2013年01月09日

死に値すべきもの The worth dying for 12

ODA574のメディックのケンの一言に、救援に駆けつけたODB570のPJたちは、一斉にケンの顔を見た。

ヘリに負傷者を載せカブールへ移送する、すなわち、あの低空飛行をカブールまでもう1度行うことになる。しかも、今度は負傷者を満載しての飛行である。急な操縦は不可能で、タリバンの攻撃を回避できない。

陽が落ちている。確かに闇夜がCH46を隠してくれるだろう。しかし、タリバンが持っているスティンガーミサイルは、感熱シーカーを装備している。ヘリのローター音がする方向へ向かって放てば、よほどのことがない限り命中する。危険であることはかわりがなかった。

「この負傷者を、全員、カブールへ移すのですか?」。PJの一人は訊ねた。
「彼らは、アフガン人だが、アメリカ軍に協力している。いわば、アメリカの同盟軍だ。同盟軍の負傷者を助けることは、友軍として当然だ」。
ジェイスン大尉は、同じことを何度も言わせるなと言わんばかりの顔で返した。

ODA574とPJたちの会話は、当然のことながら、英語で行われ、アフガン人には分からない。しかし、言葉がわからないが、どうやらアメリカ人は、我々、アフガン人について言い争っている、という雰囲気だけは、アフガン人の負傷者、そして救助を手伝っているアフガン衛生兵には、伝わっているようだった。

彼らは、言い争っているアメリカ人を見ている。その目は、「我々を見捨てるのか」という、不安、猜疑、絶望のまなざしであった。

タリン・コットのアフガン人からしてみれば、タリバンの支配は窮屈であったものの、それなりに平穏無事に生活ができていた。そこへ突然、アメリカ軍が侵入してきて、平和だった街の周辺で戦闘が行われるようになった。

しかも、タリン・コットの街は、戦略的重要地点であるという理由で、それは街に住む者にとっては全く関係のないことで、アメリカ軍がやってきて、さらにタリバン軍が攻撃してきた。いつの間にか自衛軍が結成され、戦った。

その視線を感じたのか、PJたちも沈黙し、重傷者を担架に乗せ、歩けない者には肩を貸し、ヘリコプターまで輸送する車両に乗せた。

街の南の空き地で待機しているCH46パイロットのグレック大尉とガナーのマルティネス軍曹は、遠くからトラックのヘッドライトが近づいてくるのが見えた。ヘリはいつでも飛び立てるように、アイドリング状態である。

「いよいよだな」。グレックがつぶやいた。再び決死の飛行が始まる。マルティネスも、すぐに銃座に戻り、M240Bの弾帯を確認した。

トラックが、CH46に横付けされた。荷台には負傷者が満載され、苦痛の叫びなのか、それとも護送される安堵感なのか、皆、口々にわめいていた。

しかし、その様子を見て驚いたのは、パイロットのグレック大尉である。理由は、PJたちと同じであった。
「負傷者は、アメリカ兵ではないのか?」。グレックは、聞いた。PJたちは、ジェイスン大尉から言われた通りのことを伝え、ヘリに載せるかどうか、カブールへ連れてゆくかどうか、グレックの判断に任せるといった態度であった。

グレックは、躊躇(ちゅうちょ)した。しかし、その理由は、PJたちとは違った。彼は、自分の任務は、負傷者を運ぶことだと、極言すれば、単なる「運び屋」だと思っている。輸送ヘリのパイロットなどそんなものだ。

「運び屋」としての躊躇。それは、明らかに重量オーバーなのである。CH46の燃料は、半分よりわずかに多いくらいで、定員で飛んで、ギリギリ到着できる程度である。さっと見たところでも、重傷者だけでも、かなりの人数である。
アメリカ兵だけを輸送するならば、十分に足りるが、それでは大量の重傷者を見捨てることになる。

アメリカ兵だけを輸送するべきか、それともアフガンの重傷者も連れてゆくべきか・・・・

「負傷者を全員、ヘリに乗せろ。その代わり兵装や予備弾薬を棄てる。カブールまで、退避行動は一切できない。早く乗せるんだ!」。「負傷者を載せたら、すぐに飛び立つぞ。アーメン!」。
グレックはPJたちに怒鳴った。


次回更新は、1月16日「死に値すべきもの」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:00 │Comments(0)Story(物語)

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