2013年11月20日

ネプチューン・スピアー Neptune spear

ワシントンDC ホワイトハウス
3月某日、面談から会議、式典への出席、ともかく今日も忙しかった。また明日も似たようなスケジュールが続くだろう。おそらく、世界一忙しい人物とは、アメリカ合衆国大統領であろう。

その日、最後の会議を終え、オバマ大統領は、腕時計を見た。すでに夜11時を過ぎていた。大統領執務室へ戻る途中、「次が本日最後の予定の、レオン・パネッタCIA長官とウィリアム・マグレイブ特殊作戦軍司令との面談です」、と秘書官が告げた。

オバマ大統領が執務室に入ると、すでに両人がソファに座り、待っていた。
「グット・アフタヌーン。要件を聞こう」。オバマは、執務机に向かいながら言った。政府首脳間では、挨拶や社交辞令はない。報告と協議、そして決定だけである。

「ビンラディンの件ですが・・」。いつもどおり、CIA長官レオン・パネッタが単刀直入に始めた。
「ついに奴の居場所を突き止めました。その最終作戦について・・」。

しかし、オバマ大統領は、パネッタの発言をさえぎり、
「待て。その話は、この3名でするべきではない。ハイデン副大統領、クリントン国務長官、ゲイツ国防長官も呼ぼう」。すぐに秘書官に命じて、3名を招集した。

3名ともにホワイトハウス周辺にいたため、30分ほどで全員が揃った。5名は、大統領を上座に据えて、ソファに座った。

仕切りなおして、再びパネッタが始めた。
「ついにビンラディンの居場所を突き止めました。今夜は、奴の襲撃作戦についてのご報告です」。
一同に緊張が走った。

「国際テロリスト、オサマ・ビンラディンは、パキスタン北部の田舎町、アボタバードに要塞のような屋敷を作り、潜伏しています。CIAと特殊作戦軍は、襲撃作戦を計画し、準備を整えています」。

「ちょっと待ってください。そのパキスタンの田舎にビンラディンがいるという根拠は何ですか?」 
クリントン国務長官が質問した。その場の誰もが持つ疑問である。

そんなことは議題の中心ではない、と言いたげな表情を見せたが、オバマ大統領もクリントンと同様な顔をしているため、今までの調査の経緯を簡単に説明した。しかし、クリントンは納得した表情を見せずに、
「そうではなくて、その屋敷にビンラディンがいる客観的な証拠、つまり、写真とか映像などがないのですか?」

「奴を直接捉えた映像や写真はありません。奴は用心深く、屋敷内の庭にすら出てきません。しかし、側近と思われる人物が屋敷を出入りしていることや、屋敷の厳重すぎる警戒などを考えると、奴が潜伏しているとか考えられません」。 一座に妙な空気が流れた。

「状況証拠から考えると、つまり、帰納法的に、そこに奴がいるはずだということか・・・」。
ゲイツ国防長官が発言した。パネッタは頷いた。オバマ大統領は、沈黙を守っている。

「具体的に、可能性として何パーセントなんですか?」 今度は、ハイデン副大統領が尋ねた。
「可能性は90パーセント」。パネッタは即答した。
「残り10パーセントは?」 ハイデンが問い返す。
「奴が犬の散歩とか、ファーストフードを食べに外出したとか・・です」。

「パネッタさん、私は真面目に聞いている。CIAは襲撃作戦と簡単に言うが、場所は、アメリカ国内でもなければアフガニスタンでもない。作戦の遂行以前に、外交問題になるんだ。いままで、CIAの先走った行動で、政府がどれだけ苦労したか分かっているのか?」 
ハイデンは、怒気を含んでいった。

パネッタは、こっそりオバマ大統領に了承を得て、さっさと作戦を遂行しようと思っていたため、政府首脳全員を納得させるだけの論拠を持っていなかった。とんだ横槍が入ったと思った。
もう一度仕切りなおしか・・・。そう思ったとき、2日前に、アフガンのカポスから届いた指輪のことを思い出した。

パネッタは、指輪をポケットから取り出すと、
「この指輪は、アボタバードの宝石店で入手したものです。しかし、ただの指輪ではない。サウジの王室に近いものしか持つことを許されない非常に貴重なものです」。
「しかも、この指輪は、あの屋敷から出てきた女性が売りに来たというのです。こんな貴重なものが、あんな田舎で手に入るわけがない」。パネッタは、テーブルの中央に指輪を置いた。

置かれた指輪に、まっさきに手を伸ばしたのは、やはり、女性のクリントン国務長官であった。デザインは、彼女の趣味ではなかったが、そうとう価値があるものであることはわかった。

指輪がその場の各人に回され、オバマ大統領を除く全員が見た。
「つまり・・この指輪の持ち主が、サウジの王室と近い関係を持つビンラディンだという・・・、またしても、状況証拠ということか・・・」。
ハイデン副大統領が、嫌味を込めて言った。

指輪は、オバマ大統領の前に置かれている。オバマは、じっとその指輪を見ている。
上院議員時代、そして大統領になってから、サウジ王族と面談し、その指に収まっている指輪を何度も見ていた。そして、その指輪の裏には、特殊な文様があることも知っていた。大統領は、その指輪を手に取ると、リングの裏を見た。果たして、その文様があった。

「諸君、パネッタ長官の言うとおり、ビンラディンはアボタバードにいるだろう。作戦の詳細を聞こう」。


次回更新は、11月27日「ネプチューン・スピアー」です。
ご意見・ご感想をお待ちしております。


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Posted by 友清仁  at 07:00 │Comments(2)Story(物語)

この記事へのコメント
ひじょうに参考になります!
Posted by Mashiko Air Baseフィールド at 2013年11月21日 22:43
Mashiko Air Baseフィールド さま
コメントありがとうございます。

これから佳境に入りますが、鋭意取り組みたいと思います。
Posted by 友清仁友清仁 at 2013年11月22日 12:18
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