2013年02月06日
戦闘終結 Over the war 2
カンダハル陥落の一報が、カブールの総司令部に伝えられた。カンダハルは、アフガン南部の最大の都市であり、タリバン発祥の地といっても過言ではない。カンダハルの占領は、このアフガン戦争の最大の目標といっても良かった。
その最大目標が、1週間の空爆で簡単に陥落してしまった。総司令部の参謀たちは、相当な市街戦があると見込んでいたのだが、それは杞憂に終わった。
しかし、その安堵もつかの間であった。問題は、ODA574のジェイスン・クラフト大尉の報告の内容である。
「こちらODA574。空爆の結果、カンダハルから降伏の申し出があった。これから、ODA583が入城し、武装解除を行う」。
特に問題ない報告に思えるが、カブール総司令部には重大な問題であった。それは戦術的なことよりも、多分に戦略的な意味合いである。
すでにカブールでは、バグラム空軍基地とカブールを陥落させたファヒム将軍と、マザリシャリフとクライ・シャンギ監獄を制圧したドスタム将軍の間で、勢力争いが起きそうな状態である。
カブール総司令部、特にワシントンは、いずれの将軍にも新生アフガニスタンの首長の権限を与えるつもりはなく、親米派のカルザイを国家元首に据えようと考えている。
しかしながら、カルザイは、単に昔の王族の末裔というだけで、とくにタリバン統治時代には、パキスタンへ亡命していた一介の浪人であり、そのカルザイを、いきなり元首に据えることは、この戦争は、「テロとの戦い」ではなく、アメリカの中東政策の一部であることを印象づけてしまう。
カルザイには、カンダハル攻略という実績を作らせなければならなかった。
しかし、報告では、カンダハルに一番に入城したのは、ODA583が取り込んだ、南部軍閥の親玉の、ガル・アタ・シャルザイだという。これでは、シャルザイがタリバン政権を倒した構図になってしまう。
シャルザイなどという田舎の頭目に、アフガン戦争最大の果実を渡すわけにはいかなかった。アメリカとしては、なんとしても、その果実をカルザイに与えたかった。カブール司令部では、シャルザイの懐柔と、それがうまくいかなかったときの、暗殺まで検討に入った。
この方針は、すぐにジェイスン大尉のもとへ、相当な「叱責」を含んで伝えられた。ジェイスンの現場指揮官の戦術的な最良策が、ワシントンの大戦略の前で大愚策となってしまったのである。
無線を受けたジェイスン大尉は、ため息をついた。しかしこれは、彼の責任ではない。彼は戦闘指揮官として最良の手段を採ったまでであり、彼の立場上、戦略的なことまで考える必要ない。それは佐官級以上の士官が考えることであった。しかしながら、その佐官級士官は、誤爆により戦死してしまった。
「とりあえず、カンダハルに入城しよう」。ジェイスンは再びため息をついた。
カルザイ軍は、カンダハル空港爆撃の間、付近の村の占領・慰撫を行い、その村々で兵士を徴用したので、1000人程度の規模になっていた。数十台の車列がカンダハルへ向け、一斉に移動を開始した。
カンダハルの城壁が間近に迫ってきた。ジェイスンの懸念は、先に入城したシャルザイが、カンダハルの「王」として君臨し、尊大な態度で、カルザイに列伍に加わることを強要するか、場合によっては、入城を拒んで、戦闘が起こるかもしれないことであった。
しかしながら、その心配は、城門に到着するころには雲散霧消した。南部軍閥の頭目のシャルザイは、多数の家来を従えて、城門の前で、貴人を迎えるような態度で待ち、入城後は、カルザイを上座に据え、万事、カルザイの家来のように振舞った。
ODA583のマイク・パーカー大尉によると、「カルザイ来る」の一報を聞いたシャルザイは、雷に撃たれたかのように戦慄し、すぐに家来に城門の清掃を命じ、城門の外に出た。カルザイの姿が見たとき、それこそ平伏せんばかりの態度であったという。
アフガン北部では、旧王族の権威など、とうの昔に失墜していたが、南部の田舎では、未だにその権威は生きているようだった。もっとも、アメリカもそれを見込んで、カルザイを担ぎ出したわけだが・・・
カルザイは、カンダハル市街地の広場に車を止めるように言い、そこで、高らかに勝利宣言を発した。
次回更新は、2月13日「戦闘終結」です。お楽しみに。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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その最大目標が、1週間の空爆で簡単に陥落してしまった。総司令部の参謀たちは、相当な市街戦があると見込んでいたのだが、それは杞憂に終わった。
しかし、その安堵もつかの間であった。問題は、ODA574のジェイスン・クラフト大尉の報告の内容である。
「こちらODA574。空爆の結果、カンダハルから降伏の申し出があった。これから、ODA583が入城し、武装解除を行う」。
特に問題ない報告に思えるが、カブール総司令部には重大な問題であった。それは戦術的なことよりも、多分に戦略的な意味合いである。
すでにカブールでは、バグラム空軍基地とカブールを陥落させたファヒム将軍と、マザリシャリフとクライ・シャンギ監獄を制圧したドスタム将軍の間で、勢力争いが起きそうな状態である。
カブール総司令部、特にワシントンは、いずれの将軍にも新生アフガニスタンの首長の権限を与えるつもりはなく、親米派のカルザイを国家元首に据えようと考えている。
しかしながら、カルザイは、単に昔の王族の末裔というだけで、とくにタリバン統治時代には、パキスタンへ亡命していた一介の浪人であり、そのカルザイを、いきなり元首に据えることは、この戦争は、「テロとの戦い」ではなく、アメリカの中東政策の一部であることを印象づけてしまう。
カルザイには、カンダハル攻略という実績を作らせなければならなかった。
しかし、報告では、カンダハルに一番に入城したのは、ODA583が取り込んだ、南部軍閥の親玉の、ガル・アタ・シャルザイだという。これでは、シャルザイがタリバン政権を倒した構図になってしまう。
シャルザイなどという田舎の頭目に、アフガン戦争最大の果実を渡すわけにはいかなかった。アメリカとしては、なんとしても、その果実をカルザイに与えたかった。カブール司令部では、シャルザイの懐柔と、それがうまくいかなかったときの、暗殺まで検討に入った。
この方針は、すぐにジェイスン大尉のもとへ、相当な「叱責」を含んで伝えられた。ジェイスンの現場指揮官の戦術的な最良策が、ワシントンの大戦略の前で大愚策となってしまったのである。
無線を受けたジェイスン大尉は、ため息をついた。しかしこれは、彼の責任ではない。彼は戦闘指揮官として最良の手段を採ったまでであり、彼の立場上、戦略的なことまで考える必要ない。それは佐官級以上の士官が考えることであった。しかしながら、その佐官級士官は、誤爆により戦死してしまった。
「とりあえず、カンダハルに入城しよう」。ジェイスンは再びため息をついた。
カルザイ軍は、カンダハル空港爆撃の間、付近の村の占領・慰撫を行い、その村々で兵士を徴用したので、1000人程度の規模になっていた。数十台の車列がカンダハルへ向け、一斉に移動を開始した。
カンダハルの城壁が間近に迫ってきた。ジェイスンの懸念は、先に入城したシャルザイが、カンダハルの「王」として君臨し、尊大な態度で、カルザイに列伍に加わることを強要するか、場合によっては、入城を拒んで、戦闘が起こるかもしれないことであった。
しかしながら、その心配は、城門に到着するころには雲散霧消した。南部軍閥の頭目のシャルザイは、多数の家来を従えて、城門の前で、貴人を迎えるような態度で待ち、入城後は、カルザイを上座に据え、万事、カルザイの家来のように振舞った。
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アフガン北部では、旧王族の権威など、とうの昔に失墜していたが、南部の田舎では、未だにその権威は生きているようだった。もっとも、アメリカもそれを見込んで、カルザイを担ぎ出したわけだが・・・
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作戦終了 Over the Operation
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ネプチューン・スピアー Neptune spear 7
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今更ですが、カザフ軍空挺連隊のアシモフ大佐 とは何者ですか?
コメントありがとうございます。
アシモフ大佐ですが、私もよくわかりません。このブログの元ネタとなった小説に出てくる人です。
もしかしたら、架空の人物かもしれません。ただし、実際のODAには、グリーンベレーだけでなく、通訳などの役割で現地人なども協力していたので、アシモフ大佐のような方もいたかもしれませんね。