2013年05月15日
アボタバード Abbottabad 8
CIAが、衛星携帯電話の行方を懸命に追っている一方で、アボタバードの捜索グループも活動を続けていた。
乞食に変装したチャーリーは、あの日以来、怪しい屋敷には近づいていない。その代わり、CIAの工作員が、屋敷から3キロほど離れたやぶに監視ポイントを作り、そこから超望遠のデジタル双眼鏡を使って、24時間体制で監視している。
さらに偵察衛星により、屋敷上空からも監視を続けた。パキスタン上空を飛行する偵察衛星は1基しかなかったため、5時間ごとの映像しか得ることができなかったのだが、周辺を飛行する衛星のカメラの角度を変えることで、ほぼ24時間、途切れることなく、映像を撮影することができた。
チャーリーは、街の中に入ってゆき、人々の噂話や動向を観察していた。衛星や偵察チームの監視がハードな情報収集ならば、チャーリーの行っていることは、ソフトな情報収集である。
チャーリーは、箱車を漕いで移動している。それにしても、武装警察の数が多い。アボタバードには、士官学校があるため、その入学式や卒業式には、大統領をはじめとする軍首脳が一斉に集まるため、警備が厳重になることは理解できる。
しかし、今は5月で、卒業式までは、まだ日がある。チャーリーも、それとなく街の住民に、そのことを話題にしてみるが、納得がいく情報を得ることができなかった。
チャーリーには、寺院近くで喫茶店を経営しているワシームとは別に、もう1ヶ所、食べ物を恵んでくれる人がいる。車の交通量が多い、アボタバードのメインストリートで、ザムザム茶や軽食を売っている屋台のオヤジである。
「アッサラーム アレイクム(こんにちは)」。チャーリーは、完璧なウルドゥ語の発音で、オヤジに挨拶した。屋台のオヤジは、「久しぶりだな、どこに行ってた?」。全く警戒心のない態度で、コップにザムザム茶を注ぎ、チャーリーに渡した。
「足が痛むんで、しばらく橋の下で寝ていた。腹が減った。なにか食わせてくれ」。屋台のオヤジは、すぐにヒラマメのシチューを皿に盛って、チャーリーに渡した。チャーリーも遠慮なく食った。
チャーリーは、シチューを平らげると、「さて、始めるか」と、屋台の隣に座り、銭を受ける鉢を置くと、ブツブツとなにか語りだした。
チャーリーが語りだしてから、10分ほど経過すると、チャーリーの周りに人が集まり始め、彼の独り言を聴き始めた。チャーリーが語っているのは、アフガン-パキスタン国境での、ムジャヒディンたちの戦いの様子である。
その話は、戦場の滑稽な話の時もあれば、熱烈なムジャヒディンの感動的な話の場合もある。無論、すべてチャーリーの創作なのだが、人々は、その話を熱心に聞いている。
チャーリーは、アメリカと戦うムジャヒディンたちの勇姿を語ることで人々から銭を得ていた。ちょうど、琵琶法師が平家物語を語るようなものである。チャーリーが、ジハードで負傷し、人にすがって生きてゆくしかない乞食であることも、人々の同情を誘った。
屋台のオヤジが乞食のチャーリーに寛大なのは、彼の話を聞きに来る人々が、屋台でザムザム茶や軽食を買ってくれるからである。
今回の座談も大盛況であった。人々はチャーリーの前に置かれた鉢に、小銭を入れてゆく。鉢は、すぐに銭で一杯になった。
人々が去ったあとで、「今日も大儲けだな」。オヤジが声をかけると、「あんたも儲けただろ」、とチャーリーは返した。
箱車に乗り、「また来るよ」。チャーリーがオヤジに告げたときである。
鋭い殺気を帯びた視線を感じた。恐る恐る、その視線の先を見たとき、チャーリーの背中に冷たいものが流れた。
次回更新は、5月22日「アボタバード」です。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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乞食に変装したチャーリーは、あの日以来、怪しい屋敷には近づいていない。その代わり、CIAの工作員が、屋敷から3キロほど離れたやぶに監視ポイントを作り、そこから超望遠のデジタル双眼鏡を使って、24時間体制で監視している。
さらに偵察衛星により、屋敷上空からも監視を続けた。パキスタン上空を飛行する偵察衛星は1基しかなかったため、5時間ごとの映像しか得ることができなかったのだが、周辺を飛行する衛星のカメラの角度を変えることで、ほぼ24時間、途切れることなく、映像を撮影することができた。
チャーリーは、街の中に入ってゆき、人々の噂話や動向を観察していた。衛星や偵察チームの監視がハードな情報収集ならば、チャーリーの行っていることは、ソフトな情報収集である。
チャーリーは、箱車を漕いで移動している。それにしても、武装警察の数が多い。アボタバードには、士官学校があるため、その入学式や卒業式には、大統領をはじめとする軍首脳が一斉に集まるため、警備が厳重になることは理解できる。
しかし、今は5月で、卒業式までは、まだ日がある。チャーリーも、それとなく街の住民に、そのことを話題にしてみるが、納得がいく情報を得ることができなかった。
チャーリーには、寺院近くで喫茶店を経営しているワシームとは別に、もう1ヶ所、食べ物を恵んでくれる人がいる。車の交通量が多い、アボタバードのメインストリートで、ザムザム茶や軽食を売っている屋台のオヤジである。
「アッサラーム アレイクム(こんにちは)」。チャーリーは、完璧なウルドゥ語の発音で、オヤジに挨拶した。屋台のオヤジは、「久しぶりだな、どこに行ってた?」。全く警戒心のない態度で、コップにザムザム茶を注ぎ、チャーリーに渡した。
「足が痛むんで、しばらく橋の下で寝ていた。腹が減った。なにか食わせてくれ」。屋台のオヤジは、すぐにヒラマメのシチューを皿に盛って、チャーリーに渡した。チャーリーも遠慮なく食った。
チャーリーは、シチューを平らげると、「さて、始めるか」と、屋台の隣に座り、銭を受ける鉢を置くと、ブツブツとなにか語りだした。
チャーリーが語りだしてから、10分ほど経過すると、チャーリーの周りに人が集まり始め、彼の独り言を聴き始めた。チャーリーが語っているのは、アフガン-パキスタン国境での、ムジャヒディンたちの戦いの様子である。
その話は、戦場の滑稽な話の時もあれば、熱烈なムジャヒディンの感動的な話の場合もある。無論、すべてチャーリーの創作なのだが、人々は、その話を熱心に聞いている。
チャーリーは、アメリカと戦うムジャヒディンたちの勇姿を語ることで人々から銭を得ていた。ちょうど、琵琶法師が平家物語を語るようなものである。チャーリーが、ジハードで負傷し、人にすがって生きてゆくしかない乞食であることも、人々の同情を誘った。
屋台のオヤジが乞食のチャーリーに寛大なのは、彼の話を聞きに来る人々が、屋台でザムザム茶や軽食を買ってくれるからである。
今回の座談も大盛況であった。人々はチャーリーの前に置かれた鉢に、小銭を入れてゆく。鉢は、すぐに銭で一杯になった。
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鋭い殺気を帯びた視線を感じた。恐る恐る、その視線の先を見たとき、チャーリーの背中に冷たいものが流れた。
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