2012年11月14日
死に値すべきもの The worth dying for 5
タリバン軍との最初のコンタクトから10分ほど経過した。その間にガンナーのマルティネス軍曹は、M240の弾帯を新しいものへ替え、再び周囲を警戒した。さらに1分後、前方にいくつもの光源がチラチラと現れた。グレック大尉は、「やはりな・・」と、つぶやいた。
通常、敵に発見されたときは、欺瞞行動をとる。進路や高度を大きく変え、敵を混乱させるのである。実際にグレックは、今までそのような手段で、敵の攻撃をかわしてきた。タリバンには、欺瞞飛行は非常に有効で、1度の欺瞞飛行で簡単に追跡を振り切ることができた。
しかし、今回は、燃料と時間の関係から、まったく欺瞞飛行ができなかった。先ほど接敵したタリバンは、進路を後方の部隊へ連絡したのだろう。進路上に敵が現れるのは当然であった。
「1時、11時方向に敵。ガンナー、スタンバイ」。副操縦士のシュワイン少尉はマイクを通じて、ガンナーに指示した。
CH46の左右のガンナーは、M240を思い切り前方へ向けてかまえた。タリバンの射撃が始まるのと、マルティネス軍曹らがトリガーを引くのがほぼ同時だった。ヘリの機内に、再び銃声と薬莢の落ちる金属音がこだました。
ぎゅーん、ぎゅーん、とタリバンからの弾丸が空気を切り裂く音が、不気味にCH46の周囲で鳴る。弾道は見えない。それに対し、CH46のM240は、10発に1発の割合で、曳光弾が撃ち出されるため、オレンジ色の点が、前方の光源へ向かって飛んでゆく。
ヘリがどんどん敵に近づいていく。遠くに見えていた、おそらく車両のヘッドライトと思われる光源のほかに、射撃する銃口からでる火花すら見えるようになった。
「当たれ・・・当たれ・・・」。副操縦士のシュワイン少尉は、斜め後ろから繰り出されるオレンジ色の曳光弾の一発、一発に念じた。曳光弾は、間違いなくヘッドライトの光源に向かって吸い込まれてゆくのだが、同じペースで、光源からも不気味な音が返ってくる。
シュワインの体は、次第に硬直してきた。彼にとって、実戦、とくに銃弾が飛び交う戦場は初めてだった。心臓の鼓動が肋骨を突き破るんじゃないかと思うくらい体内で響いている。
グレック大尉は、チラッとシュワインを見た。初めての戦場の恐怖で顔面が蒼白になっているのが分かった。「こいつ、ビビってやがる・・・」。グレックは、心の中で舌打ちした。副操縦士のシュワインがこの調子では、万が一、自分が死んだ時、CH46はノーコン状態となり、そのまま墜落してしまうだろう。
シュワインを正気にさせねばならない。戦場の恐怖と緊張を解くには、行動し、死を感じさせないことである。
「シュワイン、目標まであと、どれくらいだ!」。グレックは、恐怖で呆然としているシュワインに行動させようとして、指示を出した。その声に、ハッと我にかえったシュワインは、目の前のコンパネに目を落とし、「目標までの距離は・・・・」と報告しようとしたときである。パシ、パシ、パシっと、薄いセロファンを指で弾くような音が、コックピットに響いた。
パイロットのグレック大尉の頬に、生暖かい液体がついた。前方を凝視して、ヘリを操縦しているグレックには、その液体が何なのかわからなかった・・・いや、想像はできた。絶望的な思いを持って左を向くと、副操縦士のシュワイン少尉がうなだれてコックピットに座っていた。フロントガラスは、赤く染まっている。
「メディック!!シュワインがやられた。すぐに助けてやれ!」。グレックは後方に控えるPJに向かって怒鳴った。
次回更新は、11月21日「死に値すべきもの」です。お楽しみに。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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通常、敵に発見されたときは、欺瞞行動をとる。進路や高度を大きく変え、敵を混乱させるのである。実際にグレックは、今までそのような手段で、敵の攻撃をかわしてきた。タリバンには、欺瞞飛行は非常に有効で、1度の欺瞞飛行で簡単に追跡を振り切ることができた。
しかし、今回は、燃料と時間の関係から、まったく欺瞞飛行ができなかった。先ほど接敵したタリバンは、進路を後方の部隊へ連絡したのだろう。進路上に敵が現れるのは当然であった。
「1時、11時方向に敵。ガンナー、スタンバイ」。副操縦士のシュワイン少尉はマイクを通じて、ガンナーに指示した。
CH46の左右のガンナーは、M240を思い切り前方へ向けてかまえた。タリバンの射撃が始まるのと、マルティネス軍曹らがトリガーを引くのがほぼ同時だった。ヘリの機内に、再び銃声と薬莢の落ちる金属音がこだました。
ぎゅーん、ぎゅーん、とタリバンからの弾丸が空気を切り裂く音が、不気味にCH46の周囲で鳴る。弾道は見えない。それに対し、CH46のM240は、10発に1発の割合で、曳光弾が撃ち出されるため、オレンジ色の点が、前方の光源へ向かって飛んでゆく。
ヘリがどんどん敵に近づいていく。遠くに見えていた、おそらく車両のヘッドライトと思われる光源のほかに、射撃する銃口からでる火花すら見えるようになった。
「当たれ・・・当たれ・・・」。副操縦士のシュワイン少尉は、斜め後ろから繰り出されるオレンジ色の曳光弾の一発、一発に念じた。曳光弾は、間違いなくヘッドライトの光源に向かって吸い込まれてゆくのだが、同じペースで、光源からも不気味な音が返ってくる。
シュワインの体は、次第に硬直してきた。彼にとって、実戦、とくに銃弾が飛び交う戦場は初めてだった。心臓の鼓動が肋骨を突き破るんじゃないかと思うくらい体内で響いている。
グレック大尉は、チラッとシュワインを見た。初めての戦場の恐怖で顔面が蒼白になっているのが分かった。「こいつ、ビビってやがる・・・」。グレックは、心の中で舌打ちした。副操縦士のシュワインがこの調子では、万が一、自分が死んだ時、CH46はノーコン状態となり、そのまま墜落してしまうだろう。
シュワインを正気にさせねばならない。戦場の恐怖と緊張を解くには、行動し、死を感じさせないことである。
「シュワイン、目標まであと、どれくらいだ!」。グレックは、恐怖で呆然としているシュワインに行動させようとして、指示を出した。その声に、ハッと我にかえったシュワインは、目の前のコンパネに目を落とし、「目標までの距離は・・・・」と報告しようとしたときである。パシ、パシ、パシっと、薄いセロファンを指で弾くような音が、コックピットに響いた。
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作戦終了 Over the Operation
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