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Posted by ミリタリーブログ  at 

2011年01月19日

タクール・ハーの戦い Takur Ghar 10

2つの赤い斑点は、レンジャー達が隠れている岩場へ向けて、フラフラと近寄ってきた。セルフ大尉とウォーカー軍曹は顔を見合わせたが、答は出なかった。とにかくセルフは、「撃て」。と短くいい、M4のトリガーを引いた。

ウォーカーも呼応するように、斑点に向けて射撃した。すぐに赤い斑点は地面近くに落ち、まったく動かなくなったが、相変わらず不気味に光っていた。ギリアム、デポォーリ軍曹の2名が斑点の下へと近寄ると、驚くべきものを見つけた。

なんと、アメリカ軍の3カラーデザートBDUを着た死体であった。付近には、ナイトビジョンゴーグルが落ちていた。赤い斑点は、ナイトビジョンが反射していたのである。

死体をさらに調べると、胸元には、「Roberts(ロバート)」と刺繍されたネームタグを見つけた。ギリアム、デポォーリ両軍曹の顔が硬直した。俺たちは、味方を撃ち殺してしまったのか・・・。

「大尉、我々は、大変なことをしてしまいました。味方の、ロバート軍曹を撃ち殺してしまいました。赤い斑点は、ナイトビジョンでした」。ギリアム軍曹は、無線で力なく言った。

セルフ大尉は、唇を噛みながら、両軍曹の方向をしばらく見ていたが、「あの状況ならば止むを得ない。射撃命令を出したのは私だ。私が全責任を負う。とにかく今はロバート軍曹の遺体を、この岩場まで運んでくれ」。

しかしセルフ大尉は疑問に思った。ロバート軍曹は、単なる歩兵ではない。厳しい訓練をつんだSealsである。暗闇の中の、敵か味方か分からない銃火に向かってフラフラと歩いてくるだろうか・・・。どんなに負傷して、気が小さくなっていても、敵味方の確認ぐらいはするはずではないか・・・

やがて軍曹たちがロバート軍曹の遺体を持って帰ってきた。セルフ大尉は、せめて顔ぐらいはきれいに拭ってやろうと、ライトを顔に照らした。次の瞬間、岩場にいた全員が驚いた。3カラーのBDUを着ているのは、明らかにアラブ人であった。さらによく見ると、ロバート軍曹のタクティカルベストも着用し、PR-148無線機もベストに収まっていた。

「どうゆうことだ」。セルフ大尉は、混乱した。真っ先に考えたのは、敵の欺瞞工作に引っかかったのではないかということである。つまり、ヘリはどこかに墜落したのかもしれないが、そこにロバート軍曹はいなかった。このBDUと無線は、アルカイダが以前にどこかで入手したもので、アルカイダは、これらを使って偽情報を司令部に送り、応援部隊を要請し、そして現在の状況になっている・・?
 
しかしこれも疑問が残った。仮にロバート軍曹がヘリから落ちたと司令部に連絡が入っても、司令部でも派遣部隊に誰がいるかぐらいは調べるだろう。その時点で偽情報と気づくはずである。

「どうゆうことだ」。セルフはもう1度考えた。しかしどう考えても結論は出なかった。あたりはだんだん明るくなってきた。日が昇れば、レンジャー小隊は白昼にさらされ、敵の一斉攻撃を受けるだろう。危機が迫りつつある。

そのときセルフの脳裏に、士官過程での、教官の言葉がよぎった。「前線の指揮官は、希望や予想で行動してはならん。危機的な状況であるときほど、現状を分析して最良の手段を決定し、部下に命じるのだ」。

セルフ大尉は、ロバート軍曹の無線機を掴むと、「こちらレーザー01のレンジャー小隊。付近にレーザー02のSealsはいるか。応答せよ」。と繰り返した。

山頂を占領するために編成された部隊は2つあったはずである。そのうち1つのレーザー02に乗っていたSealsはどこかにいるはずで、協働すれば、危機を脱出できるとセルフは思ったのである。


次回更新は、1月26日「タクール・ハーの戦い」です。
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Posted by 友清仁  at 07:02Comments(0)Story(物語)