2013年03月06日
KBL Kill Bin Laden
2011年5月某日深夜。2機のCH47チヌークがパキスタン北部アボタバード上空をホバリングしていた。ヘリの格納区画には、一人の老兵士が、座席から少し身を乗り出し、眼下の暗闇をじっと見ていた。この下には、国際テロ組織アルカイダの首領、オサマ・ビンラディンが潜伏していると考えられている屋敷があるはずだ。
いま、その屋敷内で、海軍特殊部隊シールズの隊員たちが、ビンラディン襲撃作戦を行っているに違いない。しかし、銃声も聞こえず、銃火も見えない。全くの暗闇である。
やがて、眼下でパッと火柱が上がったかと思うと、それを合図にしていたのか、チヌークは急降下し着陸した。着陸と同時に、後部タラップが、ぐあんと解放され、機内の戦術士官が、外へ飛び出ると、「急げ!」と叫んだ。
老兵士は、ナイトビジョンを装着し、チヌークの外を見た。ライムグリーンの視界の中に、ひときわ高い塀と、その向こうに3階建ての建物が浮かび上がった。
壁の城門が、内側から勢いよく開かれた。そして、その城門からシールズの隊員たちが、一人、また一人と吐き出されるかのように現れた。
数人が駆け足で城門からチヌークへ乗り込んだ。少し間隔があいて、今度は、4名の隊員が、真ん中に真っ黒い大きな物体を、(ナイトビジョンの視界にはそのように見えた)、それぞれの取っ手を持って現れた。彼らもまた、チヌークに乗り込んだ。
CH47チヌークの格納区画の左右に、兵員たちが対面して座るように座席が並んでいる。乗り込んだ隊員から奥に詰めて座っている。大きな黒い物体を運んだ兵士たちも、その黒い物体を真ん中に、左右の座席に座った。
やがて、シールズ隊員すべてが乗り込んだことを確認すると、チヌークは急上昇した。機内に安堵の空気が漂った。しかし、老兵士は、険しい顔を崩さず、「ぼさっとしていないで、やつの顔を見せろ」。低い声でシールズ隊員に指示した。
隊員の一人が、黒い物体の真ん中にあるジッパーを開いた。老兵士は、シュワファイアの緑色の光を黒い物体に当てた。光の先には、血まみれの男の死体があった。黒い物体は、遺体収容袋だったのである。
頭部の損傷が激しかったが、まさしく奴だった。数発が命中したのだろう。そのうち1発が左目の上に命中しているようだった。命中した時、遺体の頭は、射手を真正面に向いていたに違いない。後頭部からかなりの量の脳髄が漏れ出ていた。
シュアファイアとナイトビジョンは、血液や脳髄を黒い斑点に映し出した。しかし、それが全てではなく、衝撃と運動エネルギーによって、頭部が膨張し、脳水腫を患った患者のように見えた。バーンズTSX弾が7メートル内外で命中すると、そのようになる。
不揃いのあごひげ、ボサボサの白髪。イスラム世界では、この男のことをジハド(聖戦士)と言うのだろうか。奴は、ビデオに映るときは、髪を染めていやがった。老兵士は、その遺体をなおも凝視した。
老兵士は、手を伸ばしてジッパーを遺体の腰辺りまでおろした。胸から腹にかけて、4発、5発、いやそれ以上だろう。激しい銃撃により、遺体はぐちゃぐちゃになり、赤いゼリーが横たわっているようだった。ジッパーを開けると直ぐに、腐敗臭とも排泄臭とも言えない臭いが機内に広がった。おそらく直腸にも命中したからだろう。
「死ぬ間際、奴は何か言っていたか?」。老兵士は、若いシールズ隊員に尋ねた。
「何も言っていません。ご覧の状態で倒れました」。隊員は、サプレッサー付きのライフルのスリングを緩めながら答えた。
襲撃作戦の不手際から、急遽、このチヌークで脱出することになったシールズ隊員たちは、この老兵士が何者なのか分からない。ただ、この場にいるということは、今回の作戦に何らかの任務で関わったのだろう。しかし、BDUには、氏名はもとより、階級章すら付けていない。
シールズ隊員は、老兵士の手を見た。指が数本なかった。「いままで、どのような任務についていたのですか」。
老兵士は、少し間をおいて、「全て終わったことだ。諸君らはよくやってくれた。帰ったら、好きなだけビールを飲んで、死ぬほど眠れ」。
老兵士は、遺体袋のジッパーを閉めて、シュワファイアを消すと、あとは何を問われても、石のように答えなかった。
次回更新は、3月13日「アボタバード」です。お楽しみに。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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いま、その屋敷内で、海軍特殊部隊シールズの隊員たちが、ビンラディン襲撃作戦を行っているに違いない。しかし、銃声も聞こえず、銃火も見えない。全くの暗闇である。
やがて、眼下でパッと火柱が上がったかと思うと、それを合図にしていたのか、チヌークは急降下し着陸した。着陸と同時に、後部タラップが、ぐあんと解放され、機内の戦術士官が、外へ飛び出ると、「急げ!」と叫んだ。
老兵士は、ナイトビジョンを装着し、チヌークの外を見た。ライムグリーンの視界の中に、ひときわ高い塀と、その向こうに3階建ての建物が浮かび上がった。
壁の城門が、内側から勢いよく開かれた。そして、その城門からシールズの隊員たちが、一人、また一人と吐き出されるかのように現れた。
数人が駆け足で城門からチヌークへ乗り込んだ。少し間隔があいて、今度は、4名の隊員が、真ん中に真っ黒い大きな物体を、(ナイトビジョンの視界にはそのように見えた)、それぞれの取っ手を持って現れた。彼らもまた、チヌークに乗り込んだ。
CH47チヌークの格納区画の左右に、兵員たちが対面して座るように座席が並んでいる。乗り込んだ隊員から奥に詰めて座っている。大きな黒い物体を運んだ兵士たちも、その黒い物体を真ん中に、左右の座席に座った。
やがて、シールズ隊員すべてが乗り込んだことを確認すると、チヌークは急上昇した。機内に安堵の空気が漂った。しかし、老兵士は、険しい顔を崩さず、「ぼさっとしていないで、やつの顔を見せろ」。低い声でシールズ隊員に指示した。
隊員の一人が、黒い物体の真ん中にあるジッパーを開いた。老兵士は、シュワファイアの緑色の光を黒い物体に当てた。光の先には、血まみれの男の死体があった。黒い物体は、遺体収容袋だったのである。
頭部の損傷が激しかったが、まさしく奴だった。数発が命中したのだろう。そのうち1発が左目の上に命中しているようだった。命中した時、遺体の頭は、射手を真正面に向いていたに違いない。後頭部からかなりの量の脳髄が漏れ出ていた。
シュアファイアとナイトビジョンは、血液や脳髄を黒い斑点に映し出した。しかし、それが全てではなく、衝撃と運動エネルギーによって、頭部が膨張し、脳水腫を患った患者のように見えた。バーンズTSX弾が7メートル内外で命中すると、そのようになる。
不揃いのあごひげ、ボサボサの白髪。イスラム世界では、この男のことをジハド(聖戦士)と言うのだろうか。奴は、ビデオに映るときは、髪を染めていやがった。老兵士は、その遺体をなおも凝視した。
老兵士は、手を伸ばしてジッパーを遺体の腰辺りまでおろした。胸から腹にかけて、4発、5発、いやそれ以上だろう。激しい銃撃により、遺体はぐちゃぐちゃになり、赤いゼリーが横たわっているようだった。ジッパーを開けると直ぐに、腐敗臭とも排泄臭とも言えない臭いが機内に広がった。おそらく直腸にも命中したからだろう。
「死ぬ間際、奴は何か言っていたか?」。老兵士は、若いシールズ隊員に尋ねた。
「何も言っていません。ご覧の状態で倒れました」。隊員は、サプレッサー付きのライフルのスリングを緩めながら答えた。
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作戦終了 Over the Operation
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