2012年07月18日

誤爆 Friendly bombing 4

タリン・コット奪還軍の指揮官、ラービフは、隠れ家の洞窟の中で悶々としていた。先の奇襲攻撃が失敗し、配下の数も50名程度、使える車両にいたっては、10台しかなく、大幅な戦力減に次に打つ手が思いつかない。

奇襲攻撃の失敗は、既に根拠地のカンダハルにも伝わり、一時はラービフの戦死も囁かれたようである。すると、カンダハルの厭戦勢力が「北部同盟に降伏するべきだ」と動き出したそうだが、ラービフの生存が確認されると、潮が引くように消えた。

とはいえ、負けっぱなしのタリバン軍の中で、ラービフの攻撃は、ある意味「乾坤一擲」の攻撃と期待されていただけに、奇襲の失敗は、カンダハルのタリバン勢力にも少なからず影響があったようである。

その証拠に、カンダハルからの補修物資の量が著しく少なくなっていた。送られてくる量では、この洞穴で50名が野営するのが精一杯の量である。カンダハルは、このままラービフに飢えて死ねということか。

もっとも、この量の変化は、カンダハルの厭戦気分によるものだけではなく、アメリカ軍の空爆の精度が精緻を極めていることもある。いまや、ラービフの隠れ家周辺でも爆撃機の轟音を聞かない日はなく、トラックが2台連なっただけでも空爆される。

したがって、現在は、ロバの背に僅かな糧秣や弾薬を載せて、とぼとぼと歩いて運ぶのが最も安全な輸送手段である。大量に運べるわけがない。

この運搬方法は、ソ連アフガン侵攻時、シャワリ・コットの山岳地帯で行われ、山岳地帯に散らばるゲリラ部隊の隅々にまで物資が運ばれ、ゲリラは絶えずソ連軍を攻撃し、ソ連軍を苦しませた。しかし、現在のタリン・コット攻略軍には相応しい輸送手段ではない。

理由は簡単で、シャワリ・コットでは、ゲリラは山岳地帯一帯でソ連軍を待ち構えていれば良く、物資がなくなれば、自由に「撤退」や「移動」ができた。それに対し攻略軍は、攻撃をする「力点」が限定され、行動が制約されるだけでなく、兵力・火力ともに守備軍を上回らなければならない。

「現状維持」程度の物資では、再攻撃もおぼつかない。今のところ、タリン・コットのアメリカ軍・北部同盟軍の動きを牽制することはできているが、向こうの物資・兵力が充実してくれば、当然、掃討戦を行うだろう。どこまで耐えられるか・・・ラービフは自信がなかった。

カンダハルに撤退することも考えたが、部族社会のアフガニスタンでは、「敗軍の将」の地位は最低で、「敗将」のラービフは、殺されはしないだろうが、もはや政治的・軍事的「廃人」であり、それこそ、一兵卒の扱いだろう。

ラービフはため息をついた。
こんなことは・・政治的・軍事的進退について悩む・・彼の人生で初めてのことである。再びため息をつく。ソ連軍と戦っていた昔はよかった・・・。悩んだ結論が必ずそこへゆく。

ラービフは、小用を足しに洞窟の外に出た。遠くにタリン・コットの街が小さく見える。頭上からは爆撃機の爆音が聞こえる。いつもと変わらぬ。

民族衣装のカミースをまくり上げ、タリン・コットに向け放尿した。やがてその勢いが終わる頃、街の上空の雲の切れ間から、黒い点がまっすぐ街へ堕ちゆくのが見えた。その黒い点が街に吸い込まれると、地響きを伴った爆発音がおき、次いで街に火柱ときのこ雲が上がった。

ラービフの目が光った。下半身を露出したまま、付近の兵士に怒鳴った。
「おい、すぐに兵を集めろ。街を攻撃するぞ」。


次回更新は、7月25日「誤爆」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:01 │Comments(0)Story(物語)

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