足元に変わり果てたキャスパーの遺骸が横たわっていた。キャスパーの遺体は、右腕が根元から吹っ飛び、目は何かを睨むかのようであった。
おそらく、超至近距離から放たれたRPG-7の弾頭は、会議室の薄い壁を貫通したのち、廊下で爆発を起こしたのだろう。それゆえ、会議室には爆風や破片が飛び散らず、カルザイも無事だったのだが、運悪く、廊下に出たキャスパーが直撃弾を喰らってしまった。戦場には、常に生と死が隣り合わせている。
「とにかく、ここは危ない。別のところに移るぞ」。ジェイスンは、カルザイに促した。警察署の地下で司令部と連絡をとっていた、CCTのダン、ウェス、アレックスなども、必要最低限の機材だけを持って付近の家屋に移動した。その間にも、警察署には何発もRPGが撃ち込まれ、その度、大爆発を起こした。
警察署の大爆発は、タリン・コット防衛軍に大きな衝撃をもたらした。ODA574のメンバーよりも、現地で徴用したアフガン人に動揺がひどかった。みな、背後で燃えさかる警察署を見て、南側のタリバン軍に対する射撃がまばらになってしまった。
「それ、敵は動揺しているぞ。今こそ突撃だ」。
タリバン司令官ラービフは、全軍に突撃命令を出した。
ラービフ率いるタリバン軍500名は、一斉に突撃体制に入った。ある者はそのまま街に向かって走り、またある者は、車両に乗り込み、そこから銃を乱射した。
このタイミングの良い攻撃に、タリン・コット防衛軍のアフガン人は、ひたすら銃を乱射するか、前線を棄てて逃げ出す者も現れた。ODAのロニーやゼペスがどんなに督戦しても、一度、ネガティブになった軍隊を立て直すのは難しかった。
科学技術の進んだアメリカ軍の戦い方とは、いかに必要なところに十分な、敵を圧倒する戦力・火力を集中するか、ということに焦点を置いている。
「集中して強打」。これこそがアメリカ軍の戦い方である。
しかし、この戦術は、あくまで戦闘の主導権を握り、能動的に作戦を立てることができる場合のみ成立するのであって、今回のように、打点を自らの判断で選べず、守勢に回るようなことになると、脆くも崩れる。アメリカ軍は、ベトナム戦争以来、守勢に回るような戦争をしたことがない。
それに対し、タリバン軍の戦い方とは、中世の戦い方そのものであり、あくまで敵の弱いところや隙を突いて戦う。
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作戦終了 Over the Operation
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この記事へのコメント
ミャルコ さまコメントありがとうございます。 この本は、全く知りませんでした。早速注文いたしました。現在、仕事が忙しいので、すぐには読めませんが、できるだけ早く読んでみたいと思います。情報、ありがとうございます。 ちなみに、現在、このブログの書籍化に向けていろいろ計画中です。
Posted by 友清仁
at 2012年04月05日 08:51

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