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Posted by ミリタリーブログ  at 

2012年10月31日

死に値すべきもの The worth dying for 3

CH46のパイロット、グレッグ大尉は、機首をタリン・コットのある北東へ向け飛んだ。高度は、わずか100メートルである。これは、ヘリコプターが揚力を得るギリギリの高度である。

高度1000メートルで飛べば、タリバン兵のRPGやスティンガーの攻撃を簡単に避けることができる。しかし、1000メートルまで上昇する時間と燃料がもったいないうえ、空気の薄い高度で飛べば、それだけエンジンに負担がかかり、燃費も悪くなる。

しかし、高度100メートルというのは、RPGどころかAK47の弾丸でさえ届く距離である。万が一、タリバンの歩兵部隊に出くわせば、護衛ヘリコプターのいない救助部隊は、蜂の巣にされるだろう。

夕日に地面を赤く染められたアフガンの砂漠を2機のCH46が猛スピードで突っきってゆく。
「対空レーダー、オフ。ついで地形探査レーダー、オフ」。
グレッグ大尉は、副操縦士に指示した。その命令に副操縦士のシュワイン少尉は、グレックの顔を見た。目はヘルメットのバイザーに隠れて見えないが、信じられないといった表情である。

CH46にも、さほど精度は良くないものの、対空レーダーが取り付けられている。これは、対空ミサイルなどを事前に察知し、回避するためのものである。もちろん、RPGやスティンガーも探知できる。

今回の飛行は、それこそ敵の顔も見えるほどの高度で飛び、地上からのロケット砲攻撃の可能性も十分にある。対空レーダーこそ、唯一の守り神ではないのか?

地形探査レーダーも同様である。このレーダーは、前方の地形を探査し、パイロットにその情報を伝える。パイロットはその情報を元に高度や飛行方法を変える。自動モードにしておけば、ヘリコプターが地表にぶつからないように、勝手に高度を変えてくれる。

地表スレスレを飛行するうえで、これも絶対に必要なレーダーである。なぜ、これらのレーダーを使用しないのか?
シュワイン少尉は、グレックの考えが測りかねた。

グレックは、シュワインの気配に気がついたのか、すぐに答えた。
「レーダーに回す電力があるなら、全て出力に回す」。
なるほど、エンジンがこれらの電子機器の電力を発電する分、出力が落ちる。それすらも節約するということか。

しかし、レーダーを使わないとなると、これからすべてパイロットの目視だけで操縦するということである。RPGなどの攻撃は、正面から放たれたものなら回避可能だろう。しかし、斜め後ろから発射された場合、それこそ乗組員の、この場合、ガンナーやPJたちの目視に頼らねばならないだろう。果たして回避できるのか?

地形レーダーも使用しない。タリン・コットは、山の中のわずかな盆地にある街である。そこに到着するまでにいくつもの山や丘を超えねばならないだろう。通常の飛行なら可能だが、攻撃を受け、それをかわしながらの飛行である。瞬間的な回避飛行ができるだろうか。

「タリバン共が攻撃できないくらいのスピードで飛ぶ。それが安全を確保する最良の手段だ」。
グレックの言葉に、シュワインも納得し、レーダー関連のスイッチを一斉にオフにした。操縦席のコンパネとバイザーから、一斉に表示が消える。次の瞬間、ヘリが、ぐんっと加速した。

バイザー越しに見えるのは、アフガンの砂漠や岩だけである。このまま、一気にタリン・コットまで突っ切る。副操縦士のシュワイン少尉は、ぶるっと、武者震いした。


次回更新は、11月7日「死に値すべきもの」です。お楽しみに。
ご意見・ご感想をお待ちしております。
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Posted by 友清仁  at 07:01Comments(5)Story(物語)

2012年10月24日

死に値すべきもの The worth dying for 2

「実戦に近い訓練だ。気を引き締めてくれ」。
ODB570司令官、ケアンズ少佐は、訓示を締めくくった。訓示が終わるとすぐにパイロットとPJたちはヘリへ走った。「Take Off」。2機のCH46がリノ基地の上空へ飛び立った。

ここで、リノ基地とタリン・コットの位置を確認しておきたい。リノ基地は、カンダハルの南西190キロの位置にあり、タリン・コットはカンダハルのほぼ真北、約120キロの位置にある。つまり、リノ基地からタリン・コットまでは、約220キロ離れている。

CH46の巡航速度が約240km/hであるから、ODB570の救助隊は、1時間未満でタリン・コットに到着できる。救助活動としては、全く問題が内容に思えるが、1つ、重大な要素がある。

それは、タリン・コットから高度医療設備が整っているカブールまでは、さらに240キロ北上しなければならないことである。CH46の標準的な飛行距離が約400キロであることを考えると、燃料を節約し、直線で飛行して、かろうじて到着できる距離である。

しかし、タリン・コットまで最短距離で飛ぼうとすると、タリバンの最後の根拠地であるカンダハルの近くを飛行しなければならない。カンダハルに近づけば、当然、タリバン軍があちこちにいるだろう。

タリバンが、大きな図体をさらしながら飛んでいるCH46を見逃すわけがなく、当然、撃ち落とすべくRPG‐7を放ってくるだろう。前述の飛行距離を考えれば、RPGの回避行動をとったり、欺瞞飛行をしたりする燃料の余裕はない。

つまり、敵に出くわさず、まっすぐタリン・コットへ到着し、そこで負傷者を収容し、続けて同様にカブールまで飛行する必要がある。

「何が実戦に近い訓練だ・・。実戦以上の無茶な飛行だ」。
CH46のパイロット、スティーヴ・グレッグおよびポール・アレグサンダー空軍大尉は、レーダーに映るそれぞれの都市の位置を見て言った。両人とも、これが訓練ではなく、紛れもない実戦であることは十分に理解している。

CH46αのパイロット、グレッグ大尉は、迷うことなく操縦桿をタリン・コットに向け傾けた。βのアレキサンダー大尉も続く。

グレックは、実際のところ、タリバンのRPG‐7の攻撃については、あまり心配していなかった。リノ基地に来てから、飛行中に何度かタリバンからRPGの攻撃を受けたが、いずれも見当違いの方向へ飛んでゆくことが多かったからだ。彼が恐れているのは、かつてアメリカ軍がムジャヒディンに提供した「スティンガー」であった。

スティンガーは、RPG‐7と異なり、赤外線・紫外線シーカーが装備されており、未熟なタリバン兵でも、ひとたび放てば、かなりの確率で命中する。もちろん回避することも可能であるが、今回は燃料の関係で、その退避飛行ができない。

(ソ連のアフガン侵攻時、終始、ソ連軍の航空戦力がムジャヒディンを圧倒していたが、スティンガーがムジャヒィディンに配備されてから、航空機の喪失が跳ね上がった。これがソ連の撤退を決意させた一因となった)

通常は、レーダー装置の充実した戦闘ヘリ「コブラ」が先導して、そのような脅威を排除するのだが、つまらないセクショナリズムのおかげで、護衛ヘリコプターがない。まさに、ないないづくしの命懸けの飛行である。

陽が大きく西に傾き、アフガンの砂漠を紅に染めている。

高度500メートルに達した時点で、副操縦士のマーティ・シュワイン少尉が、
「ご乗機の皆様、本機は、タリン・コット経由カブール行の直行便でございます。途中、機内が大きく揺れることがございますが、ごゆっくりと空の旅をお楽しみください」。と、いつもの調子で、格納エリアに控えるPJたちへ伝えた。

しかし、誰ひとりとして、その冗談を笑うものはいなかった。


次回更新は、10月31日「死に値すべきもの」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:01Comments(0)Story(物語)

2012年10月10日

死に値すべきもの The worth dying for

ODB570指揮官、ロブ・ケアンズ少佐は、通信兵のリー曹長に、CH46ヘリのパイロットとPJたちを集めるように指示し、自分は、再びリノ空港の管制塔の司令部へ向かった。

地面を踏み固めただけの簡易滑走路を横切る。滑走路の端で、今日の日課を終えたと思われる若い海兵隊員が、グローブを丸めたものでキャッチボールをして遊んでいるのが見えた。

ここは紛れもなく戦場なのだが、今日の戦争は局地戦であり、戦闘が行われていないところでは、全くの平和である。あの海兵隊隊員も、ここからわずか220キロ離れたタリン・コットの街で戦闘が行われ、修羅場と化しているなど、全く想像できないだろう。

ケアンズは、再び暑苦しい司令部へ入った。最初に報告してしてから数時間が経過し、日も傾いたせいか、暑さも和らいでいる感じで、司令部はさほど暑く感じなかった。

ケアンズは、マティ海兵少将が詰める司令室に入った。司令室は相変わらず暑かった。しかし、暑くしているのは、気候ではない。その中央に座るマティ少将であることは間違いなかった。

マティは、簡易椅子に座っていた。ケアンズの姿を認めると、明らかに「何だ?」という顔をし、次の瞬間、ケアンズが現れた目的を悟り、ケアンズが発言する前に、「ヘリコプターを飛ばすことは許さん」。と言った。

機先を制されたケアンズ少佐であったが、マティの反応は想定内であったので、発言した。
「本日、17:30より、ODB570のCH46の飛行訓練を行います」。
「却下する」。マティは間髪いれずに言った。

ケアンズは、ひと呼吸おいて、「将軍がなんと言おうと、訓練を行います」。無表情で答えた。
マティの目に怒りの火が灯った。ケアンズは続けた。
「ODB570は、作戦行動に関しては、マティ将軍の指揮下にありますが、日々の運営については、私の統制下にあります。飛行訓練は、私の裁量で実施します」。

「貴様、何を言っているのか分かっているのか」。
マティは椅子から立ちがあり、ケアンズに顔を近づけた。しかし、ケアンズは目を閉じて、マティの顔を見ないようにして、さらに続けた。

「私は、許可を得に来たわけではありません。これは空軍から海兵隊へのご連絡です」。
このケアンズ少佐の発言に、マティ将軍は、すべてを悟った。

ここに、特殊作戦軍の欠点が現れている。
特殊作戦軍とは、作戦の内容や条件に応じて、各軍を縦断して部隊を集めることができ、それぞれの部隊の長所を有機的に運用できることが特徴である。

しかし、指揮命令権とその範囲という点においては曖昧なところがあり、この場合、リノ基地の統制権は、マティ海兵少将にあるものの、ODB570の指揮権は、ケアンズ空軍少佐にあるという「ねじれ」現象が起こっている。

この場合の秩序とは、単に階級の上下でしかない。もちろん、軍隊の慣例で、所属や国籍が違った場合、上級者が下級者への命令権があると解釈されているが、それはあくまで特殊な状況で認められていることである。

リノ基地が攻撃などを受け、危機的な状況であるならば、マティの指揮権も大幅に解釈されるが、現在のように危機的な状況でない場合、それぞれの指揮権が生きており、それが優先される。最初に組織論を持ち出したマティ少将には、ケアンズ少佐の行動を止めることができない。

「よかろう。勝手に訓練でも何でもやるがいい。しかし、海兵隊のコブラは、その訓練には参加しない。ご連絡に感謝する」。
マティ少将の声は、怒りに震えていた。その発言の裏には、救助ヘリの護衛に、海兵隊のコブラを使わせないという意味が込められていた。

ケアンズは司令室を出て、早足でODBの指揮所へ向かった。背後から、マティの罵声が聞こえた。指揮所に戻ると、配下のヘリパイロットやPJが集まっていた。

「諸君、これから救助訓練を行う。非常に実戦に近い訓練だ。気を引き締めてくれ」。
ケアンズは、訓示した。


次回更新は、10月17日ですが、1週お休みして「ハートロック2012のご報告」です。お楽しみに。
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Posted by 友清仁  at 07:01Comments(0)Story(物語)

2012年10月03日

セクショナリズム6 Sectionalism 6

「ケアンズ少佐。カブールのマルホールドランド大佐から無電が入っています。大佐は、直接、話したいそうです」。
ODB570の通信兵のリー軍曹は、自分のインカムをはずすと、ケアンズに渡した。

「ODA574のマルホールドランドだ。状況はわかっていると思う。単刀直入に言う。君の統率下にあるCH46、2機を至急、タリン・コットに派遣してくれ」。

ケアンズは、マルホールドランドの言っている意味も十分に理解できるが、その一方で、マルホールドランドのやっていることは、軍隊組織ではあるまじき行為、つまり、指揮命令権の破壊であることも瞬時に分かった。

「大佐のおっしゃることには無理があります。私は現在、海兵隊マティ将軍の指揮下にあり、マティ将軍の命令でない限り、部隊を動かすことができません」。ケアンズは答えた。

するとすぐに、マルホールドランドは、
「これは命令ではない。あくまでも、「依頼」だ。軍隊内で、物資や要員を融通しあうことはよくあることだ。あまり深刻に考えなくていい」。

「しかし・・・」。ケアンズは言った。
軍人としてのケアンズの考えは、直ちに指揮下のヘリをタリン・コットに向かわせることが正しいと思っている。しかし、軍事官僚として、彼の心を拘束している。

マルホールドランドの言うことは、つまり、マルホールドランドの個人的な依頼を、ケアンズの責任においてやってくれと言っているようなものであり、それを実行した場合、形式的には、よくある物資要員の融通であっても、実質的には、マティ将軍の命令に背くことであり、マティは烈火のごとく怒り、ケアンズを抗命罪で軍法会議にかけるだろう。

軍法会議というものは、軍隊内の裁判機構である。有罪となれば不名誉除隊となり、無罪となっても、その軍人の経歴に大きな傷がつく。

(不名誉除隊とは、日本で言うところの懲戒免職に相当するが、その重さは、それ以上である。例えば、再就職する際には、必ず履歴書にその旨を書かねばならず、軍人OBが会社経営者であることが多いアメリカでは、よほどのことがない限り、雇用されない。その結果、有罪判決を受けた多くが犯罪組織に吸い込まれてゆく)

長年、人事畑にいたマルホールドランドは、ケアンズの心配をすぐに察し、
「君の心配はわかる。そうならないように、私が手配りする」。

軍法会議は、通常の裁判のように起訴状を提出すれば、すぐに開かれるものではなく、開廷が必要かどうか、上官の裁可が必要となる。マティ将軍が開廷を要請した場合、裁可するのはフランクス大将である。マルホールランドは、この申請が却下されるように、フランクスを説得する自信があった。

ケアンズは、沈黙している。彼は、軍隊内の出世には全く興味がないが、自分の能力が発揮できない部署への移動だけは避けたかった。

軍法会議を避けることができても、その手前の査問委員会は避けられないだろう。査問委員会では、状況はなんであれ、「抗命」という事実は曲げられず、ケアンズは閑職に追いやられることは必定である。

「君の心配はわかる。そうならないように、私が手配りする」。マルホールドランドは、再び言った。

査問委員会についても、マルホールドランドには自信があった。確かに委員会は、事件の内容を調査し、処分が必要かどうか決定する。しかし、査問委員会が行うのは、あくまで調査と決定だけで、具体的な処分内容までは決めない。

処分内容を決めるのは、国防省内の人事部門である。だからこそ、長年、人事畑にいたマルホールドランドには、かつての部下やコネクションが豊富にあり、処分が軽くなるように手を回すことは十分に可能であった。

「ケアンズ君、君の上官であるマティは、冷静な判断ができない状態だ。上官の過ちを糺すのも部下の役目だ。頼む。ヘリを飛ばしてくれ」。最後には、マルホールドランドも懇願した。

ケアンズは、大きく深呼吸し、覚悟を決めた。しかし、最低限の手続きは踏まねばならない。
「大佐、5分、時間をください」。ケアンズは無線を切ると、インカムをリー曹長に渡した。


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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(0)Story(物語)