2012年09月26日

セクショナリズム5 Sectionalism 5

リノ基地へ救助ヘリの要請が出された。しかし、基地司令のマティ海兵少将の返事はあまりに杓子定規であった。

「そちらの事情もよく分かるが、こちらは敵のど真ん中にいる。航空戦力は非常に貴重だ。救助ヘリはそちらで手配してくれ」。

マティ将軍の言うことも一理ある。万が一、タリバンの一斉攻撃がリノ基地へ開始された場合、攻撃ヘリコプラを使えば、一発で撃退できるし、CH46は、直接攻撃はできないものの、迫撃砲の着弾観測に使える。対空装備を持たないタリバンならば、よほど低空飛行でもしない限り、RPG-7が命中することもない。

マティの返事を聞いたカルランド少将が再び激昂した。
「マティ将軍、そちらのタリバンの攻撃は未知だ。しかし、こちらの負傷者は実際に存在している。ODB570は、すぐにタリン・コットへ救助に向かえ!!」。

カルランド少将の命令口調に、今度はマティ少将が反撃した。
「カルランド君、口を慎みたまえ。君が私に命令できるのか?確かにカブール総司令部は、リノ基地より上級司令部であるが、君も私も同じ階級だ。君は、単にフランクス大将の留守を預かっているだけだ。君に命令権はない」。
マティは、一方的に通信を切った。

マティ将軍の発言は、自軍の保全が最大の目的とはいえ、組織論としては正論である。しかし、カルランドはそのようには受け取らなかった。何につけて陸軍に対抗意識を持つ、海兵隊特有の嫌がらせにしか思えなかった。(多少はそのような意図もあっただろうが・・・)

カルランドは、司令部の机の上のアルミ製コーヒーカップを、地面に投げつけた。カップは、派手な音を立てて転がった。

「タリン・コットを空爆した、馬鹿なB-52へ繋げ。今どこを飛んでいやがる」。
怒りが頂点に来たのか、将官らしからぬ口調である。

問題のB-52、そのパイロットのクロスビー中佐へのチャンネルはすぐに開通した。カルランド少将は、クロスビーが無線に出ると、考えうる限りの悪口憎言で、クロスビーを罵倒した。マティ将軍からの怒りを引きずっている。

突然の罵倒に、クロスビーも憤りを覚えた。クロスビーからすれば、自分は、カブール総司令部の直接指揮下にあるワケではなく、いきなり罵倒される覚えはないのである。

「将軍、おっしゃっている意味がわかりません。私はSOS信号に応じたまでです」。
クロスビーは言い返したが、それは、カルランドの怒りを増幅させただけであり、なんの解決にもならなかった。

カルランドの罵倒が再び始まるまえに、隣にいた副官が事情を説明した。味方がいるタリン・コットを誤爆し、負傷者が多数いること、そして3次空爆はせずに、トラボラへ向かうことを告げた。

その間でもカルランドの怒りは収まらず、最後に、
「クロスビー中佐、君には空気の薄い上空での勤務は向いていないようだ。基地に帰ったら、適切な任務につけるように取り計らおう」。

3次空爆のおそれはなくなったものの、依然として救助ヘリの目処が立たなない。ODB570から経由されてくるタリン・コットの状況は悲惨なものばかりである。空爆の負傷者に加え、その後、馬賊どもの攻撃で、負傷者が増えているという。

このような状態でも、カブールとリノ基地とのあいだで、実務者レベルの交渉は続いている。しかしながら、基地司令のマティ少将が、応と言わなければなんともならない。このまま無意味な時間が流れてゆくのか・・・・

その時、マルホールドランド大佐が席を立ち、通信兵へ近づき、耳元で命令した。
「インカムを貸せ。そして、ほかの誰にも気づかれないように、ODB570のケアンズ少佐と直接、話ができるようにしろ」。


次回更新は、10月3日「セクショナリズム」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:00 │Comments(2)Story(物語)

この記事へのコメント
おはようございます。
訳したくなかった理由がよくわかりました。
でもこれをやることにしたあなたは正しいと思います。
Posted by JTGCチーフ at 2012年09月26日 07:28
JTGC さま

コメントありがとうございます。
アメリカ軍とはいえ、やっぱり官僚組織であり、このような縄張り主義はやむおえないのかもしれません。

アメリカ軍もカッコイイところばかりじゃないってことがわかって頂ければ幸いです。
Posted by 友清仁友清仁 at 2012年09月26日 10:00
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