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Posted by ミリタリーブログ  at 

2012年04月25日

タリン・コットの戦い 14 Battle of Tarin Kowt

タリン・コットの街が燃えている。すでにパシュトゥーン人による、タリン・コット防衛軍は四散し、抵抗する勢力はなくなった。そのせいか、銃声もまばらになった。

タリバン司令官、ラービフも遠くで燃えている街を車上から見ている。当初の予定通り、夜明けまでに占領が完了するだろう。久しぶりに新鮮な野菜や肉で作られた朝食が食べられるかもしれない。部下たちも、戦闘が終わったことに安堵しているようだった。

タリバン軍全体が弛緩している状態であった。ラービフも勝利を確信していたが、さすがは司令官である、そんな状態でも戦士しての本能まで緩ませてはいなかった。

周囲が占領後の行動について、(この地方の戦闘では、勝利軍は必ず略奪行為を行い、またそれが許されていた)、いろいろと会話している間に、遠くから甲高い金属音に、ラービフの鼓膜が、かすかに震えた。

「もしや、爆撃機が接近してきている?」。
ラービフは本能的に思った。しかし、すでに空爆を終えているアメリカ軍が、1日どころか、わずか数時間で爆撃機を発進できるはずがないという、経験知も脳裏をかすめた。

すぐに、レーダー員の兵士を呼びつけ、レーダーで確認するように命じた。しかし、すぐには返答がこない。装甲車から取り外したレーダーは、バッテリーの消費が激しいため、空爆が終わるとすぐに電源を切っていた。再び電源を入れても、起動するまでに時間がかかった。
「急げ!」。ラービフは、レーダー兵を急かしたが、こればかりは何ともならなかった。

6機のF-18がタリン・コット上空に到着した。編隊長のアレキサンダー少佐は、眼下のODA574へ到着を告げようと、無線のチャンネルを合わせたが、応答がなかった。

すでに撤退を決定したODA574は、主要な無線機やレーダーを破壊してしまっている。アレキサンダー少佐は、すぐに空母カールビンソンの航空司令部にチャンネルを切り替えた。
「目標上空に到着。レーダーには、街の炎のほかに、道路に数十両の車両と思われるものが見える。空爆指示を待つ」。
ア少佐は、同時にレーダー画像も送った。

「ODA574は、すでに撤退した。周囲にアメリカ軍はいない。空爆目標の選定はそちらに任せる」。
航空管制からの指示であった。

「アレキサンダー機から全僚機へ。目標付近に友軍なし。レーダーの光源、熱源すべてが空爆対象である」。
「敵は密集している。1機ずつ降下して爆撃する。後続機は前の爆破を確認した上で爆撃に入れ」。
アレキサンダー少佐は、操縦桿を傾けると、高度5千メートルから一気に1千メートルまで降下した。

体に強烈なGがかかる。しかし、ア少佐は、冷静にミサイルに目標の情報、つまり車両のエンジンの熱源にカーソルを合わせ、ロックオンを完了した。
「ファイア!」。ミサイルがすぐに発射された。ミサイルの尾から真っ赤な炎が吐き出され、目標に向かって突進した。

ラービフは、戦慄して新月の夜空を見ていた。金属音が次第に大きくなっていた。間違いない。爆撃機が接近している。次の瞬間、上空に真っ赤な炎がきらめき、炎は彗星のように尾を引きながら、一直線に向かってくるのが見えた。

「空爆が来るぞ」。
ラービフは怒鳴ったが遅かった。F-18から放たれたミサイルは、音速で飛来し、あたかも隕石が地球に落下するかのように、紅蓮の炎を引きながらタリバン兵士の車両に命中した。

凄まじい地響きと共に、数十メートルの火柱が4つ、ラービフの目の前に上がった。「ライトを消せ」。ラービフは怒鳴った。すぐに車のライトが消されたが、上空には再び赤い炎が光り、その炎も先と同様に、一直線に向かってくる。

ミサイルは、光源を求めているのではなく、エンジンの熱を感知しているのである。ライトを消したところで何の意味もない。

火柱は何度も上がった。その火をタリン・コットの高所で立て篭るODA574のメンバーたちは、呆然と見ていた。



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Posted by 友清仁  at 07:00Comments(4)Story(物語)

2012年04月18日

タリン・コットの戦い 13 Battle of Tarin Kowt

「空爆がなければ、ソ連軍もアメリカ兵も弱い」。
タリバン司令官、ラービフは再び言った。兵器の質と量に劣るタリバン軍の取る戦法は、hit and ran(強襲撤退)、夜討ち朝駆けといった、白兵戦の奇襲しかない。

その対抗手段として、ソ連軍やアメリカ軍が考え出したのが、ムジャヒディンやタリバンがいそうなところに、集中的に爆弾を投下して、草木一本生えないくらいの更地にしてしまう、空爆であった。

ラービフも、アフガン北東部のパンシジール渓谷の戦いで、ソ連軍の空爆を何度も受けた。しかし、彼は生き残り、そして、ソ連軍の空爆には、ある法則があることに気がついた。
「ソ連軍は戦闘が始まる前に空爆し、そして爆撃機が爆弾を投下してしまうと、その日は再び空爆にやってこない」。

この理由は簡単で、ソ連軍の航空機運用に問題があったためである。当時、ソ連軍が使っていた爆撃機というのは、地上攻撃機のSu-25、大型爆撃機のTu-22などであった。

Su-25は、爆弾の搭載量が250kg爆弾×8と、爆撃機としては少なく、広範囲な爆撃を行う場合、かなりの数を戦闘に投入しなければならなかった。当時、バグラム空軍基地には、120機ほどのSu-25が配備されていたが、大規模な空爆を行うならば、約半数の60機以上を投入しなければならなかった。

60機の一斉運用となると、昔のプロペラ機ならいざ知らず、ジェット機ともなると、事前のメンテナンスなどが大変である。一日に何度もできることではなかった。

Tu-22も、大型爆撃機であるがゆえに運用が大変であった。まず、大きな機体が目立ち、ムジャヒィディンの格好の目標となるため、バグラムには常駐させることができなかった。爆弾を満載した(9t)の大きな機体は、RPG1発で大爆発を起こし、機体だけでなく周辺施設も破壊されてしまう。

そのため、Tu-22は、ソ連国内の基地から飛び立ち、パンシジール渓谷に爆弾を落とし、再びソ連領内に帰る。こちらも1日に何度もできることではなかった。

それゆえタリバン指令ラービフは、タリン・コット攻撃の際も、あちこちに陣地を作り、アメリカ軍の空爆を避けたあと、攻城戦を開始したのだ。

「もう空爆はない。白兵戦となれば、数の多い我々が有利だ」。ラービフは、自信に満ちた声で、兵士たちに言った。兵士たちもその言葉を信じて突撃した。

ラービフを英雄にしたのは、ソ連軍との死闘を生き抜いたことである。そしてその経験を活かし、タリン・コットを攻撃し、その作戦が成功しつつある。彼の名声は、さらに光り輝くものになるだろう・・・

しかし、ラービフの不幸は、先に戦死したウルズガンのルシュディー同様、アメリカ軍を知らなかったことである。20年前のソ連軍と現在のアメリカ軍は、装備の質や戦術などで、隔世の隔たりがあるといってよい。

20年前のソ連軍の戦略戦術は、ある目標に向かって作戦が立てられ、その障害となるものを排除してゆく(戦力の投入など)、ある種の排他的なものだったのに対し、今日のアメリカ軍は、必要なところに必要な戦力を投入するという、オンデマンド的なものに変わっている。

そのため、空母の艦載機の運用も高度に合理化・電子化され、1日に何回でも空爆ができるようになっている。ちなみにアフガン戦初期の2001年から2003年までの通算空爆数は、36,564回で21,737発の爆弾を投下した。

第1陣の空爆の失敗を受けた空母カールビンソンでは、その失敗の原因を考慮して、直ちに兵装を変換して、第2陣を発艦させた。第2陣のF-18の翼の下には、熱感知ホーミングが装備された対地ミサイルが搭載され、あと数分でタリン・コット上空に到着する予定であった。


次回更新は、4月25日「タリン・コットの戦い」(もうちょっと続きます)
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Posted by 友清仁  at 07:01Comments(0)Story(物語)

2012年04月11日

タリン・コットの戦い 12 Battle of Tarin Kowt

炎上する警察署を見て、パシュトゥーン人で構成されるタリン・コット防衛軍は、総崩れとなった。1人が前線から逃げると、2人逃げた。2人逃げると、1部隊が崩れた。恐怖が伝播すると、もはや止めようがない。

「もはや持ちこたえられません。大尉、退却しましょう」。もう一人のCIA工作員、ゼペスが言った。

作戦指揮官のジェンスン大尉も、ゼペスと全く同じ考えなのだが、タリン・コットから撤退すれば、おそらく、この地のパシュトゥーン人たちに過酷な制裁が加えられるだろう。また、戦力がなくなったODA574が元の村に撤退したとしても、タリバン攻撃軍が追撃してくれば、簡単に全滅させられてしまうだろう。

しかし、崩れゆく前線を見てジェイスン大尉も決断せざるを得なかった。ODAのメンバーを招集した。

まず、応援に向かっているクリス少佐には、タリン・コットに着陸するのではなく、2キロほど離れた地点に着陸して待機してもらう。その地点に、ゼペスを護衛につけてカルザイを向かわせ、戦場を脱出する。残りのODA574のメンバーは、タリン・コットに残り、できるだけ時間を稼ぐことにした。

「アメリカ人よ。私のことを忘れてもらっては困るぞ」。
緊迫するなかで、カザフ空挺連隊のアシモフ大佐が言った。アシモフが発言するまでジェイスンはその存在を忘れていた。
「大佐も、カルザイと共にカブールへ脱出してください」。ジェイスンは短く答えた。

「見損なってもらっては困る。戦場で同志を見棄てて逃げたとあっては、故郷の笑いものだ。私も残って戦うぞ」。

ラービフ率いるタリバン軍の銃声が近くなってきた。確実に敵は接近してきている。もはやタリン・コット防衛軍は消滅したといっていい。

「カルザイさん、こちらへ」。
ゼペスが車へ促した。カルザイの顔は、自分も残って戦いたいという意思を表していたが、その一方で、自分の立場も理解しているようで、黙って車に乗り込んだ。すぐにゼペスは車を発進させ、2人は闇の中に消えた。

ジェイスンとペティソリー両大尉は、カルザイを見送ると、ODAのメンバーに振り返り、
「建物に拠って敵を狙撃しろ。各人は弾が無くなり次第、離脱して北を目指せ」。最後の命令は簡単なものだった。各人は、タリン・コットの各地に散った。

「空爆がなければ、アメリカ軍は弱い。アフガンにはアフガンの戦い方があるのだ」。
ラービフは車上の人となり、隣の運転手に言った。夜明けまでには決着がつくだろう。もはや勝利を確信している。

そう、タリバン司令官、ラービフは勝利を確信していた。しかしそれは勝利軍の驕りでもあった。タリン・コットに進撃するタリバン軍は、全くの無防備であった。闇夜の中を進撃軍は、車のヘッドライトを煌煌と灯けて走っていた。


次回更新は、4月18日「タリン・コットの戦い」です。お楽しみ。
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2012年04月04日

タリン・コットの戦い 11 Battle of Tarin Kowt

警察署の2階が大爆発を起こした瞬間、ODA574の全てのメンバーの頭に、カルザイの安否がよぎった。中でもジェイスン大尉は、真っ先に警察署に駆けつけ、未だに炎上する2階へ、階段を駆け上がっていった。

会議室に飛び込むと、中は異常な静寂に包まれていた。RPG-7の直撃を食らったにも関わらず、室内は乱れた様子はなかった。

「カルザイ!」。ジェイスンが叫ぶと、
「おぉ、私はここだ。たいしたケガはないぞ」。と暗闇の中から、カルザイの声が返ってきた。

ジェイスンは、カルザイの無事に安堵するのも束の間、「キャスパーはどこへ行った?」。と尋ねた。
「彼は、機密書類を廃棄するとかで、部屋を出て行った。するとすぐに弾頭が飛んできた」。カルザイは答えながら、壁を指差した。

壁を見ると、大きな穴がポッカリと空き、その向こうでは火災が起こっていた。もしやと思い、ジェイスンが会議室をでて、廊下側の会議室の大穴の辺りまで進むと、足元に変わり果てたキャスパーの遺骸が横たわっていた。キャスパーの遺体は、右腕が根元から吹っ飛び、目は何かを睨むかのようであった。

おそらく、超至近距離から放たれたRPG-7の弾頭は、会議室の薄い壁を貫通したのち、廊下で爆発を起こしたのだろう。それゆえ、会議室には爆風や破片が飛び散らず、カルザイも無事だったのだが、運悪く、廊下に出たキャスパーが直撃弾を喰らってしまった。戦場には、常に生と死が隣り合わせている。

「とにかく、ここは危ない。別のところに移るぞ」。ジェイスンは、カルザイに促した。警察署の地下で司令部と連絡をとっていた、CCTのダン、ウェス、アレックスなども、必要最低限の機材だけを持って付近の家屋に移動した。その間にも、警察署には何発もRPGが撃ち込まれ、その度、大爆発を起こした。

警察署の大爆発は、タリン・コット防衛軍に大きな衝撃をもたらした。ODA574のメンバーよりも、現地で徴用したアフガン人に動揺がひどかった。みな、背後で燃えさかる警察署を見て、南側のタリバン軍に対する射撃がまばらになってしまった。

「それ、敵は動揺しているぞ。今こそ突撃だ」。
タリバン司令官ラービフは、全軍に突撃命令を出した。
ラービフ率いるタリバン軍500名は、一斉に突撃体制に入った。ある者はそのまま街に向かって走り、またある者は、車両に乗り込み、そこから銃を乱射した。

このタイミングの良い攻撃に、タリン・コット防衛軍のアフガン人は、ひたすら銃を乱射するか、前線を棄てて逃げ出す者も現れた。ODAのロニーやゼペスがどんなに督戦しても、一度、ネガティブになった軍隊を立て直すのは難しかった。


科学技術の進んだアメリカ軍の戦い方とは、いかに必要なところに十分な、敵を圧倒する戦力・火力を集中するか、ということに焦点を置いている。

「集中して強打」。これこそがアメリカ軍の戦い方である。

しかし、この戦術は、あくまで戦闘の主導権を握り、能動的に作戦を立てることができる場合のみ成立するのであって、今回のように、打点を自らの判断で選べず、守勢に回るようなことになると、脆くも崩れる。アメリカ軍は、ベトナム戦争以来、守勢に回るような戦争をしたことがない。

それに対し、タリバン軍の戦い方とは、中世の戦い方そのものであり、あくまで敵の弱いところや隙を突いて戦う。

「兵は詭道なり」
戦いは、騙し合いで、いろいろの謀りごとを凝らして、敵の目を欺き、状況いかんでは当初の作戦を変えることによって勝利を収めることができる。

タリン・コット防衛軍は、ODA574の督戦も虚しく、総崩れとなった。


次回更新は、4月11日「タリン・コットの戦い」です。お楽しみに。
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