2012年08月29日
セクショナリズム2 Sectionalism 2
タリン・コットで悪戦苦闘するODA574のジェイスン大尉の悲痛な叫びを受けたのは、ODB570のデビット・リー曹長であった。
リー曹長は、すぐにODB570指揮官である、ロブ・ケアンズ少佐へ報告し、指示を待った。報告を受けたケアンズ少佐は、「分かった。マティ将軍に報告し、指示を受けてくる」。そう言って、テントを出て行った。
ケアンズは、リノ空港の簡易滑走路を横切りって、空港の管制塔へ、(と言っても2階建てのコンリートの粗末な建物だが)、走っていった。滑走路の端には、CH53が4機、CH46が6機、戦闘ヘリのコブラが4機、停っているのが見えた。
ODB570は、戦地で活動するODAをバックアップする部隊であることは、すでに述べた。バックアップする部隊であるため、ODB570の司令部は、先に75レンジャーが占領し、その後、海兵隊が運営を引き継いだ、リノ基地に置かれていた。
ケアンズ少佐は、第15海兵遠征部隊司令官、ジェームズ・マティ海兵准将がいる管制塔の2階へ上がっていった。ケアンズが司令部のある部屋に入ると、「暑い」。という言葉が浮かんだ。
それもそうである。日中の最高気温は40度にもなる土地で、冷房設備もなく、風通しも良くないコンクリートの部屋は、窓を全開にしていても、死にそうなくらい暑かった。外の方がよっぽど涼しかった。
そんな暑い部屋の中で、マティ海兵准将は、簡易テーブルと椅子の司令官席に座っていた。額には汗がにじんでいた。BDUの上着は脱いでいる。
なぜ、マティ将軍は、このクソ暑い部屋に閉じこもっているのだろうか。それは、単なる指揮官の安全を確保する、という理由に過ぎない。
リノ基地は、カブールが陥落し、トラボラの掃討戦が本格化した現在では、中央作戦軍司令部の中では、最前線ではなく、「後方」という位置づけになっていた。
マティ海兵准将もそのつもりでやってきたのだが、実際は、タリバン勢力の砂漠の中にポツンとあるオアシスのようなものであることが分かった。
リノ基地には、海兵隊500名と75レンジャー200名、合計700名の兵士がおり、おそらく当時のアフガニスタンで最大の部隊であったと思われるが、周辺に連携する部隊がいないので、孤軍と言ってよかった。
いつタリバンの大攻勢が始まるかわからない。その時に司令官が戦死してしまっては、最大戦力といっても、あっという間に全滅してしまうだろう。司令官の存在こそが部隊の生命線であると、マティ将軍は思っている。そのため、死ぬような暑さのなかでも司令部にとどまっていた。
もっとも、管制塔の薄いコンクリートの壁では、AK47の銃弾は防げても、RPG-7が撃ち込まれたらひとたまりもない。
「将軍、先ほど、タリン・コットに展開するODA574指揮官、ジェイスン・ハニンガム大尉から、緊急無電があり、救助ヘリおよび応援部隊を派遣して欲しい、と要請がありました」。ケアンズは報告した。
マティ将軍は、ケアンズの顔をうっとうしそうに見て、「それで?」。と短く返した。上半身のランニングは、汗でびっしょりと濡れている。
「ODB570は、前線に展開しているODAなどの部隊のバックアップが任務ですから、この要請に応え、救助ヘリを派遣すべきだと思います」。ケアンズの額にも汗がにじんできた。
「ケアンズ君、君の意見ももっともだが・・・、それは、ODBの包括的な任務だ。しかし、君の受け取った命令書にはなんと書いてある?ODB570は、カブール司令部と連携をとりつつ、リノ基地の海兵隊の活動を援護せよ、ではなかったか?」。
「ODA574の要請は、我々ではなく、カブールの司令部へ出すべきだ。君は、その無電をカブールで転送するだけで良い」。マティは、額の汗を拭った。
「しかし・・」。そう言いかけたケアンズを遮るように、「下がって良い」。とマティ将軍は言った。
次回更新は、9月5日、「セクショナリズム」です。ご意見、ご感想をお待ちしております。
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リー曹長は、すぐにODB570指揮官である、ロブ・ケアンズ少佐へ報告し、指示を待った。報告を受けたケアンズ少佐は、「分かった。マティ将軍に報告し、指示を受けてくる」。そう言って、テントを出て行った。
ケアンズは、リノ空港の簡易滑走路を横切りって、空港の管制塔へ、(と言っても2階建てのコンリートの粗末な建物だが)、走っていった。滑走路の端には、CH53が4機、CH46が6機、戦闘ヘリのコブラが4機、停っているのが見えた。
ODB570は、戦地で活動するODAをバックアップする部隊であることは、すでに述べた。バックアップする部隊であるため、ODB570の司令部は、先に75レンジャーが占領し、その後、海兵隊が運営を引き継いだ、リノ基地に置かれていた。
ケアンズ少佐は、第15海兵遠征部隊司令官、ジェームズ・マティ海兵准将がいる管制塔の2階へ上がっていった。ケアンズが司令部のある部屋に入ると、「暑い」。という言葉が浮かんだ。
それもそうである。日中の最高気温は40度にもなる土地で、冷房設備もなく、風通しも良くないコンクリートの部屋は、窓を全開にしていても、死にそうなくらい暑かった。外の方がよっぽど涼しかった。
そんな暑い部屋の中で、マティ海兵准将は、簡易テーブルと椅子の司令官席に座っていた。額には汗がにじんでいた。BDUの上着は脱いでいる。
なぜ、マティ将軍は、このクソ暑い部屋に閉じこもっているのだろうか。それは、単なる指揮官の安全を確保する、という理由に過ぎない。
リノ基地は、カブールが陥落し、トラボラの掃討戦が本格化した現在では、中央作戦軍司令部の中では、最前線ではなく、「後方」という位置づけになっていた。
マティ海兵准将もそのつもりでやってきたのだが、実際は、タリバン勢力の砂漠の中にポツンとあるオアシスのようなものであることが分かった。
リノ基地には、海兵隊500名と75レンジャー200名、合計700名の兵士がおり、おそらく当時のアフガニスタンで最大の部隊であったと思われるが、周辺に連携する部隊がいないので、孤軍と言ってよかった。
いつタリバンの大攻勢が始まるかわからない。その時に司令官が戦死してしまっては、最大戦力といっても、あっという間に全滅してしまうだろう。司令官の存在こそが部隊の生命線であると、マティ将軍は思っている。そのため、死ぬような暑さのなかでも司令部にとどまっていた。
もっとも、管制塔の薄いコンクリートの壁では、AK47の銃弾は防げても、RPG-7が撃ち込まれたらひとたまりもない。
「将軍、先ほど、タリン・コットに展開するODA574指揮官、ジェイスン・ハニンガム大尉から、緊急無電があり、救助ヘリおよび応援部隊を派遣して欲しい、と要請がありました」。ケアンズは報告した。
マティ将軍は、ケアンズの顔をうっとうしそうに見て、「それで?」。と短く返した。上半身のランニングは、汗でびっしょりと濡れている。
「ODB570は、前線に展開しているODAなどの部隊のバックアップが任務ですから、この要請に応え、救助ヘリを派遣すべきだと思います」。ケアンズの額にも汗がにじんできた。
「ケアンズ君、君の意見ももっともだが・・・、それは、ODBの包括的な任務だ。しかし、君の受け取った命令書にはなんと書いてある?ODB570は、カブール司令部と連携をとりつつ、リノ基地の海兵隊の活動を援護せよ、ではなかったか?」。
「ODA574の要請は、我々ではなく、カブールの司令部へ出すべきだ。君は、その無電をカブールで転送するだけで良い」。マティは、額の汗を拭った。
「しかし・・」。そう言いかけたケアンズを遮るように、「下がって良い」。とマティ将軍は言った。
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作戦終了 Over the Operation
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ネプチューン・スピアー Neptune spear 7
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