2013年01月16日

死に値すべきもの The worth dying for 13

CH46のキャプテン、グレック大尉の指示を受けて、PJやヘリクルーたちは、アフガン兵負傷者をヘリへ乗せ始めた。

CH46は、通称シーナイトと呼ばれ、アメリカ軍を代表する汎用ヘリコプターである。通常は、貨物や兵員を輸送する任務に使用されるため、兵員用の座席や物資を固定する棚などが、機内に設置されているのだが、今回は、救急任務がメインになるため、カイコ棚のように、両サイドに担架が設置されている。

しかし、その担架も1機あたり8つしかなく、2機で合計16名ほどしか収容できない。グレック大尉がトラックに乗せられた負傷者をみると、担架に乗せられた者は、少なくとも30~40名はいた。それ以外にも、腕を包帯で吊っている者、頭のほとんどを包帯で覆われている者などが何人もいた。

そこで、PJたちは、機体内部の左右の担架の間に棒を渡し、そこへ板戸を載せて応急の担架を作った。これで負傷者を載せられるようになった。しかし、PJたちの乗るスペースもかなり制約される。

PJのリーダーが、ヘリに載せる負傷者の選別を行っている。重傷者の中で、さらに重傷なものを乗せるように指示を出している。CIAのゼペスと空軍のゼニスは、まっさきに収容されたのは言うまでもない。

ODA574のもう一人の指揮官であるペティソリー大尉は、足を骨折していた。彼はアフガン兵の負傷者と比べると、「軽傷」の部類だが、カブール総司令部へODA574やタリン・コットの状況を報告するため、カブールへ行くことになった。

しかし、ペティソリーを乗せるスペースがなかった。PJたちがどうすべきか判断を出しかねていると、ペティソリーは、「あそこがある」と指を刺した。

その指の先にあるのは、かつてシュワイン少尉が乗っていた、副パイロットの操縦席であった。すでにシュワインの遺体は下ろされているが、彼を襲った銃弾の跡や血痕はそのままであった。

PJたちが何か言う前に、ペティソリーは、足を引きずりながら歩いてゆき、操縦席のドアを開けて、コックピットに収まった。

ペティソリーが操縦席に座ると、となりには、正パイロットのグレックが、ヘリのコントロールパネルを凝視していた。しかし、直ぐにペティソリーに気がつくと、「あんた、そこに座るのか?」と訊ねた。

その言葉は、シュワイン少尉に対する感傷ではなく、ペティソリーが副パイロットの役目を果たせるのか、という意味である。ペティソリーも、十分に承知しているようで、「こんなことでもなければ、ヘリの操縦席に乗れないからな。となりであんたの操縦を見ておくよ」。

ひとりでも多くの負傷者を運ぶため、ヘリの重量を軽くせねばならない。ガナーのマルティネス軍曹は、ヘリの装備されている、M240の予備弾薬を機外へ出した。弾薬箱4つだが、7.62mm弾が数百発あるため、人間一人分の重量の節約になっただろう。

ついで、工具箱からスパナを取り出し、M240の銃座を分解し始めた。弾丸がなければ、銃は何の役にも立たない。左右に取り付けられているM240を取り外せば、もう一人分の重量の節約になる。もちろん、マルティネスもヘリを降りる。大柄のマルティネスが降りれば、小柄なアフガン兵2名分くらいになるだろう。

グレック大尉は、背後で行われている作業を見て、コックピットのそばに置いてある、護身用のMP5も機外のアフガン兵に渡そうとした。しかし、それを見たマルティネスは、「キャプテン、それだけは持っていてくれ。最後の守り神だ」。CH46の兵装はMP5、1丁のみとなった。

やがて負傷者の積み込みが終了したことを告げられたグレック大尉は、離陸するべくCH46のエンジンの出力を上げた。機体にエンジンの振動が激しく伝わる。そしてグレックは後ろを振り返り、アフガン兵負傷者に向かって叫んだ。

「これからカブールに向けて飛び立つ。しかし無事に到着できるか、それは神のみぞ知ることだ。俺たちはキリストに祈る。お前らはアラーに祈れ。神様も2人いれば、なんとかなるだろう」。

グレックは、操縦桿をグッと引き寄せた。負傷者を満載しているせいか、操縦桿は異様なほど重かった。


次回更新は、1月23日「死に値すべきもの」です。
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Posted by 友清仁  at 07:00 │Comments(0)Story(物語)

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